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第六章 オフィス・トライメライ 幕張研修所

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 地底人での占いを終えると私たちはUGに向かった。時刻は既に約束の時間を過ぎている。
「いらっしゃいませー」
 UGに入ると香澄さんが私たちを出迎えてくれた。蔵田さんの姿はない。またパチンコかな? と少し邪推めいた考えが浮かぶ。
「やほ! 鹿島ちゃん衣装の仕立て終わった?」
 美鈴さんはとてもフレンドリーな感じで香澄さんにそう尋ねた。数分前までのあの暗い表情が嘘のようだ。
「はい! できてますよぉ。どうします? 一回試着しますか?」
 香澄さんはそう言うと私の方を向いて首を傾けた。傾いたことで彼女のヘッドドレスがふんわりと横に揺れる。
「……サイズは間違いないんですよね?」
「はい! 大丈夫です! 聖那ちゃんの体型ぴったりに仕上げましたから。逆にもう聖那ちゃん以外は着れないくらいですね」
 香澄さんはそう言うとニッコリ笑った。その笑顔は絵に描いたような営業スマイルで少しだけ気味悪く感じる。
「なら……。大丈夫です! たぶんそろそろ逢川さん戻って来ると思うので」
 私はそう答えるとカウンター横の壁に掛かっている時計に目を遣った。時刻はもう一七時過ぎ。そろそろ逢川さんも戻ってくると思う。
「りょうかいです! じゃあ袋お入れしますねぇ」
 彼女はそう言うと『UG』というロゴの入った黒い紙袋に私の衣装を入れてくれた。袋の口から衣装の紫色の襟が覗いていた――。

 それから程なくして逢川さんがUGに戻ってきた。心なしか朝よりも無精髭が伸びたように感じる。
「いやぁ。ごめんねみんな。遅くなって」
 彼はそう謝ると申し訳なさそうにうなじを掻いた。
「いや、大丈夫だよ。てかウチらの為に社長と色々話してくれてたんでしょ?」
 美鈴さんはそう言うと逢川さんの顔を下から覗き込んだ。そして「いつもお疲れ様」と言ってポケットから栄養ドリンクを取り出すと彼の手に握らせた。その様子はまるで本物のカップルみたいだ。
「サンキュー香取ちゃん。まぁ……。俺だって多少は交渉ぐらいするさ。君らの待遇ぐらいはどうにかしたいからね」
 そう言うと彼は美鈴さんの頭を手のひらで軽くポンポンと叩いた。そうされた美鈴さんはまんざらでもない顔になる。たぶん彼女はこの手のノリが嫌いじゃないのだろう。
 それから私たちはしばらくUG内でダラダラ過ごした。店内には私たち以外に来客はない。……というよりも地下街自体この時間は閑散としてしまうようだ。
「そういえば社長なんか言ってました?」
 不意に弥生さんが逢川さんにそう尋ねた。
「そうねぇ。特には……。あ! でも春日ちゃんのことは褒めてたよ。本当に助かってるって」
「そうですか……」
 弥生さんはせっかく褒められたというのに浮かない顔でそう答える。そして「まぁそれなら良かったです」と言って無理な笑顔を作った。
「まぁ。春日ちゃんの気持ちは分からなくもないけどさ。社長だって君のことを大切に思ってるんだよ? だから……」
 逢川さんがそうフォローを入れると弥生さんは「分かってます」と食い気味に答えた。そして「あーあ、お腹空きましたね」と不自然に話題を変えると痛々しい笑みを浮かべた――。
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