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第六章 オフィス・トライメライ 幕張研修所
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春日弥生の話
テレビドラマの放映が終わってからすぐに次の仕事のオファーがあった。
今度は『アポカリプティックガールズ~終末魔法少女~』という映画の脇役で、私は見習い魔法少女みたいな役柄だった。要はマスコットポジションってやつだと思う。
ちなみに他の魔法少女たち……。もとい女優さんたちはみんな高校生だった。そしてそんな女優さんたちの中に私の憧れの先輩がいた。私と同じ子役出身の女優にして今作の主人公役。天沢天音さんが――。
「弥生ちゃん準備できた?」
私が出かける準備をしていると叔母さんにそう声を掛けられた。叔母さんの肩には大きなボストンバッグが掛けられている。
私は「はーい」とだけ答える。今からお出かけ。行き先はアメリカ合衆国のミシガン州デトロイトだ。
「忘れ物ないようにね。飛行機乗ったらもう戻れないんだから」
「大丈夫だよ。ちゃんとリュックにみんな入れたし。叔母さんがパスポートは持っててくれるしね!」
私はそう言うとピンクのリュックを降ろしてジッパーを開いて見せた。中には旅に必要なものが一式入っている。……もっとも、本当に必要なものは全て叔母さんが手配してくれたのだけれど。
それから私は叔母さんの車で成田空港へ向かった。初めての海外旅行……。もとい『アポカリプティックガールズ~終末魔法少女~』の海外ロケだ。
「天沢さんたちは先に行ってるからね。なんか撮影以外にもやることあるんだって」
叔母さんはそう言うと車の窓を開けてタバコを口にくわえた。セブンスター。たしかそんな名前のタバコだったと思う。
「お買い物とか?」
「違う違う! 現地のメディアが面白がって取材申し込んだんだって……。まぁ天沢さんは小さい頃にあっちの映画にも出たことあるからねぇ。それで急遽ってことみたい」
叔母さんはそこまで話すと「あの子は別格だからね」と言ってくわえていたタバコに火を付けた。私は「ふーん」とだけ返す。
そうこうしていると叔母さんの車は高速道路の乗り口に入った。そして成田方面へ。成田……。母の職場のある街だ。
成田空港に到着すると見知らぬ男の人と私と同年代くらいの女の子に出迎えられた。男の人の見た目は酷くチャラチャラしていて非常に柄が悪かった。趣味の悪いアロハシャツに金髪とサングラス。そんな感じで怪しさ満点だ。
一方、女の子の方はとても普通だった。この上ないくらいの普通。特徴があるとするならその長い黒髪ぐらいだと思う。顔も……。普通。これと言って特徴がない。整った塩顔をしているだけだと思う。
「やぁどうも」
私がそんなことを考えているとその男の人が叔母さんに話し掛けてきた。叔母さんは「どうも」と言って彼に会釈する。
「今回は出雲姉さんも一緒に行くんすね?」
「そうね。今回ばっかは保護者がいないと話にならないから……。蔵田くんも一人じゃないのね?」
叔母さんはそう言うと彼の横に佇む少女に視線を落とした。少女は「こんにちは」と言ってぺこりと頭を下げる。
「こんにちは。たしかあなたは……。香澄ちゃんだったよね?」
「はい! そうです。鹿島香澄です。叔父がいつもお世話になっております!」
その女の子は礼儀正しく挨拶するとは控えめに微笑んだ。好感度一〇〇パーセントの笑顔。私は彼女の笑顔を見てそう思った――。
後から知ったことだけれどその男の人(以下蔵田さん)は叔母さんの古くからの友人のようだ。何でも大学の後輩だとかで、蔵田さんは叔母さんのことを『出雲姉さん』と呼んで慕ったり、貶したりしているらしい。
そんな二人は大学卒業後もずっと繋がっているそうだ。蔵田さんが結婚したときは叔母さんも泣いて喜んだとか……。まぁこれは蔵田さんから聞いた話なので真偽は不明だけれど。
ともかく叔母さんと蔵田さんはそんな感じで腐れ縁なのだ。良くも悪くも切れない関係なのだと思う。
