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第二章 ニコタマ文芸部
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その日部活動はなかった。文芸部だけではない。学校全体が帰宅部に変わる。例によってマスコミが何組か校門で待機していたけれど、生徒たちは彼らをスルーしていた。
「御堂さん大丈夫かな?」
「さーてね……。そういえば今日見てないね」
たまたまかもしれないけれど、朝から御堂さんの姿を見ていない。全校集会のときも見かけなかったし、もしかしたら自宅待機なのかもしれない。
「今日栞んち行っても大丈夫? 原稿中途半端でさ……」
「ん? いいよー」
「ありがとう。ウチだと親がうるさいからさ」
楓子はそう言うとため息を吐いた。おそらくあまり帰りたくはないのだろう。彼女の両親は決して悪い人たちではないけれど楓子は重荷に感じているようだ。
篠田家は控えめに言っても良家だった。夫婦仲も良好だし、楓子の兄は国立の有名大に通っているらしい。前に一度、彼女の兄と会ったことがあったけれど、見るからに真面目そうな好青年だった。顔立ちはどことなく楓子に似ていたと思う。
そんな非の打ち所のなさそうな家での暮らしを楓子は嫌がっていた。嫌がって……。いや、違う。彼女の言葉を借りるとすれば「息が詰まる」らしい。
「栞んちはいいよね。お母さんも理解あるしさ」
「理解……。うーん、たぶん私にあんまり興味がないだけかな……。お陰で好き勝手させて貰えてるけど」
「それが羨ましいんだよ。なんていうか……。ほら、ウチの親って独善的だからさ」
独善的。たしかにその言葉が適切かもしれない。彼女の両親は良識的で常識的ではあるけれど、非常に独善的なのだろう。
「でもさ……。それも楓子ちゃんの幸せを願ってのことだと思うよ?」
私はしょうもない美辞麗句を口にした。自分で言っていても嫌になる。
「栞さぁ……。本当にそう思う? 将来の進路から結婚相手まで決めたがる親が本当に娘大事だと思う?」
「そ……。それは……」
正直に言おう。私はそんな親じゃなくて本当に良かったと思う。手前味噌だけれど川村本子のような女性の娘で本当に良かった。別に楓子の両親を貶すわけではないけれど……。
「ね? たしかにウチの親はいい人たちだとは思うけど……。一緒に暮らすと本当に嫌になるよ」
楓子は再びため息を吐いた。深く。重たいため息を――。
「御堂さん大丈夫かな?」
「さーてね……。そういえば今日見てないね」
たまたまかもしれないけれど、朝から御堂さんの姿を見ていない。全校集会のときも見かけなかったし、もしかしたら自宅待機なのかもしれない。
「今日栞んち行っても大丈夫? 原稿中途半端でさ……」
「ん? いいよー」
「ありがとう。ウチだと親がうるさいからさ」
楓子はそう言うとため息を吐いた。おそらくあまり帰りたくはないのだろう。彼女の両親は決して悪い人たちではないけれど楓子は重荷に感じているようだ。
篠田家は控えめに言っても良家だった。夫婦仲も良好だし、楓子の兄は国立の有名大に通っているらしい。前に一度、彼女の兄と会ったことがあったけれど、見るからに真面目そうな好青年だった。顔立ちはどことなく楓子に似ていたと思う。
そんな非の打ち所のなさそうな家での暮らしを楓子は嫌がっていた。嫌がって……。いや、違う。彼女の言葉を借りるとすれば「息が詰まる」らしい。
「栞んちはいいよね。お母さんも理解あるしさ」
「理解……。うーん、たぶん私にあんまり興味がないだけかな……。お陰で好き勝手させて貰えてるけど」
「それが羨ましいんだよ。なんていうか……。ほら、ウチの親って独善的だからさ」
独善的。たしかにその言葉が適切かもしれない。彼女の両親は良識的で常識的ではあるけれど、非常に独善的なのだろう。
「でもさ……。それも楓子ちゃんの幸せを願ってのことだと思うよ?」
私はしょうもない美辞麗句を口にした。自分で言っていても嫌になる。
「栞さぁ……。本当にそう思う? 将来の進路から結婚相手まで決めたがる親が本当に娘大事だと思う?」
「そ……。それは……」
正直に言おう。私はそんな親じゃなくて本当に良かったと思う。手前味噌だけれど川村本子のような女性の娘で本当に良かった。別に楓子の両親を貶すわけではないけれど……。
「ね? たしかにウチの親はいい人たちだとは思うけど……。一緒に暮らすと本当に嫌になるよ」
楓子は再びため息を吐いた。深く。重たいため息を――。
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