148 / 176
第十一章 成田国際空港 北ウイング
34
しおりを挟む
それが私と天沢天音との出会いだった。彼女の第一印象は……。熊野さんの言うとおり本当に普通の子だと思った。普通すぎるぐらい普通。どこにでもいる女子高校生。そんな感じだった。まぁ……。かく言う私もこれと言って特別な女子という訳でもないのだけれど。
「しっかしアレだよね。海外ロケとか段取りめんどいよねぇ」
料理の注文が終わると天音ちゃんは気だるそうに言った。そして「はぁあ」と大げさなため息を吐くと「しかも今回はアメリカとイギリスだよ。飛行機移動たるいって」と続けた。その口ぶりから察するにどうやら彼女は海外ロケの経験があるらしい。
「私は……。初めてだからちょっと楽しみかな。不安もあるけど」
「そっか。まぁ最初はそんな感じだよね。私も初めて飛行機乗ったときはドキドキしたなぁ。マジで離陸んときジェットコースターみたいだしさ。流石に今はもう慣れたけどね」
天音ちゃんはそう言うと肩を小さく竦めた。そして「ハハ」と控えめに笑う。
そうこうしていると注文した料理が運ばれてきた。私の頼んだサンドイッチとミルクティー。そして天音ちゃんが頼んだナポリタンとオムライスとコーラ。そんな喫茶店らしいメニューがテーブルいっぱいに広がる。
「お、旨そうじゃん」
「だねー」
「んじゃ温かいうちに食べちゃおうか。……って温かいの頼んだの私だけだけど」
天音ちゃんは自分自身にそうツッコミを入れると小声でクスクス笑った。その笑顔は最高に可愛くて思わず見とれるほどだった。天才子役天沢天音。思わずそんな言葉が浮かぶほどに――。
それから一時間後。熊野さんが迎えに来てくれた。
「すいません。外してしまって」
「いえいえ。こちらこそお忙しい中ご足労いただいちゃってすいません」
「ハハハ。そう言っていただけると助かります……。では私たちはそろそろ戻りますので」
「はい。では来週の撮影もよろしくお願いします」
天音ちゃんは再びビジネスモードになるとそう言って深々と頭を下げた。どうやら彼女は大人相手だと自動的にこのモードに切り替わるらしい――。
「天沢さんはどうだった?」
喫茶店を出ると熊野さんにそう訊かれた。
「えーと……。すごくいい子だと思いました」
「だよねー。あの子ってそうなんだよ。俺もこの業界結構長いけどあの子の悪い噂聞いたことないもん。まぁ、キャリアが長いだけで威張り散らす奴ばっかの中では珍しいタイプだわな」
「ですよね。本当に気さくで逆に拍子抜けしました」
「ハハハ、まぁ拍子抜けするぐらいが丁度いいかもね。あとは……。赤羽可憐と椎名美野里にも会わなきゃだねー。ある程度は親交深めといた方がレイちゃんもやりやすいだろうからさ」
熊野さんはそう言うと今回の演者リストを小脇に抱えたブリーフケースから取り出した。
「とりあえず演者さんに挨拶して回ろう。今後のこと考えるとそれが大事だからね」
「はい。あの……。ここに書いてある春日弥生ちゃんって『クマさんと二人ぼっち』に出てた子ですか?」
「ああ……。そうだよ。その子はあのドラマに出てた子役だね。ま、その子だけは会うの先になるかな? トライメライの担当さん多忙みたいでさ」
熊野さんはそう言うと「売れっ子子役は大変みたいよ」と付け加える。
「分かりました……。もう時間あんまりないので巻きで挨拶しちゃいましょう」
「だね。レイちゃんには悪いけど頼むわ」
熊野さんはそう言うと穏やかな顔で笑った。この人はいつもこうなのだ。どんな状況でも私を気遣ってくれるし、社内でもかなりのお人好しなのだと思う。
「しっかしアレだよね。海外ロケとか段取りめんどいよねぇ」
料理の注文が終わると天音ちゃんは気だるそうに言った。そして「はぁあ」と大げさなため息を吐くと「しかも今回はアメリカとイギリスだよ。飛行機移動たるいって」と続けた。その口ぶりから察するにどうやら彼女は海外ロケの経験があるらしい。
「私は……。初めてだからちょっと楽しみかな。不安もあるけど」
「そっか。まぁ最初はそんな感じだよね。私も初めて飛行機乗ったときはドキドキしたなぁ。マジで離陸んときジェットコースターみたいだしさ。流石に今はもう慣れたけどね」
天音ちゃんはそう言うと肩を小さく竦めた。そして「ハハ」と控えめに笑う。
そうこうしていると注文した料理が運ばれてきた。私の頼んだサンドイッチとミルクティー。そして天音ちゃんが頼んだナポリタンとオムライスとコーラ。そんな喫茶店らしいメニューがテーブルいっぱいに広がる。
「お、旨そうじゃん」
「だねー」
「んじゃ温かいうちに食べちゃおうか。……って温かいの頼んだの私だけだけど」
天音ちゃんは自分自身にそうツッコミを入れると小声でクスクス笑った。その笑顔は最高に可愛くて思わず見とれるほどだった。天才子役天沢天音。思わずそんな言葉が浮かぶほどに――。
それから一時間後。熊野さんが迎えに来てくれた。
「すいません。外してしまって」
「いえいえ。こちらこそお忙しい中ご足労いただいちゃってすいません」
「ハハハ。そう言っていただけると助かります……。では私たちはそろそろ戻りますので」
「はい。では来週の撮影もよろしくお願いします」
天音ちゃんは再びビジネスモードになるとそう言って深々と頭を下げた。どうやら彼女は大人相手だと自動的にこのモードに切り替わるらしい――。
「天沢さんはどうだった?」
喫茶店を出ると熊野さんにそう訊かれた。
「えーと……。すごくいい子だと思いました」
「だよねー。あの子ってそうなんだよ。俺もこの業界結構長いけどあの子の悪い噂聞いたことないもん。まぁ、キャリアが長いだけで威張り散らす奴ばっかの中では珍しいタイプだわな」
「ですよね。本当に気さくで逆に拍子抜けしました」
「ハハハ、まぁ拍子抜けするぐらいが丁度いいかもね。あとは……。赤羽可憐と椎名美野里にも会わなきゃだねー。ある程度は親交深めといた方がレイちゃんもやりやすいだろうからさ」
熊野さんはそう言うと今回の演者リストを小脇に抱えたブリーフケースから取り出した。
「とりあえず演者さんに挨拶して回ろう。今後のこと考えるとそれが大事だからね」
「はい。あの……。ここに書いてある春日弥生ちゃんって『クマさんと二人ぼっち』に出てた子ですか?」
「ああ……。そうだよ。その子はあのドラマに出てた子役だね。ま、その子だけは会うの先になるかな? トライメライの担当さん多忙みたいでさ」
熊野さんはそう言うと「売れっ子子役は大変みたいよ」と付け加える。
「分かりました……。もう時間あんまりないので巻きで挨拶しちゃいましょう」
「だね。レイちゃんには悪いけど頼むわ」
熊野さんはそう言うと穏やかな顔で笑った。この人はいつもこうなのだ。どんな状況でも私を気遣ってくれるし、社内でもかなりのお人好しなのだと思う。
0
お気に入りに追加
18
あなたにおすすめの小説

ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
眩暈のころ
犬束
現代文学
中学三年生のとき、同じクラスになった近海は、奇妙に大人びていて、印象的な存在感を漂わせる男子だった。
私は、彼ばかり見つめていたが、恋をしているとは絶対に認めなかった。
そんな日々の、記憶と記録。
セーラー服美人女子高生 ライバル同士の一騎討ち
ヒロワークス
ライト文芸
女子高の2年生まで校内一の美女でスポーツも万能だった立花美帆。しかし、3年生になってすぐ、同じ学年に、美帆と並ぶほどの美女でスポーツも万能な逢沢真凛が転校してきた。
クラスは、隣りだったが、春のスポーツ大会と夏の水泳大会でライバル関係が芽生える。
それに加えて、美帆と真凛は、隣りの男子校の俊介に恋をし、どちらが俊介と付き合えるかを競う恋敵でもあった。
そして、秋の体育祭では、美帆と真凛が走り高跳びや100メートル走、騎馬戦で対決!
その結果、放課後の体育館で一騎討ちをすることに。

幕張地下街の縫子少女 ~白いチューリップと画面越しの世界~
海獺屋ぼの
ライト文芸
千葉県千葉市美浜区のとある地下街にある「コスチュームショップUG」でアルバイトする鹿島香澄には自身のファッションブランドを持つという夢があった。そして彼女はその夢を叶えるために日々努力していた。
そんなある日。香澄が通う花見川服飾専修学園(通称花見川高校)でいじめ問題が持ち上がった。そして香澄は図らずもそのいじめの真相に迫ることとなったーー。
前作「日給二万円の週末魔法少女」に登場した鹿島香澄を主役に服飾専門高校内のいじめ問題を描いた青春小説。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる