151 / 176
第十一章 成田国際空港 北ウイング
37
しおりを挟む
春日弥生以外との顔合わせを終えてから一週間後。私たちの主演作の撮影が始まった。それは『アポカリプティックガールズ~終末魔法少女~』という作品でダークファンタジー調の魔法少女漫画が原作の作品だった。ちょうどその頃はその手の作品が流行っていたのだと思う。
私が演じたのはいばら姫をモチーフにした魔法少女で、衣装のデザインも全体的にゴシックロリータのようなデザインだった。手前味噌だけれどなかなか綺麗な衣装だったと思う。まぁ……。私以外の演者たちの衣装のほうがずっと華やかではあったのだけれど。
そしてそんな中でも天音ちゃんは異彩を放っていたように思う。彼女が着ていたのは絵に描いたようなピンクの魔法少女の衣装だったけれど、天沢天音が着ているというだけでそれは特別なもののように思えた。おそらくそれは彼女の表情や立ち振る舞いひとつひとつがそう見せていたのだと思う。やはり天音ちゃんは役者として天才なのだ。少なくとも私なんかよりはずっと。比べるまでもなくずっと上だと思う。
だから私は極力彼女の邪魔にならないように演技を熟していった。カメレオンのように空間に溶け込む役者。それが当時の私の役者として生き方だったのだから――。
撮影が始まってから二ヶ月後。私が自分の役にも慣れた頃の話だ。天音ちゃんに「たまには四人でご飯いかない?」と誘われた。
「四人って……。魔法少女役全員でってこと?」
「そだよー。ほらウチらって親睦会も何もしてこなかったじゃん? だから撮影終わりにでも行ければなーって」
天音ちゃんはそんな風にあっけらかんと言うと「ちなみにバネっちにはもう声掛けたよ。来るってさ」と続ける。
「私はいいけど……。でも椎名さん来てくれるかな?」
「うーん。そこなんだよねぇ。みのりんっていっつも忙しそうじゃん? なかなかタイミング合わないんだよねー」
天音ちゃんはそう言うと「ハッ!」と吐き出すようなため息を吐いた。そして「やっぱさぁ。海外ロケやる前に一度お互いの理解深めた方がいいと思うんだよ! あっち行ったらアクションも増えるし、子役の子も入ってくるしね。……あとみのりんって基本役に対してソロプレイだかさ。そろそろ距離詰めときたいんだよね」と続ける。
「……そっか。確かに椎名さんってあんまり私たちと絡まないもんね」
「そうそう! まぁみのりんがウチらと絡みたがらないのも分からなくはないよ? 私もバネっちも役者畑だし、麗子ちゃんだって元々はアイドルオーディション出身じゃん? そりゃモデルさんからしたら絡みづらいと思うんだよね」
天音ちゃんは口調とは裏腹に妙に核心めいたことを言うと「でもだからこそ仲良くなりたいんだよー」と付け加えた。そこには大人びた考え方と子供じみた『みんな仲良く!』の精神が入り交じっているように感じる。
「……じゃあとりあえず椎名さんに声掛けて見なきゃだね」
「うん! 明日の撮影前にでも声掛けるつもりだよ。だから……。麗子ちゃんも明日の夜は空けといてね」
天音ちゃんはそう言うと定評のある無邪気な笑みを浮かべた。それはあまりにも眩しくて太陽みたいに見えた。
私が演じたのはいばら姫をモチーフにした魔法少女で、衣装のデザインも全体的にゴシックロリータのようなデザインだった。手前味噌だけれどなかなか綺麗な衣装だったと思う。まぁ……。私以外の演者たちの衣装のほうがずっと華やかではあったのだけれど。
そしてそんな中でも天音ちゃんは異彩を放っていたように思う。彼女が着ていたのは絵に描いたようなピンクの魔法少女の衣装だったけれど、天沢天音が着ているというだけでそれは特別なもののように思えた。おそらくそれは彼女の表情や立ち振る舞いひとつひとつがそう見せていたのだと思う。やはり天音ちゃんは役者として天才なのだ。少なくとも私なんかよりはずっと。比べるまでもなくずっと上だと思う。
だから私は極力彼女の邪魔にならないように演技を熟していった。カメレオンのように空間に溶け込む役者。それが当時の私の役者として生き方だったのだから――。
撮影が始まってから二ヶ月後。私が自分の役にも慣れた頃の話だ。天音ちゃんに「たまには四人でご飯いかない?」と誘われた。
「四人って……。魔法少女役全員でってこと?」
「そだよー。ほらウチらって親睦会も何もしてこなかったじゃん? だから撮影終わりにでも行ければなーって」
天音ちゃんはそんな風にあっけらかんと言うと「ちなみにバネっちにはもう声掛けたよ。来るってさ」と続ける。
「私はいいけど……。でも椎名さん来てくれるかな?」
「うーん。そこなんだよねぇ。みのりんっていっつも忙しそうじゃん? なかなかタイミング合わないんだよねー」
天音ちゃんはそう言うと「ハッ!」と吐き出すようなため息を吐いた。そして「やっぱさぁ。海外ロケやる前に一度お互いの理解深めた方がいいと思うんだよ! あっち行ったらアクションも増えるし、子役の子も入ってくるしね。……あとみのりんって基本役に対してソロプレイだかさ。そろそろ距離詰めときたいんだよね」と続ける。
「……そっか。確かに椎名さんってあんまり私たちと絡まないもんね」
「そうそう! まぁみのりんがウチらと絡みたがらないのも分からなくはないよ? 私もバネっちも役者畑だし、麗子ちゃんだって元々はアイドルオーディション出身じゃん? そりゃモデルさんからしたら絡みづらいと思うんだよね」
天音ちゃんは口調とは裏腹に妙に核心めいたことを言うと「でもだからこそ仲良くなりたいんだよー」と付け加えた。そこには大人びた考え方と子供じみた『みんな仲良く!』の精神が入り交じっているように感じる。
「……じゃあとりあえず椎名さんに声掛けて見なきゃだね」
「うん! 明日の撮影前にでも声掛けるつもりだよ。だから……。麗子ちゃんも明日の夜は空けといてね」
天音ちゃんはそう言うと定評のある無邪気な笑みを浮かべた。それはあまりにも眩しくて太陽みたいに見えた。
