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第一章 株式会社エレメンタル
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それから程なくして私たちはエレメンタルに到着した。事務所の前には高級そうなセダンが一台停まっている。
「おぉ。社長来てるみたいだねぇ。車あるわ」
美鈴さんはそう言うと私に降りるように促した。そして「一旦メロン取りに帰るよ。すぐ戻るから面接してて」と言ってそのまま行ってしまった。結果、私だけが事務所の前に取り残される。
一人になると急に不安がこみ上げてきた。今から社長面談か……。社長さんと話すのは緊張する……。昨日みたいに逢川さんとだけなら良かったのに。そんな意気地のないことを思った――。
それから私は意を決してエレメンタルのガラス扉を押し開けた。ここまで来たら行くしかない。日給二万円のためだ。多少の面倒は受け入れなければいけないだろう。
中に入ると昨日と同じように諏訪さんが受付で事務作業していた。やはりここが彼女の所定の位置らしい。
「こんにちはー」
「こんにちは夏木さん。お待ちしてました」
諏訪さんはそう言うと立ち上がって事務所の奥の扉を開いた。そして「夏木さんいらっしゃいました」と応接スペースに向かって声を掛ける。
「ではこちらにどうぞ」
「はい」
諏訪さんに促されるまま事務所に入る。するとそこには逢川さんともう一人男性の姿があった。年齢は逢川さんと同じくらいの……。やや小柄な男性だ。
「初めまして。夏木聖那です。今日はよろしくお願いします!」
私はできうる限り元気にその男性に挨拶した。男性は「代表の氷川です。よろしくお願いします」とやや無愛想に返した。
「お座りください」
氷川社長はそう言うと私の前のソファーに腰を下ろした。
「ではいくつか質問させてください」
「はい。よろしくお願いします」
それから私は社長に色々なことを聞かれた。家族構成だとか部活動だとか。そんなありふれた質問だ。
私はそれらの質問に素直に答えていった。さっきまであれほど緊張していたのが嘘みたいに受け答えできている自分自身に少し驚く。
「そうですか……。では募集要項通り週末限定で働きたいということで」
一通り面接を終えると社長は几帳面に履歴書を折って封筒にしまった。そしてその封筒をテーブルの端に寄せる。
「はい! 可能であれば夏休みが終わったあとも続けたいです」
「……わかりました。では最後に。夏木さん? あなたはなぜここで働きたいと思ったのですが? その理由をお聞かせください」
社長はそう言うとテーブルの上で手を組んで私に視線を向けた。志望動機。まぁアルバイトでもそれぐらいは聞かれるか……。なんて答えよう? と一瞬思考が止まる。
「そこまで深く考えないで大丈夫です。正直な理由を聞かせてください。私は夏木さんの本当の気持ちが知りたいだけなので」
「はい……」
私は返事だけして軽く深呼吸した。そして美鈴さんに言われたことを思い返す。
『正直に答えた方が良い』
そんなありふれた言葉だ。嘘は吐かない方が良い。きっと社長にはバレるから。美鈴さんはそう言っていた。
だから私は「お金が欲しいからです。一日二万円貰えればやりたいことができるので」と守銭奴みたいに答えた。これが正直な気持ちなのだ。……というよりもここに応募する人間でそれ以外の人は稀だと思う。
「……そうですか。ではそのお金であなたがやりたいことはなんですか?」
「それは……」
私はそう聞かれて再び言い淀んだ。お金でやりたいこと。言ったら笑われそうだな……。そう思ったから――。
「おぉ。社長来てるみたいだねぇ。車あるわ」
美鈴さんはそう言うと私に降りるように促した。そして「一旦メロン取りに帰るよ。すぐ戻るから面接してて」と言ってそのまま行ってしまった。結果、私だけが事務所の前に取り残される。
一人になると急に不安がこみ上げてきた。今から社長面談か……。社長さんと話すのは緊張する……。昨日みたいに逢川さんとだけなら良かったのに。そんな意気地のないことを思った――。
それから私は意を決してエレメンタルのガラス扉を押し開けた。ここまで来たら行くしかない。日給二万円のためだ。多少の面倒は受け入れなければいけないだろう。
中に入ると昨日と同じように諏訪さんが受付で事務作業していた。やはりここが彼女の所定の位置らしい。
「こんにちはー」
「こんにちは夏木さん。お待ちしてました」
諏訪さんはそう言うと立ち上がって事務所の奥の扉を開いた。そして「夏木さんいらっしゃいました」と応接スペースに向かって声を掛ける。
「ではこちらにどうぞ」
「はい」
諏訪さんに促されるまま事務所に入る。するとそこには逢川さんともう一人男性の姿があった。年齢は逢川さんと同じくらいの……。やや小柄な男性だ。
「初めまして。夏木聖那です。今日はよろしくお願いします!」
私はできうる限り元気にその男性に挨拶した。男性は「代表の氷川です。よろしくお願いします」とやや無愛想に返した。
「お座りください」
氷川社長はそう言うと私の前のソファーに腰を下ろした。
「ではいくつか質問させてください」
「はい。よろしくお願いします」
それから私は社長に色々なことを聞かれた。家族構成だとか部活動だとか。そんなありふれた質問だ。
私はそれらの質問に素直に答えていった。さっきまであれほど緊張していたのが嘘みたいに受け答えできている自分自身に少し驚く。
「そうですか……。では募集要項通り週末限定で働きたいということで」
一通り面接を終えると社長は几帳面に履歴書を折って封筒にしまった。そしてその封筒をテーブルの端に寄せる。
「はい! 可能であれば夏休みが終わったあとも続けたいです」
「……わかりました。では最後に。夏木さん? あなたはなぜここで働きたいと思ったのですが? その理由をお聞かせください」
社長はそう言うとテーブルの上で手を組んで私に視線を向けた。志望動機。まぁアルバイトでもそれぐらいは聞かれるか……。なんて答えよう? と一瞬思考が止まる。
「そこまで深く考えないで大丈夫です。正直な理由を聞かせてください。私は夏木さんの本当の気持ちが知りたいだけなので」
「はい……」
私は返事だけして軽く深呼吸した。そして美鈴さんに言われたことを思い返す。
『正直に答えた方が良い』
そんなありふれた言葉だ。嘘は吐かない方が良い。きっと社長にはバレるから。美鈴さんはそう言っていた。
だから私は「お金が欲しいからです。一日二万円貰えればやりたいことができるので」と守銭奴みたいに答えた。これが正直な気持ちなのだ。……というよりもここに応募する人間でそれ以外の人は稀だと思う。
「……そうですか。ではそのお金であなたがやりたいことはなんですか?」
「それは……」
私はそう聞かれて再び言い淀んだ。お金でやりたいこと。言ったら笑われそうだな……。そう思ったから――。
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