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第三章 アンダーグラウンド幕張

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 カワウソ……。実在していたのか。私はそのことに今日一番の衝撃を受けた。絶対何かの思い違いだと思っていただけに変な気分になる。
 母が言うには篠田さんは数年前に友人からこのカワウソを引き取ったそうだ。名前はチェリー。性別はメス。賢いカワウソで『バン!』と銃を撃つマネをすると死んだフリをするらしい。なんて可愛いんだ! ウチにも欲しい! そんなことを思った。
「篠田さんかぁ。たまには連絡してみようかな? あの子忙しそうで連絡しなかったんだけどね」
 私がカワウソにときめいていると母がそんなことを言った。
「……それがいいかもね。篠田さんまたサイン会とかしないかなぁ?」
「どうだろうね。前に会ったときはマンガ描くのに忙しいって言ってたけど」
 母はそう言うと懐かしそうにハガキを手に取った。三人と一匹が仲良く写る。そんな写真を――。

 翌日の夜。父は夕飯のあとメロンを二切れ平らげた。そして食べ終わってすぐに母に乗せられて会社のあるお台場へ向かった。私はお留守番だ。最後は夫婦水入らずのドライブを楽しみたいのだろう。
 次帰ってくるのはお盆明け……。そう思うと少し寂しく感じる。あの父のつまらない冗談もまたしばらく聞けなくなるのだ。
 きっと母は帰ってきたらしばらく塞ぎ込むのだろうな……。そんな決定的な予感がした。毎回そうなのだ。別れが辛い。会えない時間の入り口が一番寂しい。きっと母はそう思っているのだろう。
 それでも母は決して父の仕事にケチをつけたりしなかった。私の幼い頃からずっと『お父さんは誇り高き船乗りなの!』と言い続けているし、きっと母は船乗りとしての父のことが好きなのだと思う。
 両親が居ない家で私はテレビのバラエティ番組を見ていた。男性アイドルが身体を張った企画でああでもないこうでもないと悪戦苦闘している。
 そんな風に見るとはなしにテレビを眺めていると私のスマホに諏訪さんからメッセージが届いた。
『お疲れ様です。衣装の最終打ち合わせをしたいのですが金曜日の午前九時から空いてますか? 拘束時間は午後四時前までの予定です。メッセージ確認しましたら返信ください。』
 メッセージはそんな内容だった。美鈴さんの言ったとおり金曜は幕張に行くことになりそうだ――。
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