0
お気に入りに追加
18
あなたにおすすめの小説
幕張地下街の縫子少女 ~白いチューリップと画面越しの世界~
海獺屋ぼの
ライト文芸
千葉県千葉市美浜区のとある地下街にある「コスチュームショップUG」でアルバイトする鹿島香澄には自身のファッションブランドを持つという夢があった。そして彼女はその夢を叶えるために日々努力していた。
そんなある日。香澄が通う花見川服飾専修学園(通称花見川高校)でいじめ問題が持ち上がった。そして香澄は図らずもそのいじめの真相に迫ることとなったーー。
前作「日給二万円の週末魔法少女」に登場した鹿島香澄を主役に服飾専門高校内のいじめ問題を描いた青春小説。
ARIA(アリア)
残念パパいのっち
ミステリー
山内亮(やまうちとおる)は内見に出かけたアパートでAR越しに不思議な少女、西園寺雫(さいおんじしずく)と出会う。彼女は自分がAIでこのアパートに閉じ込められていると言うが……
全力でおせっかいさせていただきます。―私はツンで美形な先輩の食事係―
入海月子
青春
佐伯優は高校1年生。カメラが趣味。ある日、高校の屋上で出会った超美形の先輩、久住遥斗にモデルになってもらうかわりに、彼の昼食を用意する約束をした。
遥斗はなぜか学校に住みついていて、衣食は女生徒からもらったものでまかなっていた。その報酬とは遥斗に抱いてもらえるというもの。
本当なの?遥斗が気になって仕方ない優は――。
優が薄幸の遥斗を笑顔にしようと頑張る話です。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?
すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。
翔馬「俺、チャーハン。」
宏斗「俺もー。」
航平「俺、から揚げつけてー。」
優弥「俺はスープ付き。」
みんなガタイがよく、男前。
ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」
慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。
終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。
ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」
保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。
私は子供と一緒に・・・暮らしてる。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
翔馬「おいおい嘘だろ?」
宏斗「子供・・・いたんだ・・。」
航平「いくつん時の子だよ・・・・。」
優弥「マジか・・・。」
消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。
太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。
「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」
「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」
※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。
※感想やコメントは受け付けることができません。
メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。
楽しんでいただけたら嬉しく思います。
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?
すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。
「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」
家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。
「私は母親じゃない・・・!」
そう言って家を飛び出した。
夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。
「何があった?送ってく。」
それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。
「俺と・・・結婚してほしい。」
「!?」
突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。
かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。
そんな彼に、私は想いを返したい。
「俺に・・・全てを見せて。」
苦手意識の強かった『営み』。
彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。
「いあぁぁぁっ・・!!」
「感じやすいんだな・・・。」
※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。
※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。
※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。
それではお楽しみください。すずなり。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる