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第十一章 成田国際空港 北ウイング

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 春日弥生以外との顔合わせを終えてから一週間後。私たちの主演作の撮影が始まった。それは『アポカリプティックガールズ~終末魔法少女~』という作品でダークファンタジー調の魔法少女漫画が原作の作品だった。ちょうどその頃はその手の作品が流行っていたのだと思う。
 私が演じたのはいばら姫をモチーフにした魔法少女で、衣装のデザインも全体的にゴシックロリータのようなデザインだった。手前味噌だけれどなかなか綺麗な衣装だったと思う。まぁ……。私以外の演者たちの衣装のほうがずっと華やかではあったのだけれど。
 そしてそんな中でも天音ちゃんは異彩を放っていたように思う。彼女が着ていたのは絵に描いたようなピンクの魔法少女の衣装だったけれど、天沢天音が着ているというだけでそれは特別なもののように思えた。おそらくそれは彼女の表情や立ち振る舞いひとつひとつがそう見せていたのだと思う。やはり天音ちゃんは役者として天才なのだ。少なくとも私なんかよりはずっと。比べるまでもなくずっと上だと思う。
 だから私は極力彼女の邪魔にならないように演技を熟していった。カメレオンのように空間に溶け込む役者。それが当時の私の役者として生き方だったのだから――。

 撮影が始まってから二ヶ月後。私が自分の役にも慣れた頃の話だ。天音ちゃんに「たまには四人でご飯いかない?」と誘われた。
「四人って……。魔法少女役全員でってこと?」
「そだよー。ほらウチらって親睦会も何もしてこなかったじゃん? だから撮影終わりにでも行ければなーって」
 天音ちゃんはそんな風にあっけらかんと言うと「ちなみにバネっちにはもう声掛けたよ。来るってさ」と続ける。
「私はいいけど……。でも椎名さん来てくれるかな?」
「うーん。そこなんだよねぇ。みのりんっていっつも忙しそうじゃん? なかなかタイミング合わないんだよねー」
 天音ちゃんはそう言うと「ハッ!」と吐き出すようなため息を吐いた。そして「やっぱさぁ。海外ロケやる前に一度お互いの理解深めた方がいいと思うんだよ! あっち行ったらアクションも増えるし、子役の子も入ってくるしね。……あとみのりんって基本役に対してソロプレイだかさ。そろそろ距離詰めときたいんだよね」と続ける。
「……そっか。確かに椎名さんってあんまり私たちと絡まないもんね」
「そうそう! まぁみのりんがウチらと絡みたがらないのも分からなくはないよ? 私もバネっちも役者畑だし、麗子ちゃんだって元々はアイドルオーディション出身じゃん? そりゃモデルさんからしたら絡みづらいと思うんだよね」
 天音ちゃんは口調とは裏腹に妙に核心めいたことを言うと「でもだからこそ仲良くなりたいんだよー」と付け加えた。そこには大人びた考え方と子供じみた『みんな仲良く!』の精神が入り交じっているように感じる。
「……じゃあとりあえず椎名さんに声掛けて見なきゃだね」
「うん! 明日の撮影前にでも声掛けるつもりだよ。だから……。麗子ちゃんも明日の夜は空けといてね」
 天音ちゃんはそう言うと定評のある無邪気な笑みを浮かべた。それはあまりにも眩しくて太陽みたいに見えた。
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