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第八章 成田山新勝寺 表参道
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「いやぁ。マジで美味かったよ! 聖那きっと良いお嫁さんになれるわ」
食事を終えると美鈴さんにそんな昭和のおじさんみたいなことを言われた。
「いえいえ。お粗末様でした。口に合ったみたいで良かったよ」
私はそう答えるとすぐに食器を流しへ持って行った。そしてシンクの洗い桶の中にそれをダイブさせた。今から楽しい皿洗いタイムだ。
「あ! 洗い物ぐらいは手伝うよ。いつもウチでは聖那たちにやってもらってるしね」
美鈴さんはそう言うとウサギみたいにピョンと立ち上がった。そして腕まくりすると「洗っちゃお」と言った――。
それから私たちは横に並んで一緒に皿洗いをした。私が水洗い、美鈴さんが拭き上げ。そんな分担作業だ。
「料理もバイトんときと一緒だよねぇ。私が特攻隊で弥生がサポ、そんで聖那が救護班みたいな」
美鈴さんは皿を拭きながらそんなよく分からない例え話をした。そして「協力プレイって良いよね」と続ける。
「だねえ。みんなで手分けしてやると楽しいよね」
「そそ! 本当にそうなんだよー! だからマジで聖那が加わってくれて良かったよ! あんがとね」
美鈴さんは私から皿を受け取りながら恥ずかしげもなくそんなことを言った。基本的に美鈴さんは正直でストレートなのだ。良くも悪くも真っ直ぐ過ぎると思うけれど――。
「今日も弥生幕張にお泊まりだってさ」
皿洗いが終わると不意に美鈴さんはそんなことを言った。
「そうなの?」
「うん。……ほら、さっき出雲社長迎え来てたじゃん? ああなるとだいたい夜は幕張なんだよね」
美鈴さんはどこか不満げに言うと両手を上げて大きく背伸びをした。そして続ける。
「ったく。あの二人は素直じゃないんだよねぇ。本当はお互いに大事な癖に気を遣ってばっかでさぁ」
「……なんかギクシャクしてるっぽいもんね」
「そうそう! 弥生もガキなんだよ。一〇年前のこといつまでも気にしてんだから……」
美鈴さんはそこまで話すと「ふぅ」とため息を吐いた。そして「まぁ、弥生の気持ちも分かるけどさ」と言い訳みたいに付け加えた――。
それから私たちはリビングでしばらくとりとめのない話をした。こうして美鈴さんと二人きりで話すのは久しぶりな気がする。
「聖那さぁ。私のことも呼び捨てで良いんだよ? 『美鈴さん』ってなんかむず痒くてさ」
不意に美鈴さんにそんなことを言われた。
「うん……。もうちょっと慣れたらそうするよ」
「そっか……。ま、良いんだけどね! ほら、私ばっか『聖那!』って呼び捨てにすんのもアレだと思ってさ」
美鈴さんはそう言うと照れ隠しするみたいにうなじを掻いた。おそらく美鈴さん的には私が心を開ききっていないように見えるのだと思う。
「ごめんね。あんまり呼び捨てとか慣れてなくてさ……。実は学校でもだいたいみんな名字にさん付けで呼んでるんだよね」
「そうなん? 私はてっきりバイト先だから気を使ってるのかと思ってたよ」
「気は……。そこまで使ってないかな。どっちかって言うとこの方が慣れてるってだけだからさ」
私はそこまで話すと言い訳みたいに「だからもうちょっとだけ待っててね」と続けた。おそらく美鈴さんのことはそう遠くない未来に呼び捨てになるだろうなぁ……。と心の中だけで呟いた――。
食事を終えると美鈴さんにそんな昭和のおじさんみたいなことを言われた。
「いえいえ。お粗末様でした。口に合ったみたいで良かったよ」
私はそう答えるとすぐに食器を流しへ持って行った。そしてシンクの洗い桶の中にそれをダイブさせた。今から楽しい皿洗いタイムだ。
「あ! 洗い物ぐらいは手伝うよ。いつもウチでは聖那たちにやってもらってるしね」
美鈴さんはそう言うとウサギみたいにピョンと立ち上がった。そして腕まくりすると「洗っちゃお」と言った――。
それから私たちは横に並んで一緒に皿洗いをした。私が水洗い、美鈴さんが拭き上げ。そんな分担作業だ。
「料理もバイトんときと一緒だよねぇ。私が特攻隊で弥生がサポ、そんで聖那が救護班みたいな」
美鈴さんは皿を拭きながらそんなよく分からない例え話をした。そして「協力プレイって良いよね」と続ける。
「だねえ。みんなで手分けしてやると楽しいよね」
「そそ! 本当にそうなんだよー! だからマジで聖那が加わってくれて良かったよ! あんがとね」
美鈴さんは私から皿を受け取りながら恥ずかしげもなくそんなことを言った。基本的に美鈴さんは正直でストレートなのだ。良くも悪くも真っ直ぐ過ぎると思うけれど――。
「今日も弥生幕張にお泊まりだってさ」
皿洗いが終わると不意に美鈴さんはそんなことを言った。
「そうなの?」
「うん。……ほら、さっき出雲社長迎え来てたじゃん? ああなるとだいたい夜は幕張なんだよね」
美鈴さんはどこか不満げに言うと両手を上げて大きく背伸びをした。そして続ける。
「ったく。あの二人は素直じゃないんだよねぇ。本当はお互いに大事な癖に気を遣ってばっかでさぁ」
「……なんかギクシャクしてるっぽいもんね」
「そうそう! 弥生もガキなんだよ。一〇年前のこといつまでも気にしてんだから……」
美鈴さんはそこまで話すと「ふぅ」とため息を吐いた。そして「まぁ、弥生の気持ちも分かるけどさ」と言い訳みたいに付け加えた――。
それから私たちはリビングでしばらくとりとめのない話をした。こうして美鈴さんと二人きりで話すのは久しぶりな気がする。
「聖那さぁ。私のことも呼び捨てで良いんだよ? 『美鈴さん』ってなんかむず痒くてさ」
不意に美鈴さんにそんなことを言われた。
「うん……。もうちょっと慣れたらそうするよ」
「そっか……。ま、良いんだけどね! ほら、私ばっか『聖那!』って呼び捨てにすんのもアレだと思ってさ」
美鈴さんはそう言うと照れ隠しするみたいにうなじを掻いた。おそらく美鈴さん的には私が心を開ききっていないように見えるのだと思う。
「ごめんね。あんまり呼び捨てとか慣れてなくてさ……。実は学校でもだいたいみんな名字にさん付けで呼んでるんだよね」
「そうなん? 私はてっきりバイト先だから気を使ってるのかと思ってたよ」
「気は……。そこまで使ってないかな。どっちかって言うとこの方が慣れてるってだけだからさ」
私はそこまで話すと言い訳みたいに「だからもうちょっとだけ待っててね」と続けた。おそらく美鈴さんのことはそう遠くない未来に呼び捨てになるだろうなぁ……。と心の中だけで呟いた――。
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