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第九章 カワウソカフェ KOTSUME

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 それから私たちは自宅に戻った。そして戻ると美鈴さんは浴衣を脱いで「ちょっと預かってもいい? ちゃんと洗って返したいんだ」と言った。その発言に美鈴さんの不器用なまでの実直さが表れているように感じる。
「いいよいいよ。どうせ私のも洗濯するからさ」
「……そっか。じゃあお言葉に甘えちゃおうかな。あんがとね」
 美鈴さんはそう言うと脱いだ浴衣を几帳面に折り畳む。
「そういえば……。今日は弥生さん幕張に泊まりって言ってたよね?」
「ああ、そうだね。たぶん研修所に泊まってんじゃない? 一応昔はあそこがあの子の家だったしね」
 美鈴さんはそう言うと「前はあそこで社長と仲良く暮らしてたんだけどねぇ」と付け加えた。
「やっぱりそうだったんだね。何となくそんな気はしてたけど……」
「うん、だからねぇ。研修所は弥生にとっては第二の家みたいなもんなんだよね。まぁ……。今となってはもう社長と隣同士で寝たりはしないんだろうけど」
 美鈴さんはどこか寂しげに言うと首を大きく横に振った。そこには『また二人が仲良くなれれば良いのに』という思いが込められているように感じた――。

 それから程なくして美鈴さんは帰っていった。そして彼女がいなくなると急に部屋が広くなったように感じた。さっきまであんなに賑やかだったのに……。と妙に寂しく感じる。
 だから私はその寂しさを紛らわすために可愛い動物の動画を見ることにした。可愛い毛むくじゃらはいつだって私を癒やしてくれるのだ。特にマンチカンの子猫を見ているととても幸せな気持ちになれる気がする。
 思えば私はずっと毛の生えた可愛い生き物が好きだった。豆芝だとかマンチカンだとかチンチラだとか……。そんな小動物たちが愛しくてたまらない。まぁ……。母が趣味で飼っている熱帯魚のせいでウチは猫系を飼うことは叶わないのだけれど。
 そんなことを考えながらひたすら動物動画を見ていると動画投稿サイトのタイムラインにカワウソの動画を見つけた。動画のタイトルは『二子玉川のアイドル! カワウソメイドのチェリーちゃん』と表示されていた。チェリーちゃん……。私の記憶が正しければ篠田さんの飼っているカワウソもそんな名前だった気がする。
 だから私は軽い気持ちでその動画を再生してみた。もしかしたらこの動画のカワウソが篠田さんのペットなのかも……。そう思ったのだ。
 そして動画の再生が始まるとすぐにピンクのメイド服姿のカワウソが美味しそうに小魚を食べる様子が映し出された。天才カワウソのチェリーちゃん。なんて可愛いんだろう。私はこの手の可愛いものには本当に弱いのだ。
 私がそうやって天才カワウソのチェリーちゃんに魅了されていると玄関に車が停まる気配がした。どうやら母が帰ってきたらしい。
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