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第二章 オートサービス香取

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「そうだ! せっかくだから私の衣装も見せとくよ」
 弥生さんはそう言うとポケットからスマホを取り出した。そして自身の魔法少女の私に衣装を見せてくれた。衣装のデザインはフリルの付いた王道のデザインで色はピンク。そんな絵に描いたような魔法少女風の服だ。悪い言い方をすれば……。あまり着たくはないデザインだと思う。
「フリフリしてて可愛いでしょ?」
「そ、そうだね」
 弥生さんにそう言われて反射的にそう答える。本当のことなんか言えない。
「でしょー。メイリンはチャイナドレスにしちゃったけど、やっぱり魔法少女はフリル付きのピンクじゃなきゃね! これのほうが小さい子に人気出るんだ」
「そっか。たしかにアニメなんかでも主人公はピンク着てるもんね」
「そうそう! あくまで私らは『子供に夢を与える』お仕事だからね。やるならとことんやりたいんだよねぇ」
 弥生さんはそう言うと穏やかに口元を緩めた――。

 それから弥生さんは一呼吸置いて私のこれからの予定について教えてくれた。
「さっきメイリンも言ってたけど、聖那ちゃんも近いうち衣装屋行くことになると思うよ。なんか諏訪さんの採寸だけじゃ足りないみたいなんだよね」
「そう言ってたね。幕張……。だっけ?」
「そうそう! 幕張に衣装屋さんあるからさ。……あとトライメライも幕張市内にあるから一緒に行くことになると思う。エレメンタルの本社みたいなもんだから顔出さなきゃだしね」
 初めて聞くことが次々と弥生さんの口から発せられる。トライメライ。幕張。衣装屋……。どうやら受かったからといってすぐにバイトができるわけではないようだ。
 先が思いやられるな……。私は内心そう思った。やはり日給二万円への道は楽ではないらしい――。

 しばらくすると美鈴さんが戻ってきた。額には汗が浮かび、頬が黒く汚れている。
「ほら、また手袋で顔拭ったでしょ!」
 弥生さんはそう言うとウエットティッシュを取り出して美鈴さんの頬の汚れを拭き取った。
「ああ、あんがと。ごめんね聖那ちゃん。待たせちゃって」
「ううん。大丈夫。それよりお客さん大丈夫?」
「大丈夫大丈夫! なんか親父がタイヤ交換の約束忘れたっぽいんだよねぇ。本当に勘弁して貰いたいよ」
 美鈴さんはそう言うと私の目の前に腰掛けた。彼女からは濃い自動車オイルの匂いがする。
「んじゃ。改めまして……。聖那ちゃん合格おめでとー! これで一緒に働けるね!」
「美鈴さんのアドバイスのおかげだよぉ。ありがと」
「いやいや、お役に立てたなら良かったよ。じゃあ……。乾杯しよっか!」
 美鈴さんはそう言うとコーラの入った紙コップを掲げた。そして大げさに「カンパーイ!」と叫んだ――。
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