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第十一章 成田国際空港 北ウイング

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 その女性は私たちに向かって小さく手を上げた。そしてそれに対して美鈴さんはペコリと頭を下げた。その様子から察するに二人は知り合いらしい。
「こんにちは。ご無沙汰してます」
「はい、こんにちは。じゃあ案内するわ」
 彼女はそう言うと私たちに着いてくるように促した。そしてその瞬間私はその女性が誰であるかようやく分かった。顔の作りも娘そっくりだし間違いなく弥生さんのお母さんだと思う。
 それから私たちは彼女に連れられて空港のバックヤードに入った。そして会議室のような場所に通されるとそこには弥生さんと空港の男性スタッフの姿があった。どうやら打ち合わせしていたらしく、会議テーブルの上には乱雑に書類が広げられている。
「呼びに行くの遅くなってごめんね。さ、みんな座って」
 弥生さんはそう言って私たちに座るように促した。私たちは促されるまま弥生さんの隣の席に座る。
「じゃあここからは春日さんに交代しますね」
 男性スタッフはそう言うとスッと立ち上がった。そして彼の座っていた席に弥生さんのお母さんが滑り込む。
「では……。簡単に公演の際の注意事項説明しますね」
 弥生さんのお母さんは事務的に前置きすると施設使用に関する注意事項を淡々と語り始めた――。

「――危険物の持ち込みは厳禁です。あとは飲食は所定の位置で行うようにしてください。……以上ですね。何かご質問ありますか?」
 弥生さんのお母さんはそこまで話すと私たち全員を見渡すように視線を上げた。その視線はまるで獲物を狙う狡猾な狐のように見えた。顔の造形自体は弥生さんによく似ているけれど、目だけは明らかに弥生さんの優しい目とは違う気がする。
「……大丈夫だと思います。みんなは? 何か聞きたいことある?」
 弥生さんは他人行儀にそう答えると私たちにも話を振った。私たちは「大丈夫です……」とまるで示し合わせたかのように三人でハモった。おそらく全員が一刻も早くこの地獄みたいな空気から抜け出したかったのだ。弥生さんのお母さんには申し訳ないけれど、正直あまり長時間関わりたい相手ではないと思う。
「そうですか。ではこれで説明は終わりです」
 弥生さんのお母さんはそう言うと音もなく立ち上がった。そして「じゃあ弥生。あとはよろしくね」と言って会議室から出て行った。
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