上 下
106 / 176
第十章 下北線路外空き地

13

しおりを挟む
 その週の土曜日。母の予告通り妹が幕張の俺のマンションにやってきた。そして瑞穂は部屋に入るなり「お兄ちゃんの部屋なんか臭い」と悪態を吐いた。我が妹ながらなかなか口が悪い。まぁ普段から室内で喫煙しているので言われても仕方がないのだけれど。
「おふくろと親父は旅行か?」
「うん! 何かねぇ。有馬温泉に行くんだってさ!」
「そうか……」
 俺はそれだけ返すと瑞穂を来客用の四畳半間(普段は物置部屋)に案内した。そして部屋に入ると瑞穂は案の定「超狭いんですけど」と悪態を吐いた。妹を預かって早々これじゃ先が思いやられるな……。と内心思う。
「一泊だけなんだから我慢しろ。あとは……。遊びに行ってもいいけど夕方六時までには帰ってくること! いいな?」
「……分かってるよ」
 瑞穂は不満げにそう言うとリュックから着替えを取り出して荷物の整理を始めた。そして妹はそれを眺めている俺に対して「変態! 出てってよ」と言った。ここ俺の家なんだけど……。と内心イラッとする。まぁ言い返したところで喚き散らされるだけなので黙って部屋からは出たのだけれど――。

 それから俺はリビングでパソコンを立ち上げた。そして仕事に取り掛かった。一応完全オフな日ではあるけれど、多少は来週の準備を進めておきたい。こうやって週末にちょこちょこ仕事すると後が楽なのだ。当日現場であたふたしないで済むならこれぐらいどうってことないと思う。
「お兄ちゃーん。出掛けてきていい?」
 俺が仕事に集中し始めた頃。瑞穂がそう言って四畳半間から顔を覗かせた。その顔はバッチリメイクされている。中学一年生にして恐ろしくケバケバしいメイク……。おそらく訊く前から出掛ける気満々なのだろう。
「ああ、いいよ。門限だけ守れよ」
 俺はそれだけ返すと再びパソコンに視線を戻した。瑞穂は「じゃあ行ってくるね」とだけ言うと出掛けていった――。 
しおりを挟む

処理中です...