そうこうしていると頭上を飛行機が飛んでいった。
母の指示で飛ばしているのかな? 私はそんなことを思った。
テレビドラマの放映が終わってからすぐに次の仕事のオファーがあった。
今度は『アポカリプティックガールズ~終末魔法少女~』という映画の脇役で、私は見習い魔法少女みたいな役柄だった。要はマスコットポジションってやつだと思う。
ちなみに他の魔法少女たち……。もとい女優さんたちはみんな高校生だった。そしてそんな女優さんたちの中に私の憧れの先輩がいた。私と同じ子役出身の女優にして今作の主人公役。天沢天音さんが――。
「弥生ちゃん準備できた?」
私が出かける準備をしていると叔母さんにそう声を掛けられた。叔母さんの肩には大きなボストンバッグが掛けられている。
私は「はーい」とだけ答える。今からお出かけ。行き先はアメリカ合衆国のミシガン州デトロイトだ。
「忘れ物ないようにね。飛行機乗ったらもう戻れないんだから」
「大丈夫だよ。ちゃんとリュックにみんな入れたし。叔母さんがパスポートは持っててくれるしね!」
私はそう言うとピンクのリュックを降ろしてジッパーを開いて見せた。中には旅に必要なものが一式入っている。……もっとも、本当に必要なものは全て叔母さんが手配してくれたのだけれど。
それから私は叔母さんの車で成田空港へ向かった。初めての海外旅行……。もとい『アポカリプティックガールズ~終末魔法少女~』の海外ロケだ。
「天沢さんたちは先に行ってるからね。なんか撮影以外にもやることあるんだって」
叔母さんはそう言うと車の窓を開けてタバコを口にくわえた。セブンスター。たしかそんな名前のタバコだったと思う。
「お買い物とか?」
「違う違う! 現地のメディアが面白がって取材申し込んだんだって……。まぁ天沢さんは小さい頃にあっちの映画にも出たことあるからねぇ。それで急遽ってことみたい」
叔母さんはそこまで話すと「あの子は別格だからね」と言ってくわえていたタバコに火を付けた。私は「ふーん」とだけ返す。
そうこうしていると叔母さんの車は高速道路の乗り口に入った。そして成田方面へ。成田……。母の職場のある街だ。
成田空港に到着すると見知らぬ男の人と私と同年代くらいの女の子に出迎えられた。男の人の見た目は酷くチャラチャラしていて非常に柄が悪かった。趣味の悪いアロハシャツに金髪とサングラス。そんな感じで怪しさ満点だ。
一方、女の子の方はとても普通だった。この上ないくらいの普通。特徴があるとするならその長い黒髪ぐらいだと思う。顔も……。普通。これと言って特徴がない。整った塩顔をしているだけだと思う。
「やぁどうも」
私がそんなことを考えているとその男の人が叔母さんに話し掛けてきた。叔母さんは「どうも」と言って彼に会釈する。
「今回は出雲姉さんも一緒に行くんすね?」
「そうね。今回ばっかは保護者がいないと話にならないから……。蔵田くんも一人じゃないのね?」
叔母さんはそう言うと彼の横に佇む少女に視線を落とした。少女は「こんにちは」と言ってぺこりと頭を下げる。
「こんにちは。たしかあなたは……。香澄ちゃんだったよね?」
「はい! そうです。鹿島香澄です。叔父がいつもお世話になっております!」
その女の子は礼儀正しく挨拶するとは控えめに微笑んだ。好感度一〇〇パーセントの笑顔。私は彼女の笑顔を見てそう思った――。
後から知ったことだけれどその男の人(以下蔵田さん)は叔母さんの古くからの友人のようだ。何でも大学の後輩だとかで、蔵田さんは叔母さんのことを『出雲姉さん』と呼んで慕ったり、貶したりしているらしい。
そんな二人は大学卒業後もずっと繋がっているそうだ。蔵田さんが結婚したときは叔母さんも泣いて喜んだとか……。まぁこれは蔵田さんから聞いた話なので真偽は不明だけれど。
ともかく叔母さんと蔵田さんはそんな感じで腐れ縁なのだ。良くも悪くも切れない関係なのだと思う。
そうこうしていると頭上を飛行機が飛んでいった。
母の指示で飛ばしているのかな? 私はそんなことを思った。
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