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第十一章 成田国際空港 北ウイング

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 それから私は美鈴さんのバイクの後ろに乗せられて自宅に戻った。リアシートで感じる風が気持ちいい。短いツーリングだけれどそんなことを思った。おそらく彼女はバイクの運転が上手いのだ。もしかしたら母のミニクーパーの助手席よりいいかも。そう思えるほどに。
「うっし。ここで降りて」
 美鈴さんはそう言うと国道から少し入ったところでバイクを停車させた。私は「うん」と言ってバイクからゆっくり降りる。
「今日は本当にお疲れ様だねぇ。聖那疲れちったでしょ?」
「まぁ……。そうだね。ちょっと疲れたかな」
「だよねー。私も帰ったら速攻シャワー浴びて寝るわ。明日は休みだしね」
 美鈴さんはそう言うとバイクに跨がったまま大きく背伸びした。そして「そういえばさぁ」と言って左目を擦る。
「逢川さんから話聞けて良かったねぇ。たぶん逢川さんも話せてスッキリしたと思うよ」
 美鈴さんはそう言うとバイクのタンクを両手で軽くポンポンと叩いた。思わず私は「え? 起きてたの?」と聞き返す。
「うん。途中からだけどね。いやぁ、せっかく逢川さんが話してるのに水差すの嫌でさ。ずっと狸寝入りしてたよ」
 美鈴さんはそう言うと今度は大あくびした。そして続ける。
「瑞穂さんもねぇ。本当は逢川さんのこと好きなんだと思うよ? で、両親の手前嫌いなフリしてるだけみたいな……。ま、これは私と弥生が勝手にそう思ってるだけなんだけどさ」
「……そっか。瑞穂さんからは逢川さんのこと何か聞いてる?」
「いんや。訊いてないかな。ま、基本的に瑞穂さんと会うときは逢川さんもいるからねぇ。なかなか本心聞き出す時間取れなくてさ」
 美鈴さんはそこまで話すと私からヘルメットを受け取った。そしてそれを器用にリュックに仕舞うと「ま、そのうち訊いてみるさ」と言ってバイクのアクセルを軽く回した――。

 それから程なくして美鈴さんは帰っていった。そして彼女がいなくなると急に辺りが静かになった。実際成田の夜はこんな感じなのだ。国道沿いとはいえやはり田舎なのだと思う。
 だから私はその静けさを感じながら短い帰り道を歩いた。虫の声さえしない。そんな静寂の中を。
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