51 / 176
第六章 オフィス・トライメライ 幕張研修所
16
しおりを挟む
――弥生さんはそこまで話すと枕元からスマホを手に取った。そして操作してからスマホを私に差し出す。
「これがそんときの写メだよ。これだけは機種変してもずっと保存してきてるんだ」
彼女はそう言うと嬉しそうな、寂しそうな顔になった。渡された弥生さんのスマホには五人の魔法少女が写っている。
「私はその映画見に行ったよ」
「そっか。まぁ……。あの頃はアポマジけっこう人気だったもんね。アニメ原作で異例の大ヒットとか言われてさ」
弥生さんはどこか他人事みたいに言うと寝返りを打つみたいに身をよじらせた。そして私からスマホを受け取ると再びそれを枕元に投げる。
「それからは色んなことがあったんだけどね……。デトロイトが終わったらすぐにウェールズの薔薇園に行って撮影だったよ。あの頃は忙しかったなぁ。二週間ぐらいずっと撮影してた気がする」
弥生さんは懐かしそうに言うと「本当に色々あったからさ」と続けた。そこには『イロイロ』だけで片付けてはいけないくらいの重みがあるように聞こえる。
それから程なくして弥生さんは寝息を立て始めた。どうやら私より先に眠ってしまったらしい。当然と言えば当然だろう。今日彼女は酷く気を張っていたのだ。出雲社長とのことだってそうだし、美鈴さんのおじいちゃんのことだってそうだ。きっと今日の弥生さんはストレスフルだったのだと思う。
だから私は寝息を立てる弥生さんに「今日はありがとね。おやすみ」と小声で声を掛けた。もちろん返事はない。暗がりに安らかな寝顔が見えるだけだ。
弥生さんが眠ってしまうと部屋に静寂が訪れた。どうやらこの部屋は防音室のようで外の音も一切漏れ聞こえてこない。逆に静かすぎて眠れないほどに。
だから私は布団を被ってスマホで気になっていたことを調べることにした。どうせ寝付けないなら時間を有効活用したい。
まず私は『アポカリプティックガールズ~終末魔法少女~』のWEBサイトを覗いた。そしてスタッフやらキャストやらストーリーやらを一通り読んでみた。主演は天沢天音。その他に数人の出演者名があった。当然のようにその中に諏訪さんと弥生さんの名前もある。
弥生さんはともかく諏訪さんが元女優だとは思わなかった……。たしかにここに写っている魔法少女は間違いなく諏訪さんだけれど、今の彼女からこの姿を全く想像できない。まぁこうして公式サイトに名前と写真が載っている時点で間違いないのだけれど。
映画の公式サイトを見終わると今度は『天沢天音』と検索してみた。そして私が思った通りの記事が目に飛び込んできた。古いニュース記事と彼女のウィキペディアのページ。それがトップに表示されている。
私はその中からその古いニュース記事をタップした。するとすぐにページが表示される。
『天才子役、天沢天音非業の死。業界関係者弔問』
その記事のタイトルにはそんな味も素っ気もない文字が躍っていた。あまりにもゴシップ的に。死者に対する敬意が不足してるみたいに。
それでも私はそんな不敬な記事を読み進めた。要約すると『天沢天音は仕事で悩んでいて、それに耐えきれなくなって自ら死を選んだ』そう書いてあった。それだけだ。私が編集長なら突っ返したくなるようなつまらない記事だと思う。
その記事を読み終えると私はスマホを枕元に投げた。そしてゆっくりと意識を夜に溶かしていった。溶けゆく意識の中で『天沢さんは何で死ななければいけなかったのだろう』と思った――。
「これがそんときの写メだよ。これだけは機種変してもずっと保存してきてるんだ」
彼女はそう言うと嬉しそうな、寂しそうな顔になった。渡された弥生さんのスマホには五人の魔法少女が写っている。
「私はその映画見に行ったよ」
「そっか。まぁ……。あの頃はアポマジけっこう人気だったもんね。アニメ原作で異例の大ヒットとか言われてさ」
弥生さんはどこか他人事みたいに言うと寝返りを打つみたいに身をよじらせた。そして私からスマホを受け取ると再びそれを枕元に投げる。
