154 / 176
第十一章 成田国際空港 北ウイング
40
しおりを挟む
その後。私はどうにか撮影を乗り切った。休憩前までの不調が嘘のようにすんなり決まって逆に拍子抜けするほどだ。
「お疲れ様」
カットが掛かると椎名さんはそう言って私の肩をポンと叩いた。そして「緊張しなければ大丈夫だから」と続ける。
「ありがとう……。うん、そうだよね」
「そうそう。諏訪さん声も良いし台詞回しも丁寧だから心配ないよ」
椎名さんはそう言うとニッコリ笑った。その笑顔はあまりにも綺麗で思わず彼女の悪評を忘れさせるほどだった。でも……。なぜか私はその笑顔に得体の知れない不気味さも同時に感じていた。彼女の綺麗な笑みには天音ちゃんのような天真爛漫さはないのだ。例えるなら……。真っ青な月のような笑顔。天沢天音の太陽のような笑顔とは対極のような存在だと思う――。
それから私たち四人は順調に撮影を終えた。そして撮影が終わるとすぐに天音ちゃんが予約してくれた店に向かった。移動のタクシー内では天音ちゃんとバネちゃんが夫婦漫才みたいにやりとりしている。
「天沢って本当にNG出さないよね」
「まぁね。これでもキャリア長いからねぇ。でも小っさい頃は結構NG出しまくってたよ? だって台詞覚えらんないもん」
天音ちゃんはそう言うと「お姉ちゃんみたいな人になりたいってずっと思ってたよ。だってお姉ちゃんにずっとずっと……。憧れてたんだもん。だからお願い! 置いてかないでぇ」と芝居がかった口調で語り出した。聞き覚えのある台詞だ。確か……。これは彼女のデビュー作の台詞だったと思う。
「ああ、それ『星屑拾いのマナ』の台詞だっけ?」
「そだよー。いやぁ、マジでこれだけなのにあの頃は何回もNG連発でさ! マジでポンコツ子役だよね」
天音ちゃんはそう自虐すると椎名さんに「ま、アレだよ。慣れでどうにかできるようになった感じ」と言って苦笑いを浮かべた。椎名さんはそれに対して「そっか」と素っ気なく返す。
「だからねぇ。みんなすげーなぁって思うんだよね。バネっちはアクション上手いし、麗子ちゃんは演技が丁寧だし、みのりんは……。マジでNG出さないじゃん? 本当に尊敬しちゃうよ。めっちゃリスペクト!」
天音ちゃんはそんな風にノンスップで私たちを褒めちぎると「私も頑張んなきゃだよね」と続けた。でも……。その言葉とは裏腹に彼女以外の三人は全員『いや、あなたが一番すごいから』と思っていたはずだ。まぁ、そこ謙虚なところも含めて彼女の魅力なのだとは思うけれど。
そうこうしているとタクシーは目的地に到着した。
「そういえば天沢さぁ。そろそろ何食うか教えてよ?」
「アレ? 言ってなかったっけ?」
「おいおい……。撮影前に訊いたら『教えてあげなぁーい』とかほざいたのどこのどいつだよ」
「アハハ、そうだったね。ごめんごめん。今日はねぇ。みんなでエビ食べようかなぁって思ってさ。あ! みんな甲殻類大丈夫な民?」
天音ちゃんはそう言うと私たち全員の顔を見渡した。それにしても表情が忙しい子だな。私は改めてそう思った。
「お疲れ様」
カットが掛かると椎名さんはそう言って私の肩をポンと叩いた。そして「緊張しなければ大丈夫だから」と続ける。
「ありがとう……。うん、そうだよね」
「そうそう。諏訪さん声も良いし台詞回しも丁寧だから心配ないよ」
椎名さんはそう言うとニッコリ笑った。その笑顔はあまりにも綺麗で思わず彼女の悪評を忘れさせるほどだった。でも……。なぜか私はその笑顔に得体の知れない不気味さも同時に感じていた。彼女の綺麗な笑みには天音ちゃんのような天真爛漫さはないのだ。例えるなら……。真っ青な月のような笑顔。天沢天音の太陽のような笑顔とは対極のような存在だと思う――。
それから私たち四人は順調に撮影を終えた。そして撮影が終わるとすぐに天音ちゃんが予約してくれた店に向かった。移動のタクシー内では天音ちゃんとバネちゃんが夫婦漫才みたいにやりとりしている。
