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第八章 成田山新勝寺 表参道

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 それから私たちは日報を書いた。内容は今日の興行の所感と反省。まぁそこまで難しいことではない。要は学級日誌と同じだ。
 そして日報を書き終えると私たちはすぐに事務所を出た。これで今日の魔法少女はおしまい。事務所を出るとそんな気分になった――。
 
 事務所を出ると美鈴さんに「飯どうする?」と聞かれた。最近は毎週末こうして一緒に外食している気がする。まぁ……。その外食の半分は美鈴さんの家でご馳走になっているのだけれど。
「そうだね……。たまにはウチ来ない? 今日はお母さん久々に出張なんだ。来てくれたらなんか作るからさ」
「そうなん? 週末に出張とか珍しいね」
「うん。なんか埼玉のお客さんで週末しか時間取れない人なんだってさ。それで帰り遅くなるみたいなんだよね」
「そっかぁ。……うん! じゃあ久しぶりに聖那んち遊び行こっか!」
 美鈴さんはそう言うと私にヘルメットを差し出してバイクに跨がった。こうして彼女のバイクの後ろに乗せて貰うのにもすっかり慣れた気がする――。
 
 それから私たちは通い慣れた道を成田方面に向かって走った。酒々井と成田を繋ぐように走る国道五一号線。思えば私はこの道路を毎週末走っている気がする。
 信号で止まると私の右足首にバイクのマフラーの余熱が伝わった。そして走り出すとすぐにその熱は風にかき消された。その感覚が妙に気持ち良くて私は停車するたび、無意味に右足をマフラーの横でぶらぶらさせた。我ながら子供みたいなことをしていると思う。
 そんな私の無駄な動きをミラー越しに見て美鈴さんは「フッ」と小さく鼻を鳴らした。ちょっと呆れられたかな? と少し恥ずかしくなる。
 そうこうしていると国道沿いの新勝寺の入り口に差し掛かった。そこには見慣れた『成田山』と書かれたゲートと夏祭りを告げる真新しい看板が立っていた――。

 それから程なくして自宅に到着した。そして玄関の鍵を開けると美鈴さんをリビングに通した。壁の温度計は三五度を指している。流石に暑すぎる。すぐに冷やさないと熱中症になりそうだ。
「あっちぃーね」
 美鈴さんはそう言うと手で顔を仰いだ。彼女の額には玉のような汗が滲んでいた――。
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