日給二万円の週末魔法少女 ~夏木聖那と三人の少女~

海獺屋ぼの

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第六章 オフィス・トライメライ 幕張研修所

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 ――弥生さんはそこまで話すと枕元からスマホを手に取った。そして操作してからスマホを私に差し出す。
「これがそんときの写メだよ。これだけは機種変してもずっと保存してきてるんだ」
 彼女はそう言うと嬉しそうな、寂しそうな顔になった。渡された弥生さんのスマホには五人の魔法少女が写っている。
「私はその映画見に行ったよ」
「そっか。まぁ……。あの頃はアポマジけっこう人気だったもんね。アニメ原作で異例の大ヒットとか言われてさ」
 弥生さんはどこか他人事みたいに言うと寝返りを打つみたいに身をよじらせた。そして私からスマホを受け取ると再びそれを枕元に投げる。
「それからは色んなことがあったんだけどね……。デトロイトが終わったらすぐにウェールズの薔薇園に行って撮影だったよ。あの頃は忙しかったなぁ。二週間ぐらいずっと撮影してた気がする」
 弥生さんは懐かしそうに言うと「本当に色々あったからさ」と続けた。そこには『イロイロ』だけで片付けてはいけないくらいの重みがあるように聞こえる。
 それから程なくして弥生さんは寝息を立て始めた。どうやら私より先に眠ってしまったらしい。当然と言えば当然だろう。今日彼女は酷く気を張っていたのだ。出雲社長とのことだってそうだし、美鈴さんのおじいちゃんのことだってそうだ。きっと今日の弥生さんはストレスフルだったのだと思う。
 だから私は寝息を立てる弥生さんに「今日はありがとね。おやすみ」と小声で声を掛けた。もちろん返事はない。暗がりに安らかな寝顔が見えるだけだ。
 弥生さんが眠ってしまうと部屋に静寂が訪れた。どうやらこの部屋は防音室のようで外の音も一切漏れ聞こえてこない。逆に静かすぎて眠れないほどに。
 だから私は布団を被ってスマホで気になっていたことを調べることにした。どうせ寝付けないなら時間を有効活用したい。
 まず私は『アポカリプティックガールズ~終末魔法少女~』のWEBサイトを覗いた。そしてスタッフやらキャストやらストーリーやらを一通り読んでみた。主演は天沢天音。その他に数人の出演者名があった。当然のようにその中に諏訪さんと弥生さんの名前もある。
 弥生さんはともかく諏訪さんが元女優だとは思わなかった……。たしかにここに写っている魔法少女は間違いなく諏訪さんだけれど、今の彼女からこの姿を全く想像できない。まぁこうして公式サイトに名前と写真が載っている時点で間違いないのだけれど。
 映画の公式サイトを見終わると今度は『天沢天音』と検索してみた。そして私が思った通りの記事が目に飛び込んできた。古いニュース記事と彼女のウィキペディアのページ。それがトップに表示されている。
 私はその中からその古いニュース記事をタップした。するとすぐにページが表示される。
 
『天才子役、天沢天音非業の死。業界関係者弔問』
 
 その記事のタイトルにはそんな味も素っ気もない文字が躍っていた。あまりにもゴシップ的に。死者に対する敬意が不足してるみたいに。
 それでも私はそんな不敬な記事を読み進めた。要約すると『天沢天音は仕事で悩んでいて、それに耐えきれなくなって自ら死を選んだ』そう書いてあった。それだけだ。私が編集長なら突っ返したくなるようなつまらない記事だと思う。
 その記事を読み終えると私はスマホを枕元に投げた。そしてゆっくりと意識を夜に溶かしていった。溶けゆく意識の中で『天沢さんは何で死ななければいけなかったのだろう』と思った――。
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