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第十二章 航空自衛隊 百里基地
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数時間後。私の家に香澄さんが来た。彼女は普段よりかなり大人しめの服装をしていた。長い丈の紺色のワンピースにブラウンのワークブーツ。そんな格好だ。どうやら香澄さんは普段は割とカジュアルな服装を好むらしい。
「急にごめんねぇ」
彼女はそう言うと紙袋を私に差し出した。そして「これ少しだけど」と言ってその紙袋を私の手に握らせた。どうやらわざわざお土産を買ってきてくれたらしい。
「気を遣わないでもいいのに……。ありがとね」
「ううん。これぐらいはさせて。こっちが無理言って押しかけたわけだし」
香澄さんは申し訳なさそうに言うと玄関でワークブーツを器用に脱いだ。そして行儀良く家に上がる。
「いらっしゃい。あら、また可愛らしい子ね」
不意に母がそう言って玄関にやってきた。そして紙袋を見ると「悪いね。気を遣わせちゃって」と香澄さんに会釈した。内心「また食べ物に釣られてる」という気持ちになる。
「こんにちはー。初めまして。鹿島香澄です。いつも聖那さんにはお世話になってます」
「あらあら、ご丁寧にありがとう。鹿島さんね」
母はよそ行きボイスでそう答えるとニッコリ笑った。どうやら香澄さんも母の眼鏡にかなったらしい。
「じゃあ二階行こっか」
「うん。お邪魔しまーす」
それから私たちは自室に向かった。そしてすぐに採寸をした。まぁ採寸といっても今回は簡単だ。弥生さんの衣装の手直し。その程度の作業だと思う。(後からその考えは間違いだったと気づかされるのだけれど)
「それにしても……。よく弥生ちゃんの役の引き継ぎしようって思ったね」
私が弥生さんと同タイプの衣装に袖を通すと香澄さんにそう言われた。
「まぁね……。私も迷ったんだけどさ。でも……。流石に弥生さんの役割を削るのはキツいと思ったんだよね。だってバッファーいないとずっと美鈴さんが動きっぱになるからさ」
「それは……。まぁそうだね」
香澄さんはそう返すと私の隣で立ち膝になった。そして中腰でメジャーをかざした。いつ見ても惚れ惚れする手つきだ。動きに無駄がないし、何より彼女の真剣な表情は……。とても輝いて見える。
「実はね。この衣装は私の最初の作品なんだ」
採寸した寸法をノートに書き込みながら香澄さんが独り言みたいに呟いた。
「そうなの?」
「うん。叔父さんのデザインした服の仕立てなんかは前からずっとやってたんだけどね。自分でデザインしたのはこの衣装が最初」
「そうなんだ……。私はてっきり天沢さんの衣装そのままだと思ってたよ」
「まぁ。そう見えるかもね。でもよく見ると結構違うんだよ? 胸元の装飾は弥生ちゃん仕様で杏子モチーフにしたし、スカートのフリルも違う生地にしたんだ。だから……。今着て貰ってる衣装も聖那ちゃん仕様に改造するつもりだよ。誕生石や誕生花からモチーフ選んだり、聖那ちゃんの好きなもの詰め込んでね」
香澄さんはそう言うとメジャーをするすると巻き込んだ。そして「お疲れ様。じゃあ脱いでいいよ」と言った――。
衣装を脱ぐと今度はアンケートタイムに入った。どうやら香澄さんはこのアンケートを元に衣装の仕立てをするらしくかなり詳細なことまで訊かれた。それこそ生年月日から色の好み。あとは……。好きな食べ物やら好きな男性のタイプまで。やたら突っ込んだ質問までされる。
「好きな犬の犬種は?」
「うーん。ビションフリーゼかな。あのモフモフ感がたまらないんだよね」
「あ、分かるー! 可愛いよね。えーと……。ビションフリーゼが好み、と!」
香澄さんはそんな感じで私の好きなものをノートに書きためていった。正直犬の好みがどう衣装に反映されるか分からないけれど、きっと彼女にとってこの時間は必要なものなのだろう。
「じゃあ最後の質問ね。まぁ……。これは衣装には関係ないんだけど」
香澄さんはそんな風に訊きづらそうに前置きすると「訊いてもいい?」と言った。私は「いいよ」と軽く返す。
「これは……。ただの好奇心なんだけどさ。聖那ちゃんって何で魔法少女になろうって思ったのかなぁって。あ、もちろん言いたくなかったら言わなくても大丈夫だよ」
