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第二章 オートサービス香取
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「ごめん。タイヤ交換入っちゃった!」
美鈴さんは部屋に戻ってくるなりそんな風に謝ってきた。そしてそれに対して弥生さんが「またかよ」とツッコミを入れる。二人のやりとりから察するにこれはよくあることのようだ。
「聖那ちゃんごめんねぇ。一時間もあれば終わるからちょっと待ってて! すぐにお客さん来るって言うからさ」
美鈴さんはそう言うと申し訳なさそうにうなじを掻いた。どうやら美鈴さんは困るとうなじを掻く癖があるらしい。
「大丈夫だよー。お仕事大変だね」
「いやぁ……。まぁね。親父居ればいいんだけどさ……。じゃあちょっと待っててね!」
美鈴さんはそう言うとすぐに階段を駆け下りていった。本当に忙しない子だな……。と思った――。
「ごめんね。メイリンってお父さんと二人暮らしだから整備手伝ってるみたいなんだ」
美鈴さんが行ってしまうと不意に弥生さんにそう謝られた。
「ううん。大丈夫だよ。……それよりメイリンって美鈴さんのあだ名?」
「ん? ああ、あだ名って言うか……。本名かな? あの子のお母さん中華系だからさ」
そこまで話して弥生さんは『しまった』という顔になった。どうやらあまり他言して良い内容ではないらしい。
「そうなんだね。大丈夫、聞かなかったことにするよ」
「……いや、なんかごめんね。別にあの子隠してるわけじゃないんだけどさ。勝手に私がバラすのは違うよね」
弥生さんはそう言ってばつが悪そうに左の頬を指先で掻いた。
「あの子もさぁ。良い子なんだけどね。家庭環境複雑でさ。だから中学時代はかなり荒れてたんだよ。あ! コレも内緒だった!」
そう言って弥生さんは再び口を滑らせた。思っていたよりもこの子は口が軽いらしい。
「フフフ、でも……。二人とも仲良しなんだね。私幼なじみとか居ないから羨ましいなぁ」
「そうかなぁ? まぁ……。仲悪くはないよ。ずっと一緒だったから今更仲が良いっていうのも変な感じするけど……」
弥生さんはそう言うと「ふぅー」と息を漏らした。そして「腐れ縁だよ」と憎まれ口を叩く
「腐れ縁かぁ。でも……。いいなぁ。私、中学んときにこっち越してきたから幼なじみ居ないんだよね。それまでは大宮に住んでたからさ」
「へー。埼玉の大宮?」
「そうそう! だからこっちではみんな中学からの友達なんだよねぇ」
そこまで話して私はふと大宮に居た頃のことを思い出した。あの街は成田よりもだいぶ都会だった……。そんな気がする。もちろん郊外に行けば田園地帯もあるけれど、成田ほど『山!』って感じはしなかったはずだ。
大宮に住んでいた頃にはたくさんの友達がいた。団地が同じだったみっちゃん。一緒に通学したるりちゃん。クラブ活動が同じだったえみちん。みんな仲の良い友達だったと思う。
「やっぱり地元離れたときは寂しかった?」
「そうだね……。引っ越しした日は泣いたかな。中学一年まではけっこう連絡取り合ってたんだけどね。今はSNSでたまにいいねするだけだよ」
「そっかぁ。それは……。なんか寂しいね」
そう。なんか寂しいのだ。忘れるでもなく、付き合いが続くわけでもなく、ただただお互いの近況が画面越しに共有されるだけ。そんな関係がとてもむなしかった。まぁ、だからと言って今更大宮に遊びに行く気にもなれないのだけれど。
そんな話をしていると下の階から電動工具の音が聞こえ始めた。どうやらお客さんが到着したらしい――。
美鈴さんを待っている間。私たちは互いのことを色々話した。家族構成やら趣味やら学校やら……。そんなパーソナルな話だ。
そして弥生さんの人となりを知ると少し親近感が湧いた。彼女の父親は建築設計事務所勤めで母親は成田空港の管制官。それだけでだいぶ私と似ている気がする。設計と飛行機。それは私にとっても日常なのだ。
「そっか。聖那ちゃんのお兄ちゃん自衛官なんだね」
「うん。百里だから航空自衛隊だねー。だから普段帰ってこれないんだけどね」
「航空自衛隊だもんねぇ。いや、大変な仕事だと思うよ。ほんと……。尊敬しちゃう」
弥生さんは本気で感心したように言うと「うんうん」と頷いた。
「まぁね。身内だけど自慢のお兄ちゃんだよ。でも……。家族としては正直あんまり訓練以外で飛んで欲しくないかな」
「そうだよねー。戦闘機で飛ぶんだもんね」
弥生さんはそう言うと「無事に帰ってきて欲しいもんね」と付け加える。
本当にそうなのだ。無事に帰ってきて欲しい。絶対に殉職なんてしないで欲しい。家族みんながそう願っている。
でも……。兄の所属する航空自衛隊百里基地ではそうも言ってはいられないらしい。特に兄は『第七航空団』という部隊に所属しているので有事のときは逃れようがないだろう――。
