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第十一章 成田国際空港 北ウイング

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 鹿の蔵での食事会を終えると私たち四人は研修所に向かった。今日は幕張にお泊まり。こうして四人全員でお泊まり会するのは初めてだ。
「社長たちすんげー楽しそうだったね」
 寝室に布団を並べながら美鈴さんが少し呆れ気味にそう呟いた。
「そうだね。仕事してないとあの人たちあんな感じなんだよね」
「マジでそうだよね。ま、蔵田店長はいつもと同じだったけど……」
 美鈴さんはそこまで言い掛けて口を噤んだ。そして香澄さんに「いや、悪い意味じゃないよ」と本心がバレバレな言い訳をする。
「アハハ、大丈夫だよ。美鈴ちゃんは叔父さん苦手だもんねぇ。そこまで気を使わないで」
 なんて大人な対応だろう。私はそう思った。やはり香澄さんには美鈴さんの腹の内などお見通しだったらしい。
「ほら! だから言ったでしょ? メイリンは露骨に顔に出るんだから……」
「うっさいなぁー。どうせ私はバカ正直ですよ」
 美鈴さんはばつが悪そうに悪態を吐いた。そしてそんな美鈴さんの変わりに弥生さんが口を開く。
「……ごめんね香澄ちゃん。でもメイリンも蔵田店長のこと本当は信頼はしてるからね」
 弥生さんはフォローを入れるみたいに言うと美鈴さんの臑をを抓った。美鈴さんは「痛ててててて」と大げさなリアクションをした――。

 それから私たちは敷いた布団に潜り込んだ。そして蛍光灯の豆球だけ付けて全員がうつ伏せで横並びになった。まるで修学旅行の夜みたい。そんな語彙力の欠片もない感想を覚える。
「諏訪さん大丈夫かなぁ」
 不意に香澄さんがそう呟いた。それに対して弥生さんが「うん。心配だよね」と返した。この二人にとって諏訪さんの問題は私や美鈴さん以上に他人事ではないのだろう。
「大丈夫じゃね? だって麗子さんあんなでも割と強い人だからね。それに……。今は支えてくれる人もいるみたいだしね」
「……それどこ情報?」
「ん? ああ、本人から訊いたんだ。結構ラブラブっぽいよ? 少なくともスマホの待ち受けにはしてた」
 美鈴さんはサラッと諏訪さんの恥ずかしい事情を話すと「あ、これは内緒ね」と付け加える。
「……だとしても今日の諏訪さんは普通じゃなかったね。なんかあったのかな?」
「うーん……。何かはあったんじゃない? だって普段の麗子さんなら鹿島ちゃんの言ったことぐらい普通に流すと思うしね」
 美鈴さんはそこまで言うと「まぁ麗子さんも色々あんでしょ?」と無理矢理話をまとめた。まぁ……。実際美鈴さんの言うとおりなのだ。本心なんて諏訪さんにしか分からないと思う。
「そういえば……。再来週には私いないけど聖那ちゃんがバッファーになるってことでいいんだよね?」
 諏訪さんの話が途切れると不意に弥生さんにそう訊かれた。私は「うん。そのつもり」と答える。
「そっか……。じゃあ来週中には引き継ぎしなきゃだね。ガンスピンも……。ある程度は覚えて貰わなきゃだし」
 弥生さんはそう言うと目深に布団を被った。そしてそれから程なくして私の意識も遠のいていった――。
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