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第九章 カワウソカフェ KOTSUME
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それから一週間後の土曜日。私たちは二子玉川を訪れていた。理由は……。カワウソカフェに行くため。我ながら何でこうなってしまったのかと思うような理由だ。
「ちょっと弥生落ち着きなって!」
二子玉川駅の改札を出ると美鈴さんがそう言って弥生さんを宥めた。そして「そんなに気ぃ張ったら夕方まで持たないよ」と弥生さんを軽く小突く。
「そ、そ、そうだね。うん! 大丈夫、大丈夫」
弥生さんはまるで大丈夫じゃないみたいに言うとその場で大げさに深呼吸した。ここまで取り乱す弥生さんを見るのは知り合ってから初めてかも知れない。
「それで聖那? カワウソカフェはどこにあるの?」
「えーと。ちょっと待ってね。地図見てみるから」
私はそう答えるとスマホの地図アプリを開いた――。
「弥生さん大丈夫?」
カワウソカフェに向かう道すがら、私は弥生さんにそう声を掛けた。
「……大丈夫。だいぶ落ち着いたから」
弥生さんはそう返すと「取り乱してごめんね」と言って謝った。どうやら少しは落ち着いてくれたらしい。
「……ったく! 弥生は篠田さんのことになると毎回こうだよね。推しの漫画家さんってのは分かるけどさぁ」
美鈴さんは少し皮肉っぽく言うと路上の小石を軽く蹴っ飛ばした。そして「ま、いいけどさ」と呆れながらため息を吐いた。どうやら美鈴さん的にはこの状態の弥生さんが面倒くさくてたまらないらしい。
「ごめんね美鈴さんまで付き合わせちゃって……。本当は仕事夕方からなのに」
「ん? いや、別に聖那はぜんっぜん悪くないから気にしないで。てか私もカワウソちゃんには会いたいんだよね! ぜってー可愛いじゃん? 私何気に小動物好きなんだよねぇ」
美鈴さんはそう言うと「ふふん」と嬉しそうに鼻を鳴らした。
「だよね! ちっちゃい生き物って可愛いよねぇ」
「そうそう! ウチもさぁ。親父が許してくれれば猫くらい飼いたいんだけどさ。親父的には工場やってると厳しいみたいなんだよねぇ」
美鈴さんは残念そうに言うと上を見上げて「あーあ」とため息を吐いた。どうやら美鈴さんも私と同じくらいちっこい生き物に目がないらしい。
私たちがそんな話をしている横で弥生さんはずっと俯いていた。これから憧れの漫画家に会える。彼女はそれを噛みしめているようだ。
「ちょっと弥生落ち着きなって!」
二子玉川駅の改札を出ると美鈴さんがそう言って弥生さんを宥めた。そして「そんなに気ぃ張ったら夕方まで持たないよ」と弥生さんを軽く小突く。
「そ、そ、そうだね。うん! 大丈夫、大丈夫」
弥生さんはまるで大丈夫じゃないみたいに言うとその場で大げさに深呼吸した。ここまで取り乱す弥生さんを見るのは知り合ってから初めてかも知れない。
「それで聖那? カワウソカフェはどこにあるの?」
「えーと。ちょっと待ってね。地図見てみるから」
私はそう答えるとスマホの地図アプリを開いた――。
「弥生さん大丈夫?」
カワウソカフェに向かう道すがら、私は弥生さんにそう声を掛けた。
「……大丈夫。だいぶ落ち着いたから」
弥生さんはそう返すと「取り乱してごめんね」と言って謝った。どうやら少しは落ち着いてくれたらしい。
「……ったく! 弥生は篠田さんのことになると毎回こうだよね。推しの漫画家さんってのは分かるけどさぁ」
美鈴さんは少し皮肉っぽく言うと路上の小石を軽く蹴っ飛ばした。そして「ま、いいけどさ」と呆れながらため息を吐いた。どうやら美鈴さん的にはこの状態の弥生さんが面倒くさくてたまらないらしい。
「ごめんね美鈴さんまで付き合わせちゃって……。本当は仕事夕方からなのに」
「ん? いや、別に聖那はぜんっぜん悪くないから気にしないで。てか私もカワウソちゃんには会いたいんだよね! ぜってー可愛いじゃん? 私何気に小動物好きなんだよねぇ」
美鈴さんはそう言うと「ふふん」と嬉しそうに鼻を鳴らした。
「だよね! ちっちゃい生き物って可愛いよねぇ」
「そうそう! ウチもさぁ。親父が許してくれれば猫くらい飼いたいんだけどさ。親父的には工場やってると厳しいみたいなんだよねぇ」
美鈴さんは残念そうに言うと上を見上げて「あーあ」とため息を吐いた。どうやら美鈴さんも私と同じくらいちっこい生き物に目がないらしい。
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