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第七章 水郷会児童福祉施設 あけぼし
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それから私たちはエメレンタルに向かった。そしてエレメンタルに着くと美鈴さんだけ降ろして、私と香澄さんはそのままオートサービス香取まで乗せていって貰った。バックミラー越しに美鈴さんのヘルメットを被る姿が見える。そういえば朝は美鈴さんエレメンタルまで来てたんだっけ……。とそんなことを思い出した。気分的には数日前のことのように感じるけれど……。
「んじゃ今日は夏木さんお疲れ様でした」
オートサービス香取に着くとそう言って逢川さんは車を停めた。そして「言い忘れてたけど給料日は月末だからよろしくね」と付け加えた。どうやら給料は日払いで貰えるわけではないらしい。
「はい! ……逢川さん今日はすいませんでした」
「ん? ああ、大丈夫だよ。気にしないで。お大事にしてね」
逢川さんはそう言うと私たちに降りるように促した。そして運転席側のウィンドウを開けて着いたばかりの美鈴さんに「明日は休みね」と伝えると車を発進させた――。
「あーあ、づがれだー!」
美鈴さんは自室に入るとそう言ってベッドにダイブした。そして彼女の身体はベッドのスプリングに跳ね返されて二、三回バインバインと跳ねた。ちょっと楽しそうだな……。と内心思う。
「お疲れ様ぁ。やっぱり美鈴ちゃんの殺陣ってカッコいいねぇ。久しぶりに見たけどすごかったよ」
香澄さんはそう言うと部屋の隅っこに腰を下ろした。私もそれに習って彼女の隣に腰を下ろす。
「あんがと! これでも結構練習したんだよねぇ。あの鬼コーチにみっちり仕込まれたから」
美鈴さんはベッドに寝転がったままそんな悪態を吐いた。鬼コーチ……。たぶん弥生さんのことだと思う。
そうこうしていると部屋のドアがノックされた。そして「メイ帰ってきたのかー?」という男の人の声がドア越しに聞こえた。
「帰ってるよー! 今友達来てるから開けないで!」
美鈴さんはそう言うとだるそうにベッドから起き上がった。そして私たちに「ごめん。親父の飯作ってくる」と言って部屋から出て行った。どうやら香取家では美鈴さんが炊事担当らしい。
「美鈴ちゃんってけっこう女子力高いんですよね。あの子が作った料理美味しいみたいだし」
美鈴さんが出て行ってしまうと不意に香澄さんがそんなことを言った。
「っぽいですよね。それに美鈴さんすごく几帳面だと思います」
「そうそう! 本人はがさつだって言ってるけど……。たぶん中身は私や弥生ちゃんよりずっと女子なんじゃないかな? ってこんなこと言ったら弥生ちゃんに失礼ですよね」
香澄さんはそう言って失言を取り消すみたいに口元に手を当てた。そんな私たちの噂話を知ってか知らずか一階からは軽快な包丁の音が響いていた――。
「香澄さんは美鈴さんとも付き合い長いんですか?」
「うーん。実はまだ知り合って一年経ってないんですよね。お互いに弥生ちゃん繋がりで存在は知ってたけど……。今回のアルバイトきっかけで美鈴さんがUGに来たとき初めてかな……」
香澄さんはそう言うと大きく背伸びした。そして「むぅーむ」と変な声を上げた。それは声と言うよりも鳥の鳴き声みたいに聞こえる。
「そうなんですね……。てっきり子供の頃からの付き合いだと思ってました」
「フフッ。そう見えるかもですね。美鈴ちゃんフレンドリーだから」
香澄さんはそう答えるとゆっくり立ち上がって窓の方へ歩み寄った。そして窓越しに遠くを眺めながら「弥生ちゃんまだ掛かりそうですねぇ」と呟いた――。
それから私たちは少しずつ互いの話をした。家族のこと、学校のこと、魔法少女のこと……。そんな内容だ。私が話したことは前回弥生さんに話したこととほぼ同じだと思う。
「――そっかぁ。聖那ちゃんのお父さんは船乗りさんなんですね」
私が一通り話し終わると香澄さんは物珍しそうな顔をした。やはり私の父親の職業は世間的には割と珍しいらしい。
「はい、甲板員って言うのかな? 碇降ろしたり、甲板のメンテナンスするお仕事ですね」
「すごーい! 私にはあんまり縁がない世界だから尊敬しちゃうなぁ」
香澄さんはうっとりしたような目をすると口元に右手の人差し指を立てた。可愛い。弥生さんとは違うベクトルだけれど、この子もなかなかの美少女だと思う。
