日給二万円の週末魔法少女 ~夏木聖那と三人の少女~

海獺屋ぼの

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第一章 株式会社エレメンタル

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 とりあえず私はその求人広告に応募してみることにした。面接だけしてみよう。そう思ったのだ。
 求人広告に書かれている番号に電話を掛けるとツーコールほどで『はい! お世話になっております。株式会社エレメンタルです』と上品そうな女性の声が聞こえてきた。声色から察するにたぶん二〇代後半くらいの人だと思う。
「あの私、夏木聖那って言います。そちらの『魔法少女募集』の求人見たんですがまだ募集ってしてますか?」
 私がそんな風にたどたどしくそう聞くと彼女は『はい! 今現在募集しております。今担当の者に代わりますので少々お待ちください』と丁寧に答えてくれた。そして自然な流れで保留音に切り替わる。
 保留中。私は胸を摩りながら担当者が電話に出るのを待った。日給二万円、日給二万円。そう思うと変に心音が早くなる。
『はい、お電話代わりました。担当の逢川です』
 一五秒ほど待っただろうか? 保留が終わると担当者の男性が電話に出た。
「あの私、夏木聖那って言います。そちらの『魔法少女募集』の求人見たんですが」
『はいはい、募集中ですよー。ちなみに夏木さんは今何歳ですか?』
「えーと……。先月で一六歳になりました」
『ふんふん。なるほどぉ……。じゃあ高校一年生ですかね?』
「はい! そうです!」
『わっかりましたぁ。ではひとまず面接させていただきたいので、都合の良い日を教えていただけますか?』
「はい! 今夏休みなのでいつでも大丈夫です!」
『そうですかぁ。では……。今からどうです? ちょうどこちらも予定空いているので』
 逢川さんはあっけらかんと言うと『正直、その方がこちらとしてはありがたいです』と付け加えた。
「……わかりました。ただ履歴書準備するので少し時間が掛かるかも知れないです……」
『ああ、今回は履歴書なしで大丈夫ですよー。採用になったら後日用意して貰う形でぜんっぜん! 問題ないので』
「わか……りました。じゃあ今からそちらお邪魔させていただきます。自転車で行くので一時間ぐらいで着けると思います」
『はいはぁーい。了解しました。ではお待ちしてますね』
 逢川さんはフランクに言うとそのまま電話を切った。この人本当に大丈夫なのか? と内心心配になる。
 さて……。電話してしまったし面接に行こうかな……。どんな服装で行けば良いのだろう? そんなことを思った。
 
 それから私は面接に着て行く服を選んだ。この場合どんな格好が正解なのか分からない。
『魔法少女の面接対策マニュアル!』
 そんなものがあれば良いのに。そんな馬鹿げたことを思った。そもそも魔法少女になるのに面接を受けるなんて話聞いたこともないのに。
 勝手なイメージだけれど『魔法の国が大変なことになって困った妖精が人間の少女に助けを求める』的な感じが普通だと思う。
 普通……。いや、そもそもそれが普通だと感じる私もどうかと思うけれど。
 まぁいいか。とりあえず制服で行こう。学生が冠婚葬祭に出席するときは制服だし、それで問題はないはずだ。
 もし『何で魔法のステッキ持ってないの? 変身衣装は?』ってツッコむような会社だったらどうしよう……。いや、もしそうならそもそもそこで働きたくないな……。絶対パワハラ、モラハラ、セクハラじゃん! そんときは労基……。だっけに言えばいいのかな。そんな考えが頭の中をぐるぐる回った。まぁ全部妄想だ。意味なんてないし、当然正解もない。
 そこまで考えて私は妄想を止めた。そしてクローゼットから学校の制服を取り出した。ワイシャツにスカートに製服用のリボン。いかにも女子高生といった感じのラインナップだ。
「とりあえずこれで行こう……」
 私はそう独り言を呟くとTシャツとハーフパンツを脱いで制服に着替えた。さて……。親に何て言って出かけよう――。
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