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第五章 珈琲と占いの店 地底人

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「おまたせ!」
 弥生さんはそう言って私たちの席に戻ってきた。彼女の顔は三〇分前より明らかにすっかりしているように見える。
「お疲れ。どうだった?」
「うん! めっちゃ良かった! 明日どうにかなりそうだよ!」
 弥生さんは篠田楓子のマンガの話をしているときと同じくらいのテンションで言うと「ヤバい」と言って今日一番の笑みを浮かべた。さっきまで美鈴さんの重たい話を聞いていただけに会話の温度差で風邪を引いてしまいそうだ。
「やっぱメイリンも占って貰いなって! 本当によく当たるんだから」
「ん、ああ。……いや、私はいいわ。卜占術ってどうも苦手でねぇ」
「何だよぉ。やっぱ四柱推命じゃないと嫌なの?」
「別にそういうわけじゃないんだけど……。まぁいいじゃん! それより聖那ちゃんはどうする? 占ってもらう?」
 今度は私にお鉢が回ってきた。タロット占い……。今まで経験したことのないタイプの占いだ。イメージ的にはかき混ぜて出たカードで占う感じ……。だと思う。それ以上の知識はない。
 思えば小学校の頃から占いとかおまじないに興味なかったな。友達が必死に片思いが叶うおまじないをしている横で本を読んでたっけ……。そんな女子的協調性が皆無な記憶がよみがえった。おそらくこれも母の影響だと思う。あの人は欠片も占いみたいなものを信じないのだ。完全な現実主義者。母はそういうタイプの人間なのだと思う。
 だから私は占いをするべきかどうかすぐには決められなかった。正直、占って貰ったところで私は信じないだろう。でも、これは信じる信じないの話ではないのだ。女子としてのお付き合い。そういうタイプの問題だと思う。
「……じゃあ、占って貰おうかな。明日のヒントになるかもだしね」
 私がそう言うと弥生さんは嬉しそうに「うんうん」と頷いてくれた。美鈴さんは……。まぁ多少同情的な目で私を見ていた。その目には『聖那ちゃんありがとね。弥生の趣味に付き合ってくれて』という言葉が浮かんでいるように見える。
 それから私はさっき弥生さんが座っていた席に向かった。そして店主の女性に「あの、私も占っていただけますか?」と声を掛けた。
 女性は「ええ、いいわ」と言ってカードの束を手に取ると私に座るように促した。
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