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第十一章 成田国際空港 北ウイング

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 それから私たちは北ウイングの展望デッキに向かった。興行まであと四時間。昨日リハーサルは済ませたし、まだまだ時間に余裕はあると思う。
「実はお客さん来てるの。たぶんあなたも会ったことあるはずよ」
 出雲社長はそう言うと展望デッキを見渡した。そして展望デッキのベンチに座る女性を見つけると彼女に駆け寄った。
「お疲れ様! 休みなのに朝から悪いね」
 出雲社長がそう声を掛けるとその女性がこちらに振り向いた。確かに会ったことのある人だ。思えばこうして彼女に会うのも三回目だと思う。
「お疲れ様ですー。いえいえ。こちらもちょうど話を詰めたかったので助かります」
 彼女はそう言うとチラッと私に視線を向けた。その表情は相変わらず仕事のできるオンナって感じがする。春川陽子。確か彼女は出雲社長が前にいた会社の社員さんだったと思う。
「あなたもお疲れ様! えーと確か夏木さんだったよね?」
 春川さんはそう言うと口元だけで笑った。絵に描いたような営業スマイル。そんな風に見える。
「はい! 夏木です。下北沢ではお世話になりました」
「ハハハ、こちらこそ。……では出雲社長、例の件についてですが」
 春川さんはそう言うとバッグから何やら資料を取り出した。最近は大人の書類のやりとりばかり見ている気がする――。

 二人が話している間、私は延々と飛行機の群れを眺めていた。JALやANAの機体はあまり見かけない。多いのはLCCの飛行機かな? そんなことを思った。そう考えてしまうほど暇だったのだ。こんなことなら勉強道具でも持ってくれば良かった……。そう思うほどに。
 そんな私を尻目に大人二人は大真面目に話し込んでいた。私のことなど意に介さない。おそらく二人とも真剣なのだ。まぁ……。盗み聞きした内容から察するにどうやら二人が話し合っているのは弥生さんのタレント活動についてらしいのだけれど。
 そうこうしていると桃色のラインの入った飛行機が頭上を飛び去っていった。その桃色はどことなく弥生さんの衣装みたいに見えた。
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