「ハハハ……。ありがとうございます。でも、香澄さんだってすごいじゃないですか! 蔵田さんは服飾デザイナーだし、『鹿の蔵』の女将さんだって素敵だし」
私がそう言うと香澄さんは一瞬戸惑ったような表情を浮かべた。そして「うん。まぁ……。そうですね」と言って笑った。
「んじゃ今日は夏木さんお疲れ様でした」
オートサービス香取に着くとそう言って逢川さんは車を停めた。そして「言い忘れてたけど給料日は月末だからよろしくね」と付け加えた。どうやら給料は日払いで貰えるわけではないらしい。
「はい! ……逢川さん今日はすいませんでした」
「ん? ああ、大丈夫だよ。気にしないで。お大事にしてね」
逢川さんはそう言うと私たちに降りるように促した。そして運転席側のウィンドウを開けて着いたばかりの美鈴さんに「明日は休みね」と伝えると車を発進させた――。
「あーあ、づがれだー!」
美鈴さんは自室に入るとそう言ってベッドにダイブした。そして彼女の身体はベッドのスプリングに跳ね返されて二、三回バインバインと跳ねた。ちょっと楽しそうだな……。と内心思う。
「お疲れ様ぁ。やっぱり美鈴ちゃんの殺陣ってカッコいいねぇ。久しぶりに見たけどすごかったよ」
香澄さんはそう言うと部屋の隅っこに腰を下ろした。私もそれに習って彼女の隣に腰を下ろす。
「あんがと! これでも結構練習したんだよねぇ。あの鬼コーチにみっちり仕込まれたから」
美鈴さんはベッドに寝転がったままそんな悪態を吐いた。鬼コーチ……。たぶん弥生さんのことだと思う。
そうこうしていると部屋のドアがノックされた。そして「メイ帰ってきたのかー?」という男の人の声がドア越しに聞こえた。
「帰ってるよー! 今友達来てるから開けないで!」
美鈴さんはそう言うとだるそうにベッドから起き上がった。そして私たちに「ごめん。親父の飯作ってくる」と言って部屋から出て行った。どうやら香取家では美鈴さんが炊事担当らしい。
「美鈴ちゃんってけっこう女子力高いんですよね。あの子が作った料理美味しいみたいだし」
美鈴さんが出て行ってしまうと不意に香澄さんがそんなことを言った。
「っぽいですよね。それに美鈴さんすごく几帳面だと思います」
「そうそう! 本人はがさつだって言ってるけど……。たぶん中身は私や弥生ちゃんよりずっと女子なんじゃないかな? ってこんなこと言ったら弥生ちゃんに失礼ですよね」
香澄さんはそう言って失言を取り消すみたいに口元に手を当てた。そんな私たちの噂話を知ってか知らずか一階からは軽快な包丁の音が響いていた――。
「香澄さんは美鈴さんとも付き合い長いんですか?」
「うーん。実はまだ知り合って一年経ってないんですよね。お互いに弥生ちゃん繋がりで存在は知ってたけど……。今回のアルバイトきっかけで美鈴さんがUGに来たとき初めてかな……」
香澄さんはそう言うと大きく背伸びした。そして「むぅーむ」と変な声を上げた。それは声と言うよりも鳥の鳴き声みたいに聞こえる。
「そうなんですね……。てっきり子供の頃からの付き合いだと思ってました」
「フフッ。そう見えるかもですね。美鈴ちゃんフレンドリーだから」
香澄さんはそう答えるとゆっくり立ち上がって窓の方へ歩み寄った。そして窓越しに遠くを眺めながら「弥生ちゃんまだ掛かりそうですねぇ」と呟いた――。
それから私たちは少しずつ互いの話をした。家族のこと、学校のこと、魔法少女のこと……。そんな内容だ。私が話したことは前回弥生さんに話したこととほぼ同じだと思う。
「――そっかぁ。聖那ちゃんのお父さんは船乗りさんなんですね」
私が一通り話し終わると香澄さんは物珍しそうな顔をした。やはり私の父親の職業は世間的には割と珍しいらしい。
「はい、甲板員って言うのかな? 碇降ろしたり、甲板のメンテナンスするお仕事ですね」
「すごーい! 私にはあんまり縁がない世界だから尊敬しちゃうなぁ」
香澄さんはうっとりしたような目をすると口元に右手の人差し指を立てた。可愛い。弥生さんとは違うベクトルだけれど、この子もなかなかの美少女だと思う。
「ハハハ……。ありがとうございます。でも、香澄さんだってすごいじゃないですか! 蔵田さんは服飾デザイナーだし、『鹿の蔵』の女将さんだって素敵だし」
私がそう言うと香澄さんは一瞬戸惑ったような表情を浮かべた。そして「うん。まぁ……。そうですね」と言って笑った。
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