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第五章 珈琲と占いの店 地底人
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弥生さん曰く、アンダーグラウンド幕張名店街には『地底人』という名前の占い館があるらしい。……らしいというか私もそれは見た気がする。おそらくあの薄暗い廊下を抜けてすぐに見つけた店だ。どうやら弥生さんはそこの常連らしく、『地底人』の占いをかなり熱心に信奉しているようだ。
「――信じらんないかもしんないけど、あそこのタロットはよく当たるんだよね」
弥生さんは目を輝かせながら言うと「本当だよ」と付け加えた。
「そ、そうなんだ」
私は少し気圧されながら答える。正直に言えば私は占いをあまり信用していないのだ。あんなのは気休めだと思う。宝くじの番号や人の死期が当たるならともかくそれ以外は全て眉唾のこじつけなんじゃないだろうか?
「はいはい。分かったよ弥生。聖那ちゃん困ってるでしょ!」
私の反応を見て美鈴さんが私たちの間に割って入った。その言い方から察するに美鈴さんも占いをあまり信じていないらしい。
「何だよー。本当に当たるんだからね! メイリンだって四柱推命とかやるクチでしょ?」
「ん? ああ、あんなん全部こじつけだよ。ま、大事な小遣い稼ぎだからあんまり悪くも言えないけどねぇ。……ともかく、飯行こう! 腹減っちゃったよ」
美鈴さんはそう言うと大げさにお腹をさすった――。
それから私たちは幕張メッセ近くのファミレスに入った。夏休みらしく学生と子供が多い。
「へっへーん。実はお昼代貰ってきたんだよね」
美鈴さんはそう言うとポケットから裸の五千円札を取り出してヒラヒラとなびかせた。
「……また逢川さんにたかったの?」
「人聞きが悪いなぁ。違うよ! これは出雲社長から! 急に仕事振ったお詫びだってさ」
「いつの間に……。はぁ、あんたはいいよね。社長と仲良いから」
弥生さんは呆れたみたいにため息を吐く。
「仲良い……。うーん、どうなんだろね? 私はあの人好きだけどさ。たぶん私より弥生の方が気に入ってるんじゃないの? ほら、重要なことはぜんぶあんたに振るじゃん? たぶん私は仕事的には信用されてないんだよねぇ」
美鈴さんはそう言いながらメニュー表を私に差し出した。私は「ありがと」と言ってそれを受け取る。
「……まぁ。あんたは信用なさそうではあるよね。パッと見、ノリと勢いだけに見えるし」
「おいおい、随分とディスるじゃんかよ弥生ちゃん。ま、本当のことだから何も言えねーけど……。今日はふわとろオムライスにしようかなぁ」
美鈴さんはそんな風に軽口を叩きながらメニュー表をペラペラ捲った――。
それから私たちは各々料理を選んだ。そして私は和風パスタを。弥生さんは半熟卵のドリアを。美鈴さんはふわとろオムライスをそれぞれ注文した。あとはドリンクバーとフライドポテトもシェア用に追加する。いかにも女子高生が学校帰りに食べるようなメニューばかりだと思う。
「ふぅー。明日の仕事は酒々井だったよね?」
注文が終わると美鈴さんが弥生さんにそう尋ねた。
「そう。酒々井駅の近くの児童福祉施設だね。確か……。『あけぼし』ってとこだよ」
「ふーん。じゃあ四月に行ったとこと同じような感じか……」
「そうそう、だいたいそんな感じだね。……とりあえずドリンクバー行こっか」
弥生さんはそう言うとスッと立ち上がった。心なしか街中より表情が明るくなったように見える。
ドリンクを持って席に戻るとすぐに男性店員がフライドポテトを運んできた。そして彼はサッと料理だけ置くと忙しなく下がっていった。店内はけっこう混んでいるし、彼も相当忙しいのだろう。
「ポーテト! ポテト!」
美鈴さんがそんな変な歌を歌いながらフライドポテトをつまんだ。そして付け合わせのケチャップにディップすると五、六本一気に頬張る。
「食い意地張ってんなぁ」
弥生さんは呆れながら言うと紙ナプキンを美鈴さんに差し出した。美鈴さんは「あっえ、おああふいへはんはほん」と口にポテトが入ったまま行儀悪く答える。
「え? 何て?」
「……ふぅ。だって! お腹空いてたんだもん! ほら、二人とも食べな! 食べないと元気でないよ!」
「……いただきます」
それから私たちの席には次々と料理が運ばれてきた。美鈴さんの頼んだオムライスからは美味しそうな湯気が立ち上っている。
「おぉー! やっぱオムライスはふわとろだよねぇ」
美鈴さんはそんな風に大げさなリアクションをするとオムライスを頬張った。そして「うーん。やっぱ最高だよねぇ」と言ってコーラを口に流し込む。
「美鈴さんって美味しそうに食べるね」
「うん。やっぱご飯は美味しく食べたいじゃん? もし戦争になったら食べられなくなっちゃうもん。平和を感じながら食べるご飯って本当に幸せなんだよねぇ」
美鈴さんはそう答えると軽いため息を吐いた。そして「命を食べるってありがたいし幸せなことだよ」と付け加える。
「……あんたみたいに食べて貰えたらファミレスの厨房の人も喜びそうね」
「ん? そうかね? ま、でも料理作ってくれた人にも感謝だよねぇ」
美鈴さんはそう言うとオムライスをもう一口頬張った。まるでお子様ランチを食べる子供みたいだな……。そんな失礼なことを思った。
「――信じらんないかもしんないけど、あそこのタロットはよく当たるんだよね」
弥生さんは目を輝かせながら言うと「本当だよ」と付け加えた。
「そ、そうなんだ」
私は少し気圧されながら答える。正直に言えば私は占いをあまり信用していないのだ。あんなのは気休めだと思う。宝くじの番号や人の死期が当たるならともかくそれ以外は全て眉唾のこじつけなんじゃないだろうか?
「はいはい。分かったよ弥生。聖那ちゃん困ってるでしょ!」
私の反応を見て美鈴さんが私たちの間に割って入った。その言い方から察するに美鈴さんも占いをあまり信じていないらしい。
「何だよー。本当に当たるんだからね! メイリンだって四柱推命とかやるクチでしょ?」
「ん? ああ、あんなん全部こじつけだよ。ま、大事な小遣い稼ぎだからあんまり悪くも言えないけどねぇ。……ともかく、飯行こう! 腹減っちゃったよ」
美鈴さんはそう言うと大げさにお腹をさすった――。
それから私たちは幕張メッセ近くのファミレスに入った。夏休みらしく学生と子供が多い。
「へっへーん。実はお昼代貰ってきたんだよね」
美鈴さんはそう言うとポケットから裸の五千円札を取り出してヒラヒラとなびかせた。
「……また逢川さんにたかったの?」
「人聞きが悪いなぁ。違うよ! これは出雲社長から! 急に仕事振ったお詫びだってさ」
「いつの間に……。はぁ、あんたはいいよね。社長と仲良いから」
弥生さんは呆れたみたいにため息を吐く。
「仲良い……。うーん、どうなんだろね? 私はあの人好きだけどさ。たぶん私より弥生の方が気に入ってるんじゃないの? ほら、重要なことはぜんぶあんたに振るじゃん? たぶん私は仕事的には信用されてないんだよねぇ」
美鈴さんはそう言いながらメニュー表を私に差し出した。私は「ありがと」と言ってそれを受け取る。
「……まぁ。あんたは信用なさそうではあるよね。パッと見、ノリと勢いだけに見えるし」
「おいおい、随分とディスるじゃんかよ弥生ちゃん。ま、本当のことだから何も言えねーけど……。今日はふわとろオムライスにしようかなぁ」
美鈴さんはそんな風に軽口を叩きながらメニュー表をペラペラ捲った――。
それから私たちは各々料理を選んだ。そして私は和風パスタを。弥生さんは半熟卵のドリアを。美鈴さんはふわとろオムライスをそれぞれ注文した。あとはドリンクバーとフライドポテトもシェア用に追加する。いかにも女子高生が学校帰りに食べるようなメニューばかりだと思う。
「ふぅー。明日の仕事は酒々井だったよね?」
注文が終わると美鈴さんが弥生さんにそう尋ねた。
「そう。酒々井駅の近くの児童福祉施設だね。確か……。『あけぼし』ってとこだよ」
「ふーん。じゃあ四月に行ったとこと同じような感じか……」
「そうそう、だいたいそんな感じだね。……とりあえずドリンクバー行こっか」
弥生さんはそう言うとスッと立ち上がった。心なしか街中より表情が明るくなったように見える。
ドリンクを持って席に戻るとすぐに男性店員がフライドポテトを運んできた。そして彼はサッと料理だけ置くと忙しなく下がっていった。店内はけっこう混んでいるし、彼も相当忙しいのだろう。
「ポーテト! ポテト!」
美鈴さんがそんな変な歌を歌いながらフライドポテトをつまんだ。そして付け合わせのケチャップにディップすると五、六本一気に頬張る。
「食い意地張ってんなぁ」
弥生さんは呆れながら言うと紙ナプキンを美鈴さんに差し出した。美鈴さんは「あっえ、おああふいへはんはほん」と口にポテトが入ったまま行儀悪く答える。
「え? 何て?」
「……ふぅ。だって! お腹空いてたんだもん! ほら、二人とも食べな! 食べないと元気でないよ!」
「……いただきます」
それから私たちの席には次々と料理が運ばれてきた。美鈴さんの頼んだオムライスからは美味しそうな湯気が立ち上っている。
「おぉー! やっぱオムライスはふわとろだよねぇ」
美鈴さんはそんな風に大げさなリアクションをするとオムライスを頬張った。そして「うーん。やっぱ最高だよねぇ」と言ってコーラを口に流し込む。
「美鈴さんって美味しそうに食べるね」
「うん。やっぱご飯は美味しく食べたいじゃん? もし戦争になったら食べられなくなっちゃうもん。平和を感じながら食べるご飯って本当に幸せなんだよねぇ」
美鈴さんはそう答えると軽いため息を吐いた。そして「命を食べるってありがたいし幸せなことだよ」と付け加える。
「……あんたみたいに食べて貰えたらファミレスの厨房の人も喜びそうね」
「ん? そうかね? ま、でも料理作ってくれた人にも感謝だよねぇ」
美鈴さんはそう言うとオムライスをもう一口頬張った。まるでお子様ランチを食べる子供みたいだな……。そんな失礼なことを思った。
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