そんな風にして私たちは互いの家族のことを色々話した。やはり弥生さんは私と生い立ちも似ている気がする。
美鈴さんは部屋に戻ってくるなりそんな風に謝ってきた。そしてそれに対して弥生さんが「またかよ」とツッコミを入れる。二人のやりとりから察するにこれはよくあることのようだ。
「聖那ちゃんごめんねぇ。一時間もあれば終わるからちょっと待ってて! すぐにお客さん来るって言うからさ」
美鈴さんはそう言うと申し訳なさそうにうなじを掻いた。どうやら美鈴さんは困るとうなじを掻く癖があるらしい。
「大丈夫だよー。お仕事大変だね」
「いやぁ……。まぁね。親父居ればいいんだけどさ……。じゃあちょっと待っててね!」
美鈴さんはそう言うとすぐに階段を駆け下りていった。本当に忙しない子だな……。と思った――。
「ごめんね。メイリンってお父さんと二人暮らしだから整備手伝ってるみたいなんだ」
美鈴さんが行ってしまうと不意に弥生さんにそう謝られた。
「ううん。大丈夫だよ。……それよりメイリンって美鈴さんのあだ名?」
「ん? ああ、あだ名って言うか……。本名かな? あの子のお母さん中華系だからさ」
そこまで話して弥生さんは『しまった』という顔になった。どうやらあまり他言して良い内容ではないらしい。
「そうなんだね。大丈夫、聞かなかったことにするよ」
「……いや、なんかごめんね。別にあの子隠してるわけじゃないんだけどさ。勝手に私がバラすのは違うよね」
弥生さんはそう言ってばつが悪そうに左の頬を指先で掻いた。
「あの子もさぁ。良い子なんだけどね。家庭環境複雑でさ。だから中学時代はかなり荒れてたんだよ。あ! コレも内緒だった!」
そう言って弥生さんは再び口を滑らせた。思っていたよりもこの子は口が軽いらしい。
「フフフ、でも……。二人とも仲良しなんだね。私幼なじみとか居ないから羨ましいなぁ」
「そうかなぁ? まぁ……。仲悪くはないよ。ずっと一緒だったから今更仲が良いっていうのも変な感じするけど……」
弥生さんはそう言うと「ふぅー」と息を漏らした。そして「腐れ縁だよ」と憎まれ口を叩く
「腐れ縁かぁ。でも……。いいなぁ。私、中学んときにこっち越してきたから幼なじみ居ないんだよね。それまでは大宮に住んでたからさ」
「へー。埼玉の大宮?」
「そうそう! だからこっちではみんな中学からの友達なんだよねぇ」
そこまで話して私はふと大宮に居た頃のことを思い出した。あの街は成田よりもだいぶ都会だった……。そんな気がする。もちろん郊外に行けば田園地帯もあるけれど、成田ほど『山!』って感じはしなかったはずだ。
大宮に住んでいた頃にはたくさんの友達がいた。団地が同じだったみっちゃん。一緒に通学したるりちゃん。クラブ活動が同じだったえみちん。みんな仲の良い友達だったと思う。
「やっぱり地元離れたときは寂しかった?」
「そうだね……。引っ越しした日は泣いたかな。中学一年まではけっこう連絡取り合ってたんだけどね。今はSNSでたまにいいねするだけだよ」
「そっかぁ。それは……。なんか寂しいね」
そう。なんか寂しいのだ。忘れるでもなく、付き合いが続くわけでもなく、ただただお互いの近況が画面越しに共有されるだけ。そんな関係がとてもむなしかった。まぁ、だからと言って今更大宮に遊びに行く気にもなれないのだけれど。
そんな話をしていると下の階から電動工具の音が聞こえ始めた。どうやらお客さんが到着したらしい――。
美鈴さんを待っている間。私たちは互いのことを色々話した。家族構成やら趣味やら学校やら……。そんなパーソナルな話だ。
そして弥生さんの人となりを知ると少し親近感が湧いた。彼女の父親は建築設計事務所勤めで母親は成田空港の管制官。それだけでだいぶ私と似ている気がする。設計と飛行機。それは私にとっても日常なのだ。
「そっか。聖那ちゃんのお兄ちゃん自衛官なんだね」
「うん。百里だから航空自衛隊だねー。だから普段帰ってこれないんだけどね」
「航空自衛隊だもんねぇ。いや、大変な仕事だと思うよ。ほんと……。尊敬しちゃう」
弥生さんは本気で感心したように言うと「うんうん」と頷いた。
「まぁね。身内だけど自慢のお兄ちゃんだよ。でも……。家族としては正直あんまり訓練以外で飛んで欲しくないかな」
「そうだよねー。戦闘機で飛ぶんだもんね」
弥生さんはそう言うと「無事に帰ってきて欲しいもんね」と付け加える。
本当にそうなのだ。無事に帰ってきて欲しい。絶対に殉職なんてしないで欲しい。家族みんながそう願っている。
でも……。兄の所属する航空自衛隊百里基地ではそうも言ってはいられないらしい。特に兄は『第七航空団』という部隊に所属しているので有事のときは逃れようがないだろう――。
そんな風にして私たちは互いの家族のことを色々話した。やはり弥生さんは私と生い立ちも似ている気がする。
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