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第十一章 成田国際空港 北ウイング

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 店内ではインザムードが流れていた。良いスピーカーを使っているのかその音はまるで本物のジャズの生演奏みたいに聞こえた。おそらくそれは店内の雰囲気も合わさってそう感じたのだと思う。
 何とはなしに店内を見渡す。すると壁に掛けられたネオン看板が目に入った。さっきはバタバタしていて気がつかなかったけれど、どうやらここはハワイアンダイナーをイメージした店のようだ。原色が目に痛いネオンと古びた看板。そして年期の入った木製の椅子とテーブル。素人目に見てもかなり手の掛かった内装だと思う。
 私がそうやって店内を物色していると椎名さんが「はい」と言ってガーリックシュリンプとサラダを私の皿に取り分けてくれた。
「ありがとう。ごめんね……。取り分けさせちゃって」
「ううん。大丈夫だよ」
 椎名さんはそう言うと横目でチラッとバネちゃんに視線を向けた。そして視線をこちらに戻すと「温かいうちに食べよう」と言った。その様子から察するにやはり椎名さんはバネちゃんを多少警戒しているようだ。
「うーん。未成年じゃなければカクテルとか頼みたかったなぁ」
 天音ちゃんは眉毛をへの字に曲げながら言うとドリンクメニューを私に差し出した。そして「二杯目は好きに頼んでね。ノンアルカクテルもたくさんあるから」と続ける。
「うん。ありがとう」
「三人ともしっかり食べなね。明日からまた屋外ロケで大変なんだから」
 天音ちゃんはまるで母親みたいな言い方をすると自身も大きなお肉を頬張った。思えばこの子はいつも食い意地を張っている気がする――。

 それから私たちはカロリー満点の夕食を堪能した。その店の料理はどれも美味しくて、普段はそこまで食べない私もお腹がぷっくらするほど食べてしまった。まぁ……。そうは言っても天音ちゃんのお腹に比べれば大したことはないと思う。彼女のお腹は……。控えめに言ってパンパンなのだ。これが明日になればきちんとくびれができるのだから身体の構造がおかしいと思う。
「ここ来るとついつい食べちゃうんだよねー」
 天音ちゃんはお腹をさすりながら言うと「ふえぇぇ」と謎の小動物みたいな声を上げた。声……。いや、鳴き声と言った方が近いかも知れない。
「天沢……。そんなんで明日の撮影大丈夫なの?」
「でぇじょぶですよ。私ねぇ。少年漫画の主人公みたいな体質なんだ。だからこんだけ食ってもすーぐに消化しちゃうんだよね」
「ふーん。ま、ならいいけど」
 バネちゃんは呆れながらそう返すとグラスの中のウーロン茶を口に流し込んだ。そして「ふぅ」と小さなため息を吐く。
「みのりん。今日はありがとね。事務所的にはあんまりなのに来てくれてさ」
 少し間を置いて天音ちゃんは椎名さんにそう言って頭を下げた。事務所的には……。その言葉には色んな意味が込められているように聞こえる。
「大丈夫だよ。それに……。私も天沢さんとは一度ゆっくり話したかったんだ。現場だと白峰さんの目もあってなかなかそうもいかなくてさ」
「うん。そうだろうと思ってたよ。あの人はねぇ。結構やり手だよね。ウチの浅間っちも警戒してたし」
 天音ちゃんはそこまで話すと「さて」と言ってスッと立ち上がった。そして「まだ時間あるよね?」と穏やかな口調で言った。
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