香澄さんはそう言うと上目遣いになった。その顔は……。かなり可愛い。こんな妹がいたら良いのに。そう思ってしまうほどに。
「ああ……。バイト始めた理由ね」
私はそれだけ返すと一呼吸置いた。そして一瞬間を置いてから口を開いた――。
「急にごめんねぇ」
彼女はそう言うと紙袋を私に差し出した。そして「これ少しだけど」と言ってその紙袋を私の手に握らせた。どうやらわざわざお土産を買ってきてくれたらしい。
「気を遣わないでもいいのに……。ありがとね」
「ううん。これぐらいはさせて。こっちが無理言って押しかけたわけだし」
香澄さんは申し訳なさそうに言うと玄関でワークブーツを器用に脱いだ。そして行儀良く家に上がる。
「いらっしゃい。あら、また可愛らしい子ね」
不意に母がそう言って玄関にやってきた。そして紙袋を見ると「悪いね。気を遣わせちゃって」と香澄さんに会釈した。内心「また食べ物に釣られてる」という気持ちになる。
「こんにちはー。初めまして。鹿島香澄です。いつも聖那さんにはお世話になってます」
「あらあら、ご丁寧にありがとう。鹿島さんね」
母はよそ行きボイスでそう答えるとニッコリ笑った。どうやら香澄さんも母の眼鏡にかなったらしい。
「じゃあ二階行こっか」
「うん。お邪魔しまーす」
それから私たちは自室に向かった。そしてすぐに採寸をした。まぁ採寸といっても今回は簡単だ。弥生さんの衣装の手直し。その程度の作業だと思う。(後からその考えは間違いだったと気づかされるのだけれど)
「それにしても……。よく弥生ちゃんの役の引き継ぎしようって思ったね」
私が弥生さんと同タイプの衣装に袖を通すと香澄さんにそう言われた。
「まぁね……。私も迷ったんだけどさ。でも……。流石に弥生さんの役割を削るのはキツいと思ったんだよね。だってバッファーいないとずっと美鈴さんが動きっぱになるからさ」
「それは……。まぁそうだね」
香澄さんはそう返すと私の隣で立ち膝になった。そして中腰でメジャーをかざした。いつ見ても惚れ惚れする手つきだ。動きに無駄がないし、何より彼女の真剣な表情は……。とても輝いて見える。
「実はね。この衣装は私の最初の作品なんだ」
採寸した寸法をノートに書き込みながら香澄さんが独り言みたいに呟いた。
「そうなの?」
「うん。叔父さんのデザインした服の仕立てなんかは前からずっとやってたんだけどね。自分でデザインしたのはこの衣装が最初」
「そうなんだ……。私はてっきり天沢さんの衣装そのままだと思ってたよ」
「まぁ。そう見えるかもね。でもよく見ると結構違うんだよ? 胸元の装飾は弥生ちゃん仕様で杏子モチーフにしたし、スカートのフリルも違う生地にしたんだ。だから……。今着て貰ってる衣装も聖那ちゃん仕様に改造するつもりだよ。誕生石や誕生花からモチーフ選んだり、聖那ちゃんの好きなもの詰め込んでね」
香澄さんはそう言うとメジャーをするすると巻き込んだ。そして「お疲れ様。じゃあ脱いでいいよ」と言った――。
衣装を脱ぐと今度はアンケートタイムに入った。どうやら香澄さんはこのアンケートを元に衣装の仕立てをするらしくかなり詳細なことまで訊かれた。それこそ生年月日から色の好み。あとは……。好きな食べ物やら好きな男性のタイプまで。やたら突っ込んだ質問までされる。
「好きな犬の犬種は?」
「うーん。ビションフリーゼかな。あのモフモフ感がたまらないんだよね」
「あ、分かるー! 可愛いよね。えーと……。ビションフリーゼが好み、と!」
香澄さんはそんな感じで私の好きなものをノートに書きためていった。正直犬の好みがどう衣装に反映されるか分からないけれど、きっと彼女にとってこの時間は必要なものなのだろう。
「じゃあ最後の質問ね。まぁ……。これは衣装には関係ないんだけど」
香澄さんはそんな風に訊きづらそうに前置きすると「訊いてもいい?」と言った。私は「いいよ」と軽く返す。
「これは……。ただの好奇心なんだけどさ。聖那ちゃんって何で魔法少女になろうって思ったのかなぁって。あ、もちろん言いたくなかったら言わなくても大丈夫だよ」
香澄さんはそう言うと上目遣いになった。その顔は……。かなり可愛い。こんな妹がいたら良いのに。そう思ってしまうほどに。
「ああ……。バイト始めた理由ね」
私はそれだけ返すと一呼吸置いた。そして一瞬間を置いてから口を開いた――。
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