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第十二章 航空自衛隊 百里基地

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 母とそんなやりとりをした数ヶ月後。私たち夏木一家は予定通り成田へと越した。越した先は成田山のお膝元の住宅街。そんな場所だ。
「ふぅ。これで一段落ね」
 新居での荷ほどきが一通り終わると母はそう言ってため息を吐いた。私や兄と違って母の荷物はものすごい量なのだ。まぁその大半が製図のための道具類なのだけれど。
「パソコンで仕事するんだからドラフターは置いてくれば良かったじゃん」
 私は母が長年愛用している大型の製図台を指でなぞりながらそうぼやいた。このドラフターは相当年季が入っているのだ。おそらく私の生まれる遙か前から母が使っていたものだと思う。
「ダメだよ。これだけは手放せないんだから! ひいおじいちゃんの形見だって知ってるでしょ?」
「それは……。知ってるけど。でも今ほとんど使わないじゃん」
「はぁ……。あのね聖那。これは使う使わないの問題じゃないの。分かる? 前にも言ったけどこのドラフターがなかったらお母さんこの業界入ってないんだからね? だいたいあんたは――」
 ああ、また始まった……。と私は思った。母はこうなると長いのだ。自分の価値観に従わない者は須く悪である。きっと母はそんなはた迷惑な倫理観を持っているのだと思う。自分の信じる正義は真っ直ぐで間違っていない。そんな独善的な正義感。
「分かったよ……。お母さんにはこのドラフターが絶対に必要なんだよね?」
「そう! 必要なの! これがなきゃ私ダメなの」
 母はそう言うとどこか誇らしげにその古びたドラフターに手を添えた。そして文脈を無視するように「……そんなことより聖那は勉強の時間だからね」と言った。言ってることがめちゃくちゃだ。まぁ……。母はいつもこうなのだけれど――。

 それから私は母に言われるがまま勉強タイムに入った。今日の学習メニューは二次関数と図形の証明問題。正直小学六年生がやるような問題ではないと思う。
 でも……。私はそれらの算数、いや数学の問題を淡々と解いていった。自分で言うのもおこがましいけれど学校の勉強は得意なのだ。数学は単にやり方を覚えれば良いだけだし、それ以外の教科に至ってはただの暗記だと思う。
 思えば小さい頃からそうだった。なぜか私は物覚えが他の子供たちより良かったのだ。これまた手前味噌だけれど神童という奴だったのだろう。
 おそらく……。そうなってしまったのは母のせいだと思う。母はあんなでもかなり頭が良いのだ。それこそ高校時代には東北大学に合格確実と言われたほどに。
 ともかく私はそんな母の遺伝子を色濃く受け継いでしまったのだ。顔と体型と頭のデキ。育ってきた環境が違うだけでまるでクローンみたいだと思う。
 それから私は数学ドリルを二〇ページほど熟した。そしてそれが終わるとベッドに身を投げた。これで母に言いつけられた分は終わり。あとは適当に本でも読んでおこうかな? そんな思考が脳内をクルクル回った。我ながら知識欲だけが私のモチベーションなのだ。何かを知り、それを何かに使えないか考え、何か人の役に立つことをする……。それだけが私に充実感を与えてくれる気がする。
 おそらく私はかなり変わった小学生なのだ。まぁ……。あの母の娘なのだからそれは当然なのだけれど――。
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