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第五章 珈琲と占いの店 地底人

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 食事を終えると近くのショッピングモールに向かった。そしてショッピングモールに着くと美鈴さんはストリートファッション系の店を、弥生さんはカジュアル系の店をそれぞれ見て回った。まぁ……。私は特に見るものもなかったので彼女たちについて回っただけなのだけれど。
 そして一通り服を見終わるとゲームセンターでプリクラを撮った。プリクラなんて何年ぶりだろう? と少し妙な気分になる。思えば私は中学の頃からずっとインドア派なのだ。基本的に自宅と学校の往復だけ。そんな生活リズムが身体に染みついている気がする。
 でも……。そんな出不精な私でも今回の遠出は素直に楽しいと思えた。まぁ、それはこの二人が個性的で、且つ良い子たちだからなのだけれど――。

 買い物を終えるとアンダーグラウンド幕張名店街に戻った。時刻は三時ちょうど。あと三〇分で香澄さんとの約束の時間だ。
「あーあ、逢川さん可愛そうに……。まだ解放されないみたいよ?」
 美鈴さんは心底同情的なことを言うと私にスマホのメッセージ画面を見せてくれた。画面には『香取ちゃんごめん。まだけっこう掛かりそう』と表示されている。どうやら逢川さんと出雲さんとのミーティングは思いのほか長引いているようだ。
「ま、いいか。んじゃ先に地底人行こう」
「だね。……逢川さん大丈夫かな?」
 弥生さんはさして心配していない口調で言うと大きく背伸びした。反応から察するにこれはいつものことなのだと思う。
 地下通路を来たときとは逆方向へ進む。左手にはアンティーク雑貨の店、右手にはお弁当屋。やはりこの地下街には共通のテーマはないらしい。雑居地下街。思わずそんな造語が思い浮かぶ。
 少し進むとUGの前を通り掛かった。店内を覗くと数人のお客さんが来ていて、蔵田さんと香澄さんが接客している姿が見えた。二人とも頑張って働いてるんだな……。と変に感心する。
「地底人入るの久々だなぁ……」
 占い館に到着すると美鈴さんがどことなく不服そうにそんなことを言った。
「そうだね。じゃあ入ろっか」
 弥生さんはそんなことお構いなしに店のドアを押し開けた。ドアを開くとカランと鈴が鳴る。
 店内に入ると濃いコーヒーの香りが鼻を突いた。カウンターにはコーヒーサイフォンが六本置かれその全てがゴボゴボと泡立っている。
 そんなコーヒーサイフォンの隣で初老の女性が何やら作業をしていた。そして私たちに気がつくと「いらっしゃい……」と言って視線を上げる。
「こんにちは」
「はい、こんにちは。今日はお友達も一緒なのね」
 彼女はそう言うと私たちを四人掛けのテーブルに案内してくれた。そして革張りのメニューを差し出すと「決まったら呼んでちょうだい」と言って再びカウンターに戻った。
「弥生さぁ。あんたが最初に占って貰ったら? 私と聖那ちゃんは待ってるから。……待ってる間に明日のことある程度説明しときたいしね」
「そう? じゃあそうしちゃおうかな」
 弥生さんは一つ返事で答えると立ち上がってカウンターに向かった。そしてそのまま店主の女性に声を掛ける。
「ったく。あの子は。……ああ、聖那ちゃんごめんね。とりあえず何か飲み物頼もっか」
「ありがと。じゃあ私は……。クリームソーダにする」
「りょうかい。私はどうしよっかなぁ。さっきドリバー飲みまくったばっかだし」
 美鈴さんはそう言うとメニューをパラパラ捲った。そして「うん! カフェラテにするわ」と言って店主に注文を伝えた。
 弥生さんはそんな私たちのことなどお構いなしにカウンターでそわそわしていた。これから始まる占いのことしか頭にないみたいに。
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