「天沢って本当にNG出さないよね」
「まぁね。これでもキャリア長いからねぇ。でも小っさい頃は結構NG出しまくってたよ? だって台詞覚えらんないもん」
天音ちゃんはそう言うと「お姉ちゃんみたいな人になりたいってずっと思ってたよ。だってお姉ちゃんにずっとずっと……。憧れてたんだもん。だからお願い! 置いてかないでぇ」と芝居がかった口調で語り出した。聞き覚えのある台詞だ。確か……。これは彼女のデビュー作の台詞だったと思う。
「ああ、それ『星屑拾いのマナ』の台詞だっけ?」
「そだよー。いやぁ、マジでこれだけなのにあの頃は何回もNG連発でさ! マジでポンコツ子役だよね」
天音ちゃんはそう自虐すると椎名さんに「ま、アレだよ。慣れでどうにかできるようになった感じ」と言って苦笑いを浮かべた。椎名さんはそれに対して「そっか」と素っ気なく返す。
「だからねぇ。みんなすげーなぁって思うんだよね。バネっちはアクション上手いし、麗子ちゃんは演技が丁寧だし、みのりんは……。マジでNG出さないじゃん? 本当に尊敬しちゃうよ。めっちゃリスペクト!」
天音ちゃんはそんな風にノンスップで私たちを褒めちぎると「私も頑張んなきゃだよね」と続けた。でも……。その言葉とは裏腹に彼女以外の三人は全員『いや、あなたが一番すごいから』と思っていたはずだ。まぁ、そこ謙虚なところも含めて彼女の魅力なのだとは思うけれど。
そうこうしているとタクシーは目的地に到着した。
「そういえば天沢さぁ。そろそろ何食うか教えてよ?」
「アレ? 言ってなかったっけ?」
「おいおい……。撮影前に訊いたら『教えてあげなぁーい』とかほざいたのどこのどいつだよ」
「アハハ、そうだったね。ごめんごめん。今日はねぇ。みんなでエビ食べようかなぁって思ってさ。あ! みんな甲殻類大丈夫な民?」
天音ちゃんはそう言うと私たち全員の顔を見渡した。それにしても表情が忙しい子だな。私は改めてそう思った。
0
お気に入りに追加
18
あなたにおすすめの小説
Hand in Hand - 二人で進むフィギュアスケート青春小説
宮 都
青春
幼なじみへの気持ちの変化を自覚できずにいた中2の夏。ライバルとの出会いが、少年を未知のスポーツへと向わせた。
美少女と手に手をとって進むその競技の名は、アイスダンス!!
【2022/6/11完結】
その日僕たちの教室は、朝から転校生が来るという噂に落ち着きをなくしていた。帰国子女らしいという情報も入り、誰もがますます転校生への期待を募らせていた。
そんな中でただ一人、果歩(かほ)だけは違っていた。
「制覇、今日は五時からだから。来てね」
隣の席に座る彼女は大きな瞳を輝かせて、にっこりこちらを覗きこんだ。
担任が一人の生徒とともに教室に入ってきた。みんなの目が一斉にそちらに向かった。それでも果歩だけはずっと僕の方を見ていた。
◇
こんな二人の居場所に現れたアメリカ帰りの転校生。少年はアイスダンスをするという彼に強い焦りを感じ、彼と同じ道に飛び込んでいく……
――小説家になろう、カクヨム(別タイトル)にも掲載――
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
ヤマネ姫の幸福論
ふくろう
青春
秋の長野行き中央本線、特急あずさの座席に座る一組の男女。
一見、恋人同士に見えるが、これが最初で最後の二人の旅行になるかもしれない。
彼らは霧ヶ峰高原に、「森の妖精」と呼ばれる小動物の棲み家を訪ね、夢のように楽しい二日間を過ごす。
しかし、運命の時は、刻一刻と迫っていた。
主人公達の恋の行方、霧ヶ峰の生き物のお話に添えて、世界中で愛されてきた好編「幸福論」を交え、お読みいただける方に、少しでも清々しく、優しい気持ちになっていただけますよう、精一杯、書いてます!
どうぞ、よろしくお願いいたします!
古屋さんバイト辞めるって
四宮 あか
ライト文芸
ライト文芸大賞で奨励賞いただきました~。
読んでくださりありがとうございました。
「古屋さんバイト辞めるって」
おしゃれで、明るくて、話しも面白くて、仕事もすぐに覚えた。これからバイトの中心人物にだんだんなっていくのかな? と思った古屋さんはバイトをやめるらしい。
学部は違うけれど同じ大学に通っているからって理由で、石井ミクは古屋さんにバイトを辞めないように説得してと店長に頼まれてしまった。
バイト先でちょろっとしか話したことがないのに、辞めないように説得を頼まれたことで困ってしまった私は……
こういう嫌なタイプが貴方の職場にもいることがあるのではないでしょうか?
表紙の画像はフリー素材サイトの
https://activephotostyle.biz/さまからお借りしました。
猿の内政官 ~天下統一のお助けのお助け~
橋本洋一
歴史・時代
この世が乱れ、国同士が戦う、戦国乱世。
記憶を失くした優しいだけの少年、雲之介(くものすけ)と元今川家の陪々臣(ばいばいしん)で浪人の木下藤吉郎が出会い、二人は尾張の大うつけ、織田信長の元へと足を運ぶ。織田家に仕官した雲之介はやがて内政の才を発揮し、二人の主君にとって無くてはならぬ存在へとなる。
これは、優しさを武器に二人の主君を天下人へと導いた少年の物語
※架空戦記です。史実で死ぬはずの人物が生存したり、歴史が早く進む可能性があります
パーフェクトアンドロイド
ことは
キャラ文芸
アンドロイドが通うレアリティ学園。この学園の生徒たちは、インフィニティブレイン社の実験的試みによって開発されたアンドロイドだ。
だが俺、伏木真人(ふしぎまひと)は、この学園のアンドロイドたちとは決定的に違う。
俺はインフィニティブレイン社との契約で、モニターとしてこの学園に入学した。他の生徒たちを観察し、定期的に校長に報告することになっている。
レアリティ学園の新入生は100名。
そのうちアンドロイドは99名。
つまり俺は、生身の人間だ。
▶︎credit
表紙イラスト おーい

【完結】年収三百万円台のアラサー社畜と総資産三億円以上の仮想通貨「億り人」JKが湾岸タワーマンションで同棲したら
瀬々良木 清
ライト文芸
主人公・宮本剛は、都内で働くごく普通の営業系サラリーマン。いわゆる社畜。
タワーマンションの聖地・豊洲にあるオフィスへ通勤しながらも、自分の給料では絶対に買えない高級マンションたちを見上げながら、夢のない毎日を送っていた。
しかしある日、会社の近所で苦しそうにうずくまる女子高生・常磐理瀬と出会う。理瀬は女子高生ながら仮想通貨への投資で『億り人』となった天才少女だった。
剛の何百倍もの資産を持ち、しかし心はまだ未完成な女子高生である理瀬と、日に日に心が枯れてゆくと感じるアラサー社畜剛が織りなす、ちぐはぐなラブコメディ。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる