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第七章 水郷会児童福祉施設 あけぼし

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 それから程なくして弥生さんが来た。メガネと青い目を隠すためのカラーコンタクト。あとはノースリーブのシャツにデニム。彼女はそんなラフな格好に着替えていた。ついさっきまでのピンクヒラヒラ魔法少女だったのが嘘のようだ。
「聖那ちゃん大丈夫だった!? 怪我とかしてない!?」
 弥生さんは部屋に入ってすぐにそう言って私の元に駆け寄ってきた。私は「大丈夫だよ。ごめんね……。心配掛けて」と咄嗟に答える。
「そう……。なら良かったよ」
 弥生さんは安心したのか、気が抜けたように言うとその場に座り込んだ。そして美鈴さんから流れるようにオレンジジュースを受け取る。
「貧血だったみたい……。お医者さんに鉄分取れって言われたからね。今度からこうならないように気をつけるよ」
「そっか……。まぁ何事もないなら良かったよ。……こっちこそごめんね。昨日の今日だもん疲れちゃったよね」
 弥生さんはそう言うと安堵とも後悔とも取れるようなため息を吐いた。
「んで? 弥生の今日のお仕事は無事終わったん?」
 不意に美鈴さんがへたり込む弥生さんにそう尋ねた。弥生さんは「えーとね」と一呼吸置いてからうなじを掻いて話を続ける。
「うん。一応は目標達成かな? 悪くはなかったと思うよ。あとは……。熱田さんと職員さんがどうにかしてくれるでしょ」
「そっかそっか。んじゃ! とりあえず今日は大成功ってことで良い?」
「そうだね。成功で……。良いと思う。メイリン、聖那ちゃん、香澄ちゃんあんがとね」
 弥生さんはそう言うとホッとしたような笑みを浮かべた。笑みの裏には隠しきれない疲労の色が浮かんでいた――。
 
「父ちゃーん! メシ屋まで乗っけてってくんない?」
 一階に降りると美鈴さんは彼女のお父さんにそう声を掛けた。彼は「ああ、いいよ」と一つ返事で答えた。美鈴さんのお父さんは作業中だったらしく顔と手に黒ずみのような汚れが滲んでいる。
「メシ屋までで良いのか? 帰りは?」
「帰りは逢川さんに送って貰うから大丈夫! だから悪いんだけど行きだけよろしくー」
「あいよ!」
 美鈴さんのお父さんはそう返事するとガレージの奥に消えていった。どうやらオートサービス香取の自家用車は整備工場の裏手にあるらしい。
 美鈴さんの家を裏口から外に出るとそこにはシルバーのステーションワゴンが停まっていた。その車の運転席側のドアには『プロのマシンメンテナンス オートサービス香取』と書かれていた。どうやらこの車は営業車らしい。
「みんな乗っちゃっていいよー!」
 美鈴さんはそう言うとその車の助手席に乗り込んだ。私たちも促されるまま後部座席に乗り込む。
「んで? どこ行きたいんだ?」
「そうだね……。んじゃ京成成田駅近くで降ろして! そっから適当に探すから」
「あいよ」
 香取親子はそんなやりとりをすると車を発進させた。京成成田駅……。私の家の最寄り駅だ――。
 
 京成成田駅に着くと私たちは美鈴さんのお父さんにお礼を言って車を降りた。美鈴さんは降り掛けに「一〇時までには帰るよ」と彼に声を掛けてから助手席のドアを閉める。
「あいよ。あんまり遅くなんなよぉ」
 美鈴さんのお父さんは美鈴さんにそう言うと私たちにも「君らもね」と付け加えて帰って行った。良いお父さんだな……。と少し羨ましく感じる。
「おじさんやっぱ若いね」
 車が見えなくなると不意に弥生さんがそう呟いた。
「そう? 普通だよ普通! そりゃまだ三一だから若いっちゃ若いけどさ……。年相応だと思うよ」
「いやいや……。服が作業着だからアレだけど同世代の男よりずっと若く見えるって! ……ていうかおじさんカッコイイよね」
 弥生さんはそう言うと少しうっとりした顔になった。その様子に私と香澄さんは思わず顔を見合わせる。そして互いに頷いた。言葉は交わさない。『あまり触れない方が良さそうだね』と無言で伝え合うだけだ。
 でも……。そんなことお構いなしに美鈴さんはあっけらかんと口を開いた。
「ハハハ! マジで弥生の好みってわかんねーわ。あんなオッサンのどこが良いんだか」
 美鈴さんはそう言って弥生さんを軽く小突いた。どうやら当事者の美鈴さん的にはこのことはあまり問題ではないらしい。
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