「それからは色んなことがあったんだけどね……。デトロイトが終わったらすぐにウェールズの薔薇園に行って撮影だったよ。あの頃は忙しかったなぁ。二週間ぐらいずっと撮影してた気がする」
弥生さんは懐かしそうに言うと「本当に色々あったからさ」と続けた。そこには『イロイロ』だけで片付けてはいけないくらいの重みがあるように聞こえる。
それから程なくして弥生さんは寝息を立て始めた。どうやら私より先に眠ってしまったらしい。当然と言えば当然だろう。今日彼女は酷く気を張っていたのだ。出雲社長とのことだってそうだし、美鈴さんのおじいちゃんのことだってそうだ。きっと今日の弥生さんはストレスフルだったのだと思う。
だから私は寝息を立てる弥生さんに「今日はありがとね。おやすみ」と小声で声を掛けた。もちろん返事はない。暗がりに安らかな寝顔が見えるだけだ。
弥生さんが眠ってしまうと部屋に静寂が訪れた。どうやらこの部屋は防音室のようで外の音も一切漏れ聞こえてこない。逆に静かすぎて眠れないほどに。
だから私は布団を被ってスマホで気になっていたことを調べることにした。どうせ寝付けないなら時間を有効活用したい。
まず私は『アポカリプティックガールズ~終末魔法少女~』のWEBサイトを覗いた。そしてスタッフやらキャストやらストーリーやらを一通り読んでみた。主演は天沢天音。その他に数人の出演者名があった。当然のようにその中に諏訪さんと弥生さんの名前もある。
弥生さんはともかく諏訪さんが元女優だとは思わなかった……。たしかにここに写っている魔法少女は間違いなく諏訪さんだけれど、今の彼女からこの姿を全く想像できない。まぁこうして公式サイトに名前と写真が載っている時点で間違いないのだけれど。
映画の公式サイトを見終わると今度は『天沢天音』と検索してみた。そして私が思った通りの記事が目に飛び込んできた。古いニュース記事と彼女のウィキペディアのページ。それがトップに表示されている。
私はその中からその古いニュース記事をタップした。するとすぐにページが表示される。
『天才子役、天沢天音非業の死。業界関係者弔問』
その記事のタイトルにはそんな味も素っ気もない文字が躍っていた。あまりにもゴシップ的に。死者に対する敬意が不足してるみたいに。
それでも私はそんな不敬な記事を読み進めた。要約すると『天沢天音は仕事で悩んでいて、それに耐えきれなくなって自ら死を選んだ』そう書いてあった。それだけだ。私が編集長なら突っ返したくなるようなつまらない記事だと思う。
その記事を読み終えると私はスマホを枕元に投げた。そしてゆっくりと意識を夜に溶かしていった。溶けゆく意識の中で『天沢さんは何で死ななければいけなかったのだろう』と思った――。
0
お気に入りに追加
18
あなたにおすすめの小説

ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
眩暈のころ
犬束
現代文学
中学三年生のとき、同じクラスになった近海は、奇妙に大人びていて、印象的な存在感を漂わせる男子だった。
私は、彼ばかり見つめていたが、恋をしているとは絶対に認めなかった。
そんな日々の、記憶と記録。

セーラー服美人女子高生 ライバル同士の一騎討ち
ヒロワークス
ライト文芸
女子高の2年生まで校内一の美女でスポーツも万能だった立花美帆。しかし、3年生になってすぐ、同じ学年に、美帆と並ぶほどの美女でスポーツも万能な逢沢真凛が転校してきた。
クラスは、隣りだったが、春のスポーツ大会と夏の水泳大会でライバル関係が芽生える。
それに加えて、美帆と真凛は、隣りの男子校の俊介に恋をし、どちらが俊介と付き合えるかを競う恋敵でもあった。
そして、秋の体育祭では、美帆と真凛が走り高跳びや100メートル走、騎馬戦で対決!
その結果、放課後の体育館で一騎討ちをすることに。
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる