日給二万円の週末魔法少女 ~夏木聖那と三人の少女~

海獺屋ぼの

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第三章 アンダーグラウンド幕張

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 それから彼女は「こちらへどうぞー」と言って奥の試着室に案内してくれた。そして試着室に入る前に「あ!」と何か思い出したみたいに立ち止まる。
「ごめんなさい。自己紹介がまだでしたね……。ここで店員してる鹿島香澄って言います! 弥生ちゃんと美鈴ちゃんの衣装なんかも私が仕立ててるんですよー」
 香澄さんはそう言うと「よろしくお願いしまーす」と言ってニッコリ笑った。
「そうだったんですね。私は……。夏木聖那です」
「はーい。聖那ちゃんですね。これからよろしくお願いします。諏訪さんからお話は伺ってますよー。それじゃ……。とりあえずこれに着替えちゃってください」
 鹿島さんはそう言うと私に紫の襟が付いた衣装を差し出した。トップスは白地に紫のセーラー服を加工したようなデザイン。スカートは派手すぎない白のレースが仕込まれたものだ。――正直に言えばかなり恥ずかしい。思っていたよりもずっと女子女子した服だ。これなら香澄さんのゴスロリの方が数倍マシだと思う。
「じゃあ着替え終わったら呼んでください。今回は寸法調整だけなんでブーツは履かなくて大丈夫です」
 彼女はさも当たり前みたいに言うと更衣室のカーテンを閉めた。逃げ場なし。着替えるしかなさそうだ……。

 それから衣装に袖を通して全身鏡の前に立った。そこには微妙な表情の魔法少女の姿があった。口元には薄笑いが浮かび、胸元のリボンは初めて制服を着たときみたいに覚束ない。
「着れました」
 着替え終わると私はカーテンの向こう側に居る香澄さんに声を掛けた。心なしか声が震えている気がする。
「はいはーい」
 彼女はそう返事するとゆっくりとカーテンを開いた。そして私の姿を上から下まで観察するみたいに視線を滑らせる。
「うん。いいですね! とってもお似合いだと思います」
「そ、そうですかね……」
「ええ、とっても! やっぱり聖那ちゃんみたいな子にはこの服合ってるみたいですね」
 彼女はそう言うと私の足下に屈んだ。そしてクリップとフェルトペンを取り出すと服に印を付けていった。かなり手慣れている。まるでプロのファッションコーディネーターみたいだ。
 その間、私はただ鏡の前に突っ立っていた。鏡越しに見える彼女の表情は真剣そのもので、テキパキ服を仕上げることだけに集中していた。そこには私には理解できないほどのプロ意識が宿っているように感じる。
「はい。お疲れ様でしたー! クリップ外れないように静かに脱いでくださいねー」
 彼女はそう言うとニッコリ笑った――。
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