日給二万円の週末魔法少女 ~夏木聖那と三人の少女~

海獺屋ぼの

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第十章 下北線路外空き地

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 焼肉パーティーを終えると私たちは香澄さんを送るために幕張に向かった。そして逢川さんの運転する車が首都高に乗る頃には美鈴さんと弥生さんは寝息を立て始めた。二人とも今日は色々あったので疲れたのだと思う。
「あーあ、ベテラン二人は寝ちまったか」
 逢川さんは呆れ気味に言うと「フッ」と笑った。そこには少しだけ保護者っぽさが滲んで見える。
「今日は色々ありましたからねぇ。特に……。弥生さんは疲れたんだと思います」
「そっか。……夏木ちゃんは大丈夫なんかい?」
「ええ、私は大丈夫です。何て言うか……。移動中は眠れない体質なんですよね」
「そうなんだ。いや……。夏木ちゃんって二人みたいに騒がしくないから体力残ってるのかと思ってたよ」
 逢川さんはそう言うと「この二人はたまにうっせぇからさ」と続ける。
「あー! 逢川さん! そんなこと言っていいんですかぁ? 美鈴ちゃん怒っちゃいますよ?」
 香澄さんはそう言うと「二人が起きたら言っちゃおうかなぁ」と少し戯けた。意地悪な言い方をする香澄さんって可愛いな……。と内心思う。
「おいおい鹿島ちゃん……。勘弁してくれよ」
「フフッ。まぁ冗談です。でも二人とも一生懸命なんですから『賑やか』って言ってあげた方が角が立たないと思いますよ?」
「……ああ、そうだね。んじゃ訂正するよ。酒々井組の二人は『賑やか』だ」
 逢川さんはそう言うと苦笑いした。どうやら逢川さんより香澄さんの方が少しだけ上手らしい――。

 それから私たちは声のトーンを落として今日の反省会をした。参加者は魔法少女の新人二名と逢川さんだけ。ベテランの二人は相変わらず寝息を立てている。いや……。寝息を立てているのは弥生さんだけだ。美鈴さんは寝息どころじゃない。これは完璧にいびきだと思う。
「――諏訪さんのシナリオ通りに動けたとは思います。ただやっぱり弥生ちゃんのフォローがないとたどたどしく見えちゃうと思うんですよね。なので次回からはもう少し台詞回しにも気を配りたいです」
「うん、そうだね。ま、初回だから今回は問題ないけど次からはもう少し立ち回り考えた方が良くなるかな? 夏木ちゃんもここ数回の間に随分と良くなったし、鹿島ちゃんも数を熟せばちゃんとできるようになると思うよ」
「はい、ありがとうございます! 次はもっと余裕を持って演技できるように頑張ります」
 ――香澄さんと逢川さんはそんな風に大真面目に反省会をしていた。まぁ私も「ヒーラーとして目立ちすぎずに雑魚戦を見せ場に頑張ります」くらいは言ったのだけれど。
「あ! そう言えば聖那ちゃんあのこと聞いてみたら?」
 不意に香澄さんにそんなことを言われた。一瞬『あのこと?』と疑問が浮かぶ。そしてすぐに思い当たった。逢川瑞穂……。彼女のことだと。
「あの……。逢川さん、プライベートなことなんですが聞いても良いですか?」
「ん? ああ、いいよ。何だい?」
 逢川さんはそう言うと胸ポケットからタバコを取り出して口にくわえた。気がつくと車は京葉道に入っていた――。
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