日給二万円の週末魔法少女 ~夏木聖那と三人の少女~

海獺屋ぼの

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第七章 水郷会児童福祉施設 あけぼし

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 それから程なくして施設長室のドアがノックされた。そして逢川さんがドアを開けると大学生くらいの男女が顔を覗かせた。男の人の方は背が高く黒髪短髪のスポーツマンタイプ。女の人の方はやや明るめの髪の清楚な雰囲気の人だ。パッと見お似合いのカップルのように見える。
「すいません。ギリギリになってしまいまして……」
 男の人は逢川さんにそう謝ると申し訳なそうに部屋に入った。女の人は特に何も言わない。
「……まぁ今回は良いですよ。ただ、毎回こうだと困るので気をつけてくださいね」
 逢川さんは少しきつめな口調で彼を責めると女の人に突き刺すような視線を向けた。その表情は普段私たちに見せる温和な顔とは違ってかなり威圧的だ。
「お前もだよ。……ったく! もう成人してんだから少しは自覚しろ」
 逢川さんはそう言って女の人を軽く小突いた。女の人は「ふん」とふて腐れたみたいに鼻を鳴らす。
「……えーと、夏木さんと鹿島ちゃんは初めてだよね。この子らが劇団『てんびん座』の団員だよ。で! この子が座長の住吉良平くん。そんでこっちが……」
 逢川さんはそこまで言うと一瞬言葉を詰まらせた。そして「逢川瑞穂ね」と言いにくそうに言った。その名前から察するにどうやらこの人は逢川さんの身内のようだ――。

 それから住吉さんは自己紹介してくれた。彼は大学四年生で瑞穂さんは彼と同じ大学の二年生らしい。まぁ……。これはふて腐れている瑞穂さんの代わりに住吉さんが教えてくれたことなのだけれど。
 そして住吉さんは大学に通う傍らてんびん座という劇団を運営しているそうだ。彼曰く、今はもうほとんど講義には出ていないとか。
「――そんな感じで細々と劇団やらせて貰ってます」
 住吉さんはそう言うと瑞穂さんの袖を引っ張った。そして「自己紹介してあげて」と諭すように彼女に言った。瑞穂さんは「初めまして……」と無愛想にボソッと呟く。
 そうこうしていると裏口から何やら物音が聞こえてきた。重い何かを引きずるような。そんな音だ。
「じゃあ搬入あるから」
 瑞穂さんはそう言うとそそくさと施設長室を出て行ってしまった。最高に感じが悪い。ここまで性格が悪そうに見えるのは逆に才能だと思う。
「ごめんねみんな。あいつ……。瑞穂は俺のこと嫌いみたいでさ」
 逢川さんはそう言うとばつが悪そうにうなじを掻いた。そして深いため息を吐くと「おやじもおふくろもあいつのこと甘やかして育てたからさ」と言い訳みたいに付け加えた。その発言から察するにやはり彼女は逢川さんの妹さんのようだ。
「すいません……。宥めたんですが今日は朝から機嫌悪いみたいで」
 不意に住吉さんはそう言って逢川さんに謝った。
「いや……。住吉くんは悪くないよ。あいつがガキ過ぎんだよ。まったく……」
「いえいえ。いつもは瑞穂ちゃん素直で良い子なんですよ。今日はたまたまで……」
 住吉さんはそこまで話すと「すいません」とまた謝った。その態度はあまりにも卑屈で見ていて正直イライラする。
 そうこうしていると園庭から大きな拍手の音が聞こえた。どうやらイベントが開演したらしい――。
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