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第十一章 成田国際空港 北ウイング
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それが私と天沢天音との出会いだった。彼女の第一印象は……。熊野さんの言うとおり本当に普通の子だと思った。普通すぎるぐらい普通。どこにでもいる女子高校生。そんな感じだった。まぁ……。かく言う私もこれと言って特別な女子という訳でもないのだけれど。
「しっかしアレだよね。海外ロケとか段取りめんどいよねぇ」
料理の注文が終わると天音ちゃんは気だるそうに言った。そして「はぁあ」と大げさなため息を吐くと「しかも今回はアメリカとイギリスだよ。飛行機移動たるいって」と続けた。その口ぶりから察するにどうやら彼女は海外ロケの経験があるらしい。
「私は……。初めてだからちょっと楽しみかな。不安もあるけど」
「そっか。まぁ最初はそんな感じだよね。私も初めて飛行機乗ったときはドキドキしたなぁ。マジで離陸んときジェットコースターみたいだしさ。流石に今はもう慣れたけどね」
天音ちゃんはそう言うと肩を小さく竦めた。そして「ハハ」と控えめに笑う。
そうこうしていると注文した料理が運ばれてきた。私の頼んだサンドイッチとミルクティー。そして天音ちゃんが頼んだナポリタンとオムライスとコーラ。そんな喫茶店らしいメニューがテーブルいっぱいに広がる。
「お、旨そうじゃん」
「だねー」
「んじゃ温かいうちに食べちゃおうか。……って温かいの頼んだの私だけだけど」
天音ちゃんは自分自身にそうツッコミを入れると小声でクスクス笑った。その笑顔は最高に可愛くて思わず見とれるほどだった。天才子役天沢天音。思わずそんな言葉が浮かぶほどに――。
それから一時間後。熊野さんが迎えに来てくれた。
「すいません。外してしまって」
「いえいえ。こちらこそお忙しい中ご足労いただいちゃってすいません」
「ハハハ。そう言っていただけると助かります……。では私たちはそろそろ戻りますので」
「はい。では来週の撮影もよろしくお願いします」
天音ちゃんは再びビジネスモードになるとそう言って深々と頭を下げた。どうやら彼女は大人相手だと自動的にこのモードに切り替わるらしい――。
「天沢さんはどうだった?」
喫茶店を出ると熊野さんにそう訊かれた。
「えーと……。すごくいい子だと思いました」
「だよねー。あの子ってそうなんだよ。俺もこの業界結構長いけどあの子の悪い噂聞いたことないもん。まぁ、キャリアが長いだけで威張り散らす奴ばっかの中では珍しいタイプだわな」
「ですよね。本当に気さくで逆に拍子抜けしました」
「ハハハ、まぁ拍子抜けするぐらいが丁度いいかもね。あとは……。赤羽可憐と椎名美野里にも会わなきゃだねー。ある程度は親交深めといた方がレイちゃんもやりやすいだろうからさ」
熊野さんはそう言うと今回の演者リストを小脇に抱えたブリーフケースから取り出した。
「とりあえず演者さんに挨拶して回ろう。今後のこと考えるとそれが大事だからね」
「はい。あの……。ここに書いてある春日弥生ちゃんって『クマさんと二人ぼっち』に出てた子ですか?」
「ああ……。そうだよ。その子はあのドラマに出てた子役だね。ま、その子だけは会うの先になるかな? トライメライの担当さん多忙みたいでさ」
熊野さんはそう言うと「売れっ子子役は大変みたいよ」と付け加える。
「分かりました……。もう時間あんまりないので巻きで挨拶しちゃいましょう」
「だね。レイちゃんには悪いけど頼むわ」
熊野さんはそう言うと穏やかな顔で笑った。この人はいつもこうなのだ。どんな状況でも私を気遣ってくれるし、社内でもかなりのお人好しなのだと思う。
「しっかしアレだよね。海外ロケとか段取りめんどいよねぇ」
料理の注文が終わると天音ちゃんは気だるそうに言った。そして「はぁあ」と大げさなため息を吐くと「しかも今回はアメリカとイギリスだよ。飛行機移動たるいって」と続けた。その口ぶりから察するにどうやら彼女は海外ロケの経験があるらしい。
「私は……。初めてだからちょっと楽しみかな。不安もあるけど」
「そっか。まぁ最初はそんな感じだよね。私も初めて飛行機乗ったときはドキドキしたなぁ。マジで離陸んときジェットコースターみたいだしさ。流石に今はもう慣れたけどね」
天音ちゃんはそう言うと肩を小さく竦めた。そして「ハハ」と控えめに笑う。
そうこうしていると注文した料理が運ばれてきた。私の頼んだサンドイッチとミルクティー。そして天音ちゃんが頼んだナポリタンとオムライスとコーラ。そんな喫茶店らしいメニューがテーブルいっぱいに広がる。
「お、旨そうじゃん」
「だねー」
「んじゃ温かいうちに食べちゃおうか。……って温かいの頼んだの私だけだけど」
天音ちゃんは自分自身にそうツッコミを入れると小声でクスクス笑った。その笑顔は最高に可愛くて思わず見とれるほどだった。天才子役天沢天音。思わずそんな言葉が浮かぶほどに――。
それから一時間後。熊野さんが迎えに来てくれた。
「すいません。外してしまって」
「いえいえ。こちらこそお忙しい中ご足労いただいちゃってすいません」
「ハハハ。そう言っていただけると助かります……。では私たちはそろそろ戻りますので」
「はい。では来週の撮影もよろしくお願いします」
天音ちゃんは再びビジネスモードになるとそう言って深々と頭を下げた。どうやら彼女は大人相手だと自動的にこのモードに切り替わるらしい――。
「天沢さんはどうだった?」
喫茶店を出ると熊野さんにそう訊かれた。
「えーと……。すごくいい子だと思いました」
「だよねー。あの子ってそうなんだよ。俺もこの業界結構長いけどあの子の悪い噂聞いたことないもん。まぁ、キャリアが長いだけで威張り散らす奴ばっかの中では珍しいタイプだわな」
「ですよね。本当に気さくで逆に拍子抜けしました」
「ハハハ、まぁ拍子抜けするぐらいが丁度いいかもね。あとは……。赤羽可憐と椎名美野里にも会わなきゃだねー。ある程度は親交深めといた方がレイちゃんもやりやすいだろうからさ」
熊野さんはそう言うと今回の演者リストを小脇に抱えたブリーフケースから取り出した。
「とりあえず演者さんに挨拶して回ろう。今後のこと考えるとそれが大事だからね」
「はい。あの……。ここに書いてある春日弥生ちゃんって『クマさんと二人ぼっち』に出てた子ですか?」
「ああ……。そうだよ。その子はあのドラマに出てた子役だね。ま、その子だけは会うの先になるかな? トライメライの担当さん多忙みたいでさ」
熊野さんはそう言うと「売れっ子子役は大変みたいよ」と付け加える。
「分かりました……。もう時間あんまりないので巻きで挨拶しちゃいましょう」
「だね。レイちゃんには悪いけど頼むわ」
熊野さんはそう言うと穏やかな顔で笑った。この人はいつもこうなのだ。どんな状況でも私を気遣ってくれるし、社内でもかなりのお人好しなのだと思う。
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