日給二万円の週末魔法少女 ~夏木聖那と三人の少女~

海獺屋ぼの

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第十一章 成田国際空港 北ウイング

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 家に帰ると思いも寄らぬ人に出迎えられた。夏木昭人。航空自衛官をしている私の兄だ。
「おかえり。バイトお疲れ」
 兄はそう言うと私の手から荷物をさりげなく受け取った。そして思い出したように「あ、ただいま」と付け加える。
「ただいま。お兄ちゃんもおかえり」
 私はそう答えながらスニーカーを脱いだ。そして「もう夏休み?」と続けて質問した。もしかしたら帰省タイミングがずれたのかも知れない。そう思ったのだ。
「ううん。違うよ。今週末だけ休み貰ったんだ。同窓会の通知来てたからね」
 兄はそう言うと私の荷物を抱えたままスタスタとリビングに向かった。私も後から続く。
「そうそう。母さんは出掛けたよ。なんか大宮の現場でトラブルなんだってさ」
「え!? 大丈夫なの?」
「大丈夫なんじゃないかな? 一応さっき電話あって何とかなったって言ってたからね。……でも今日は帰れないってさ」
 兄はそこまで話すとソファーに静かに腰掛けた。そして「聖那はご飯は食べてきたんだよね?」と続ける。
「うん。食べてきたよ。焼肉!」
「焼肉か……。良いもん食べてきたね」
 兄はそう言うとボソッと「焼肉かぁ」と呟いた。おそらく兄の今日の夕飯は質素な食事だったのだと思う――。

 それから私はすぐにお風呂に入った。そしてシャワーで今日一日分の汗を洗い流した。最高に気持ちが良い。ようやく帰ってこられた。そんな気分になる。
 思えば今日はいっぱい移動したな……。シャワーを浴びながらそんなことを思った。二子玉川から下北沢。そして帰りがけには幕張。考えてみればすごい移動距離だったと思う。
 でも……。私はそんな慌ただしい時間を好きになり始めていた。弥生さんと美鈴さんの息の合った掛け合いも。それに乗っかるノリのいい香澄さんも。そしていつも私たちのことを最優先に考えてくれる逢川さんも。さらにバックからさりげなく助けてくれる諏訪さんも。そんな人たちと過ごす時間が私にとって大切なものになっていた。
 おそらく……。いや、きっと私は彼らのことが好きなのだと思う。彼らと過ごす時間が。魔法少女として働く時間が――。かけがえのないものに変わってしまったのだと思う。
 だから私は『これからもずっと四人で魔法少女していたいな』と思った。あれほど恥ずかしかった紫セーラー服もずっと着ていたいと思った。まぁ……。そうは言ってもずっと『少女』ではいられないのだけれど。
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