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第十一章 成田国際空港 北ウイング

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 撮影が終わると椎名さんは「フッ」と吐き出すようなため息を漏らした。そして私の方へ視線を向けると軽くペコリと頭を下げた。反射的に私も頭を下げる。
「お世話になっております。八坂プロモーションの白峰です」
 そうこうしていると椎名さんのマネージャーらしき女性にそう声を掛けられた。
「お世話になっております。伏見エンタープライズの熊野です。お忙しい中お時間作っていただきありがとうございます」
「いえいえ。……では時間も押しておりますのでこちらへどうぞ」
 白峰さんはそう言うとわざとらしく腕時計に視線を落とした。その態度から察するにどうやら彼女は私たちとの顔合わせを本業のついでぐらいにしか思っていないらしい。
 それから私たちはその撮影スペースの端っこにある簡易テーブルで簡単に自己紹介した。そしてそれは酷く冷たい空気の中で行われた。カメラの前であれほど眩しい笑顔を振りまいていた椎名さんはずっと仏頂面で、口調こそ丁寧だけれど、そこに私たちへの敬意のようなものは感じられなかった。おそらく彼女はこの顔合わせに対して消極的なのだ。まぁ……。多忙な撮影の隙間時間に無理矢理予定を突っ込まれたのだから当然だとは思うけれど。
「……では今後ともよろしくお願いします」
 時間にして五分もなかったと思う。軽く挨拶しただけで椎名さんとの初顔合わせは終わってしまった。それはあまりにもあっけなくて少し調子抜けするほどだ。
 でも……。私にはその短い時間で椎名美野里という人間の人となりは分かった気がする。率直に言ってこの子は『ヤバい』のだ。あまり深く関わってはいけない。もし彼女に敵認定されたら……。おそらくかなり嫌な目に遭う。そんな予感がした。
 だから私は『バネちゃんが言ってたはこのことか……』と思った。おそらくバネちゃんも直感的にそれを感じ取ったのだ。あえて月並みな言い方をするならば……。椎名美野里という人間は『女の敵』なのだと思う――。

「お疲れさん。とりあえずこれで主演さんたちとは面識持てたね」
 事務所に戻る車の中で熊野さんにそう言われた。
「お疲れ様です。とりあえず……。ホッとしました」
「アハハ、だよね。ま、あとは来週の撮影頑張ろう」
 熊野さんはそう言うと気が抜けたのか大きな欠伸をした。どうやら彼も今回の顔合わせにはかなり気を遣っていたらしい。
「はい……。ただちょっと不安なんですよね。トラブルなく椎名さんとうまくやれるといいんですが」
「うーん。そうね……。あの子はねぇ。天沢さんとは真逆でトラブル多い子だからね。でも大丈夫だよ! 何かあったら俺がフォローするからさ」
 熊野さんはそう言うと普段の頼りがいのある笑顔を浮かべた。でも……。私には分かってしまった。おそらく熊野さん自身思っているのだ。今回の撮影の鬼門は椎名さんだと言うことを――。
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