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第十一章 成田国際空港 北ウイング
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そんなことがあった翌日の撮影前。天音ちゃんは椎名さんを食事に誘った。
「みっのりーん。撮影終わったらみんなで飯行かない?」
「ご飯?」
「そ、ご飯! 私さぁ。みのりんともっと仲良くなりたくてさ。だからもし時間あるなら行こうよ」
「うーん……。ちょっと待ってね」
椎名さんはそう返すと白峰さんの元へ駆け寄っていった。そして彼女と一言二言話すとすぐにこちらに戻ってきた。おそらくスケジュールを確認してきたのだと思う。
「いいよ。ただ……。明日は朝から仕事だから遅くはなれないけど」
「お、サンキュー! んじゃ決まりね」
天音ちゃんは嬉しそうに答えるとすぐに携帯で今夜行く店に電話を掛けた。そして「すいませーん。今晩七時から予約したいんですが」と言って椎名さんにウィンクする。
そうこうしているとバネちゃんが現場にやってきた。
「ちょっといい?」
バネちゃんはそう言うと私の袖を軽く引っ張った。そして「話したい」と私にだけ聞こえるように言った。
だから私は小さく頷いた。そして静かに現場を離れた――。
「……ったく天沢は本当に頭お花畑なんだから」
現場から少し離れた自販機に着くとバネちゃんはため込んだものを吐き出すみたいにそうぼやいた。そして「なんか飲む?」と言って自販機に五〇〇円玉を入れた。五〇〇円硬貨はチャリンという音を立てて自販機の中に吸い込まれていく。
「ありがとう。じゃあレモンティーにする」
「あいよ」
それからバネちゃんはレモンティーとエナジードリンクのボタンを続けざまに押した。そして出てきたレモンティーを私に差し出すとその場にしゃがみ込む。
「やっぱりバネちゃんは今日の食事会行きたくないんだね?」
私はレモンティーのペットボトルのキャップに力を込めながら彼女にそう尋ねた。バネちゃんは「ん? ああ」と曖昧に返事するとエナジードリンクのプルタブをプシュっと開けた。そしてそれを一気に喉に流し込むと「あー!」と言って口元を拭う。
「つーかさ。今回は天沢が悪いんだよ? あれほど椎名さんには気をつけろって釘刺しといたのに……」
「そっか。でも……。バネちゃんも食事会来るんでしょ?」
「ああ、行くさ。だってもし天沢とレイちゃんだけで行かせたらどうなるか分かったもんじゃないもん。あ、レイちゃんのことは別にそこまで心配してないんだよ? レイちゃんはしっかりしてるから。ただねぇ。天沢は面倒ごとに巻き込まれそうで……」
バネちゃんはそこまでまくし立てると肩をがっくり落とした。そして「共演経験あればアレには近づきたくなくなるんだよ」と続けた。アレ呼ばわり……。基本的にお人好しなバネちゃんの口から出るにしてはあまり穏やかな言葉ではないと思う。
「確か……。バラエティーの企画だっけ? バネちゃんが椎名さんと共演したのって?」
「うん、そうだよ。あんときのメンツは結構濃くてさ。私みたいな半分マルチタレントみたいな役者もいたし、芸人さんもいたんだよね。だからモデルやってるあの子はどこか浮いててさ。別に悪い意味じゃないよ? どっちかって言うと掃きだめに鶴みたいな感じだった」
バネちゃんはそこまで言うと嫌なことを思い出したみたいに目を閉じて首を横に振った。そして続ける。
「でさ。まぁスタジオ収録は問題なかったんだけど問題はロケでね。あの子って男好きなんだよね。だから人が見てないと思って男口説きに行ったりやたら身体さわったりしてたわけよ。……だから正直現場の空気は最悪だった。そりゃそうだよね。八坂プロっつたら天沢の事務所の次ぐらいにでかいところだから誰も文句言えないもん」
「まぁ……。だよね。あの八坂プロモーション……。だもんね」
「そうだよー。ただねぇ……。私もあの頃はまだ世間知らずだったんだよね。あの子に直で文句言っちゃった。で……。それ以来かなり仕事の制限食らってるわけ。最悪だよマジで。ま、言いたいこと言ったから後悔はないけどね」
バネちゃんはそこまで言うと「ふー」とため息を吐いた。そして「だから天沢のこと心配なんだ」とポツリと呟いた。
「みっのりーん。撮影終わったらみんなで飯行かない?」
「ご飯?」
「そ、ご飯! 私さぁ。みのりんともっと仲良くなりたくてさ。だからもし時間あるなら行こうよ」
「うーん……。ちょっと待ってね」
椎名さんはそう返すと白峰さんの元へ駆け寄っていった。そして彼女と一言二言話すとすぐにこちらに戻ってきた。おそらくスケジュールを確認してきたのだと思う。
「いいよ。ただ……。明日は朝から仕事だから遅くはなれないけど」
「お、サンキュー! んじゃ決まりね」
天音ちゃんは嬉しそうに答えるとすぐに携帯で今夜行く店に電話を掛けた。そして「すいませーん。今晩七時から予約したいんですが」と言って椎名さんにウィンクする。
そうこうしているとバネちゃんが現場にやってきた。
「ちょっといい?」
バネちゃんはそう言うと私の袖を軽く引っ張った。そして「話したい」と私にだけ聞こえるように言った。
だから私は小さく頷いた。そして静かに現場を離れた――。
「……ったく天沢は本当に頭お花畑なんだから」
現場から少し離れた自販機に着くとバネちゃんはため込んだものを吐き出すみたいにそうぼやいた。そして「なんか飲む?」と言って自販機に五〇〇円玉を入れた。五〇〇円硬貨はチャリンという音を立てて自販機の中に吸い込まれていく。
「ありがとう。じゃあレモンティーにする」
「あいよ」
それからバネちゃんはレモンティーとエナジードリンクのボタンを続けざまに押した。そして出てきたレモンティーを私に差し出すとその場にしゃがみ込む。
「やっぱりバネちゃんは今日の食事会行きたくないんだね?」
私はレモンティーのペットボトルのキャップに力を込めながら彼女にそう尋ねた。バネちゃんは「ん? ああ」と曖昧に返事するとエナジードリンクのプルタブをプシュっと開けた。そしてそれを一気に喉に流し込むと「あー!」と言って口元を拭う。
「つーかさ。今回は天沢が悪いんだよ? あれほど椎名さんには気をつけろって釘刺しといたのに……」
「そっか。でも……。バネちゃんも食事会来るんでしょ?」
「ああ、行くさ。だってもし天沢とレイちゃんだけで行かせたらどうなるか分かったもんじゃないもん。あ、レイちゃんのことは別にそこまで心配してないんだよ? レイちゃんはしっかりしてるから。ただねぇ。天沢は面倒ごとに巻き込まれそうで……」
バネちゃんはそこまでまくし立てると肩をがっくり落とした。そして「共演経験あればアレには近づきたくなくなるんだよ」と続けた。アレ呼ばわり……。基本的にお人好しなバネちゃんの口から出るにしてはあまり穏やかな言葉ではないと思う。
「確か……。バラエティーの企画だっけ? バネちゃんが椎名さんと共演したのって?」
「うん、そうだよ。あんときのメンツは結構濃くてさ。私みたいな半分マルチタレントみたいな役者もいたし、芸人さんもいたんだよね。だからモデルやってるあの子はどこか浮いててさ。別に悪い意味じゃないよ? どっちかって言うと掃きだめに鶴みたいな感じだった」
バネちゃんはそこまで言うと嫌なことを思い出したみたいに目を閉じて首を横に振った。そして続ける。
「でさ。まぁスタジオ収録は問題なかったんだけど問題はロケでね。あの子って男好きなんだよね。だから人が見てないと思って男口説きに行ったりやたら身体さわったりしてたわけよ。……だから正直現場の空気は最悪だった。そりゃそうだよね。八坂プロっつたら天沢の事務所の次ぐらいにでかいところだから誰も文句言えないもん」
「まぁ……。だよね。あの八坂プロモーション……。だもんね」
「そうだよー。ただねぇ……。私もあの頃はまだ世間知らずだったんだよね。あの子に直で文句言っちゃった。で……。それ以来かなり仕事の制限食らってるわけ。最悪だよマジで。ま、言いたいこと言ったから後悔はないけどね」
バネちゃんはそこまで言うと「ふー」とため息を吐いた。そして「だから天沢のこと心配なんだ」とポツリと呟いた。
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