上 下
141 / 176
第十一章 成田国際空港 北ウイング

27

しおりを挟む
 翌日。連日の成田空港公演を終えた私たちは車で幕張に向かっていた。メンバーは週末魔法少女四人と逢川さん。そしてエレメンタルの受付兼事務兼シナリオライターの諏訪さんだ。思えばこうして諏訪さんと一緒に移動するのは初めてだと思う。
「麗子さん珍しいじゃん? せっかくの休みなのにいいの?」
 酒々井PAを過ぎた辺りで美鈴さんが諏訪さんにそう尋ねた。
「大丈夫ですよー。これも業務範囲内ですから」
 諏訪さんはそう返すとルームミラー越しの逢川さんに視線を送った。そして彼に「ですよね?」と問いかける。
「ん? ああ、そうだね」
 逢川さんはどこかとぼけた風に答えるとうなじを掻いた。そして彼はミラー越しの諏訪さんに対して目を細める。
「ふーん。ならいいけどさ。ほら、麗子さんって基本仕事とオフ完全に分ける人じゃん? だから仕事外で付き合うの珍しいなぁーて思ってさ」
「フフッ。確かにそうですね。基本仕事にプライベートは持ち込まない主義なので」
 諏訪さんはそう言うと普段と変わらぬ営業スマイルを作った。それはまるで能面が張り付いたような笑顔で何となく気味悪く見えた。思えば諏訪さんは常にこんな感じなのだ。何事にも卒がない。それはまるで受付マシーンみたいな人だと思う。
「でもまぁ……。今回だけはちょっとだけ羽目外してもいいかもですね。社長たち二人もいらっしゃいますし」
「へ? 普通逆じゃね? 上司いたら気を使いそうだけど」
「フフ。普通はそうかも知れませんね。でも……。私にとってあの二人は親みたいなものですからね。ちょっと気安いんです」
 諏訪さんはそんな風に嬉しそうに鼻を鳴らすと珍しく子供っぽい笑顔になった。おそらくこれが彼女本来の顔なのだと思う――。

 それからしばらく走ると車は高速を降りて千葉市内に入った。そして逢川さんは慣れた調子で幹線道路に合流すると渋滞を避けるようにすぐに脇道に入った。それは彼がこの街を知り尽くしていることを如実に表しているようだ。株式会社オフィス・トライメライ。そのお膝元を。
 そうこうしていると車は見覚えのある通りに出た。
「お、思いのほか早く着いたね。んじゃみんな降りる準備してー」
 逢川さんはそう言うと「ふぅー」と気の抜けたため息を吐いた。そして「社長たち本社にいるかな……」と独り言みたいに呟く。
「逢川さん! 今叔母から連絡入りましたー。『好きな時間に来てください』とのことです」
 香澄さんは少し前屈みになりながら逢川さんにそう伝えた。逢川さんは「うん。鹿島ちゃんありがと」と生返事気味に返した。
しおりを挟む

処理中です...