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第十一章 成田国際空港 北ウイング
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――諏訪さんはそこまで話すと軽いため息を吐いた。そして「そこから先は弥生ちゃんも鹿島さんも知ってるよね?」と続ける。
「ええ……」
弥生さんはそう答えると複雑な表情を浮かべた。そして「私が合流する前にそんなことがあったのは初めて知りましたけど」と続ける。どうやら弥生さんは天沢さんたちの裏事情を今の今まで知らなかったようだ。
「そう……。ごめんなさい。今まで黙ってて。ただ……。どうしても弥生ちゃんには話せなかったんだよね。あなたはあの現場気に入ってるみたいだったから」
諏訪さんはそこまで話すと左目を拭った。そして彼女は拭った左手の甲を一瞬見るとそれを右手で擦った。よく見ると諏訪さんの目には今にもこぼれそうな涙が溜まっている。
「まぁそうですね。確かにあの現場は私にとって特別な場所でした。でも……。まさか椎名さんがそんな感じだったとは思わなかったです」
「そうだよね。あの子は舞台外でも演技が上手かったから。それこそ日常の演技なら天音ちゃんより上だったと思う。でも……。何て言うのかな。椎名さんには温かみがなかったんだよね。天音ちゃんやバネちゃんみたいな役者としての『熱』が本当にない子だったから。まぁ……。デトロイトの現場でそれに気づいてたのは私と天音ちゃん。あとはバネちゃんぐらいだと思う。だって大半のスタッフは『椎名さんは実は良い子』って評価してたんだよ? コロッと騙されてさ」
諏訪さんはそこまで話すと今度は深いため息を吐いた。そのため息は普段事務所で見る諏訪さんが吐いたとは思えないほど憂鬱で、見ているこっちまで気が重くなった。おそらく諏訪さんにとって『アポカリプティックガールズ~終末魔法少女~』はそれほどまでに思い入れのある作品なのだと思う。
「あの、赤羽さんと椎名さんとは……。今でも連絡取り合ったりするんですか?」
弥生さんが恐る恐るそう尋ねる。
「バネちゃんとは今でもよく会うよ。あの子はもう芸能活動廃業してるしね。椎名さんとは……。もうしばらく会ってないかな。それこそあの子が渡米するときに会ったきりだと思う」
「話には訊いてましたけど……。椎名さんはあちらで活動してるんですね」
「そう……。でも今はこっちに戻ってきてるみたいだね。なんか今度また邦画に出るんだってさ。まぁ……。これはバネちゃんから訊いた話なんだけど」
諏訪さんはそこまで話すとハンカチで両目を拭った。そして香澄さんに対して「だから私はそこまで立派な演者じゃないんです。ただただあの二人と椎名さんの顔色覗ってただけで」と言い訳するみたいに言った――。
それから程なくして喫煙組が戻ってきた。その頃には諏訪さんも落ち着きを取り戻して普段の彼女らしい穏やかな顔になっていた。通常営業の諏訪麗子。エレメンタルの有能な社員兼シナリオライター。そんな彼女の職業上の仮面がすっかり戻ってきたようだ。まぁ……。そう見えるだけで彼女の心の内は分からないのだけれど。
ふと香澄さんに目を遣ると彼女はバッグから自身の武器を取り出してそれを眺めていた。かつて諏訪さんが舞台上で握っていた。荊棘姫をモチーフにした二刀一対の剣を。
「ええ……」
弥生さんはそう答えると複雑な表情を浮かべた。そして「私が合流する前にそんなことがあったのは初めて知りましたけど」と続ける。どうやら弥生さんは天沢さんたちの裏事情を今の今まで知らなかったようだ。
「そう……。ごめんなさい。今まで黙ってて。ただ……。どうしても弥生ちゃんには話せなかったんだよね。あなたはあの現場気に入ってるみたいだったから」
諏訪さんはそこまで話すと左目を拭った。そして彼女は拭った左手の甲を一瞬見るとそれを右手で擦った。よく見ると諏訪さんの目には今にもこぼれそうな涙が溜まっている。
「まぁそうですね。確かにあの現場は私にとって特別な場所でした。でも……。まさか椎名さんがそんな感じだったとは思わなかったです」
「そうだよね。あの子は舞台外でも演技が上手かったから。それこそ日常の演技なら天音ちゃんより上だったと思う。でも……。何て言うのかな。椎名さんには温かみがなかったんだよね。天音ちゃんやバネちゃんみたいな役者としての『熱』が本当にない子だったから。まぁ……。デトロイトの現場でそれに気づいてたのは私と天音ちゃん。あとはバネちゃんぐらいだと思う。だって大半のスタッフは『椎名さんは実は良い子』って評価してたんだよ? コロッと騙されてさ」
諏訪さんはそこまで話すと今度は深いため息を吐いた。そのため息は普段事務所で見る諏訪さんが吐いたとは思えないほど憂鬱で、見ているこっちまで気が重くなった。おそらく諏訪さんにとって『アポカリプティックガールズ~終末魔法少女~』はそれほどまでに思い入れのある作品なのだと思う。
「あの、赤羽さんと椎名さんとは……。今でも連絡取り合ったりするんですか?」
弥生さんが恐る恐るそう尋ねる。
「バネちゃんとは今でもよく会うよ。あの子はもう芸能活動廃業してるしね。椎名さんとは……。もうしばらく会ってないかな。それこそあの子が渡米するときに会ったきりだと思う」
「話には訊いてましたけど……。椎名さんはあちらで活動してるんですね」
「そう……。でも今はこっちに戻ってきてるみたいだね。なんか今度また邦画に出るんだってさ。まぁ……。これはバネちゃんから訊いた話なんだけど」
諏訪さんはそこまで話すとハンカチで両目を拭った。そして香澄さんに対して「だから私はそこまで立派な演者じゃないんです。ただただあの二人と椎名さんの顔色覗ってただけで」と言い訳するみたいに言った――。
それから程なくして喫煙組が戻ってきた。その頃には諏訪さんも落ち着きを取り戻して普段の彼女らしい穏やかな顔になっていた。通常営業の諏訪麗子。エレメンタルの有能な社員兼シナリオライター。そんな彼女の職業上の仮面がすっかり戻ってきたようだ。まぁ……。そう見えるだけで彼女の心の内は分からないのだけれど。
ふと香澄さんに目を遣ると彼女はバッグから自身の武器を取り出してそれを眺めていた。かつて諏訪さんが舞台上で握っていた。荊棘姫をモチーフにした二刀一対の剣を。
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