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第一章 株式会社エレメンタル
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「ただいまー」
自宅に帰ると私は玄関から奥に声を掛けた。そして少し間を置いてリビングから母の声が返ってきた。心なしかその声はいつもより上機嫌に聞こえる。
「ギリギリじゃないの。ほら、あんたも早く支度しなさい」
母は私を一瞥するとすぐに準備するように促した。母の口元はいつもより明るんでいる。どうやら今日はルージュのリップを塗っているらしい。
私は内心『いつまで新婚気分のつもり?』と思った。当然直接言ったりはしない。流石の私もそこまでは無粋ではないのだ。
それから私はすぐに自室に戻った。着ていった制服から夏の匂いがした――。
部屋に戻るとすぐに制服からラフな服装に着替えた。白のTシャツワンピと黒のレギンス。父のお迎えぐらいならこの服装で問題ないと思う。
「聖那ー。準備できた?」
着替え終わると同時に下の階から母の声が聞こえた。私は「できたー」と反射的に答えた。そしてそのまま一階に降りる。
「じゃあ行くよ。駅前空いてればいいけど」
母はそう言うと左手の腕時計に視線を落とした――。
準備が終わると私は母のミニクーパーのリアシートに乗り込んだ。そして乗り込むとき、天板に頭をぶつけそうになった。この車に乗るときはいつもこうなのだ。実用性の欠片もない。母の愛車はそんな趣味全開の車だと思う。
「シートベルトしなさいね? 公務員の家族が交通違反とかあんまり心証よくないんだから」
「わかってるよ」
私はそう生返事するとシートベルトを締めた――。
それから私たちは京成成田駅に向かった。移動中の母は妙に饒舌で楽しげだった。おそらく父に会えるのが余程嬉しいのだと思う。離れて暮らしてはいるけれど両親は普通の夫婦よりずっとラブラブなのだ。叔母から聞いた話だと駆け落ち同然で結婚したらしいし、もしかしたら障害があればあるほど二人の気持ちは燃え上がるのかも知れない。まぁ、正直あまりラブラブ過ぎてもこっちが恥ずかしくなるのだけれど。
夕方の成田市内は酷い混みようだった。国道五一号線が車のテールランプに埋め尽くされていて目に染みる。
母はそんな渋滞の中をもどかしそうに車を走らせていた。嬉しさと早く会いたいという気持ち。たぶんその両方が入り交じっているのだと思う。
そんな感じで車を三〇分ほど走らせるとようやく京成成田駅前にたどり着いた。母は慣れた調子でウインカーを右に出して駅前のロータリーに車を滑り込ませる。
「聖那。悪いんだけどお父さんに電話してあげて」
「はーい」
私は母に言われるまま父に電話を掛けた。そして数コール後に父の声が電話から聞こえてくる。
『もしもし?』
「あ! お父さん? 迎え来たよー。今駅前のロータリーにいるー」
『そうか。じゃあそこで待っててってお母さんに伝えといて! 今からそっち向かうから』
「はーい。じゃあ待ってるね」
それだけ話して電話を切る。電話口から聞こえた雑音から察するにおそらく父はまだホームにいたのだろう。
それから私たちは駅のロータリーに停車して父が出てくるのを待った。行き交い路線バスの陰がやけに大きく見えた。
自宅に帰ると私は玄関から奥に声を掛けた。そして少し間を置いてリビングから母の声が返ってきた。心なしかその声はいつもより上機嫌に聞こえる。
「ギリギリじゃないの。ほら、あんたも早く支度しなさい」
母は私を一瞥するとすぐに準備するように促した。母の口元はいつもより明るんでいる。どうやら今日はルージュのリップを塗っているらしい。
私は内心『いつまで新婚気分のつもり?』と思った。当然直接言ったりはしない。流石の私もそこまでは無粋ではないのだ。
それから私はすぐに自室に戻った。着ていった制服から夏の匂いがした――。
部屋に戻るとすぐに制服からラフな服装に着替えた。白のTシャツワンピと黒のレギンス。父のお迎えぐらいならこの服装で問題ないと思う。
「聖那ー。準備できた?」
着替え終わると同時に下の階から母の声が聞こえた。私は「できたー」と反射的に答えた。そしてそのまま一階に降りる。
「じゃあ行くよ。駅前空いてればいいけど」
母はそう言うと左手の腕時計に視線を落とした――。
準備が終わると私は母のミニクーパーのリアシートに乗り込んだ。そして乗り込むとき、天板に頭をぶつけそうになった。この車に乗るときはいつもこうなのだ。実用性の欠片もない。母の愛車はそんな趣味全開の車だと思う。
「シートベルトしなさいね? 公務員の家族が交通違反とかあんまり心証よくないんだから」
「わかってるよ」
私はそう生返事するとシートベルトを締めた――。
それから私たちは京成成田駅に向かった。移動中の母は妙に饒舌で楽しげだった。おそらく父に会えるのが余程嬉しいのだと思う。離れて暮らしてはいるけれど両親は普通の夫婦よりずっとラブラブなのだ。叔母から聞いた話だと駆け落ち同然で結婚したらしいし、もしかしたら障害があればあるほど二人の気持ちは燃え上がるのかも知れない。まぁ、正直あまりラブラブ過ぎてもこっちが恥ずかしくなるのだけれど。
夕方の成田市内は酷い混みようだった。国道五一号線が車のテールランプに埋め尽くされていて目に染みる。
母はそんな渋滞の中をもどかしそうに車を走らせていた。嬉しさと早く会いたいという気持ち。たぶんその両方が入り交じっているのだと思う。
そんな感じで車を三〇分ほど走らせるとようやく京成成田駅前にたどり着いた。母は慣れた調子でウインカーを右に出して駅前のロータリーに車を滑り込ませる。
「聖那。悪いんだけどお父さんに電話してあげて」
「はーい」
私は母に言われるまま父に電話を掛けた。そして数コール後に父の声が電話から聞こえてくる。
『もしもし?』
「あ! お父さん? 迎え来たよー。今駅前のロータリーにいるー」
『そうか。じゃあそこで待っててってお母さんに伝えといて! 今からそっち向かうから』
「はーい。じゃあ待ってるね」
それだけ話して電話を切る。電話口から聞こえた雑音から察するにおそらく父はまだホームにいたのだろう。
それから私たちは駅のロータリーに停車して父が出てくるのを待った。行き交い路線バスの陰がやけに大きく見えた。
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