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第二章 ニコタマ文芸部
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中原くんの話はそこで終わった。どうやらそこからは私たちの知っているストーリーのようだ。
「……というわけなんだ」
中原くんはそこまで話すと深いため息を吐いた。
「そっか……」
「御堂さん、本当にごめんね。君に迷惑掛かるって分かっていながらこうするしかなかったんだ……。ニコタマ高の悪い部分取り除く為にはね」
そういうと中原くんはテーブルに頭を着けて御堂さんに謝った。真摯な態度だ。少なくともそこには打算のようなものはないように見える。
「いいよ……。中原くん居なかったら私退学してたしさ」
「本当に申し訳ない……。それでね。これからのことなんだけど……」
中原くんは私たちの顔を見渡すと続きを語り始めた――。
「おかえり」
自宅に戻ると母が店内のテーブルを使って作業していた。創作活動ではない。明らかな税務作業。
「ただいま」
「遅かったわね。夕飯いる?」
「大丈夫! 文芸部のみんなと食べてきたから」
「あらそう?」
どうやら夕食の準備はないらしい。まぁ、最近は帰ってから準備するので当然だろう。
「コーヒーでも煎れる?」
「うん。ありがとう。おばあちゃん居ないから助かるわ」
「帰り明後日だっけ? おばあちゃん」
「そうそう。いい年なのに元気よねー」
母はそう言うと苦笑いを浮かべた。祖母が居ないと母のずぼらに拍車が掛かるようだ。
今年に入ってから祖母はよく泊まりがけで出かけるようになった。もともとアクティブな人だったけれど、詩集の出版が決まってからは多くなった気がする。
話は前後するけれど、祖母は昔から詩を書いていた。若い頃は詩集をよく出していたらしい。母が生まれてからはその世界から遠のいていたけれど、祖父が亡くなってから復活したらしい。良妻賢母の良妻の部分が詩人に置き換わったのだろうと思う。
「そういえば学校大変だったわね? ワイドショーで好き勝手言ってたわよ」
「ああ……。やっぱりテレビでやってた?」
コーヒーの準備をしていると母からそんな話を聞かされた。予想はしていたけれど、改めて聞くと変な気分になる。
「うん。たしか生徒のカンニングを偽装したとか……。学力差別だとか。そんな話だったわね」
「そっか……」
「あれってこの前連れてきた子の話でしょ? たしか御堂……さんだっけ?」
「そうだよ。よく覚えてたね」
「そりゃ覚えてるわよ。あなたがあんなにたくさん友達連れてくるなんて滅多にないからね」
母に言われて「確かにね」と思った。自分で言うのもアレだけど、私は友達がかなり少ないのだ。
そんな話をしているとケトルがコトコト音を立て始めた。沸騰寸前。そんな音だ。
「ねぇ栞。あなたの同級生に中原大地くんって居る?」
唐突に母の口から中原くんの名前が出た。思わずコーヒーを準備する手が止まる。
「え? いるけど……」
「やっぱりね……。そっかそっか」
母は何やら納得したようにうなずく。
「中原くんがどうしたの?」
「ん? いやね……。ワイドショーでインタビューされた生徒Nって言ってたからそうじゃないかと思ったのよ」
違う、そうじゃない。と心の中で思った。私が聞きたいのはなぜ彼を知っているかだ。
「なんで中原くん知ってるの?」
「え? ああ……。そうよね。あなたは知らないものね」
母は妙に勿体ぶったような言い方をした。はぐらかすのを楽しんでいるようにさえ感じる。
「あのね。私が高校のときの友達で中原芽衣子さんって子がいたの! しばらく連絡とってないけど仲良かったのよ。それで彼女の息子さんも二子玉川通ってるって聞いてたからそうじゃないかって思ったのよ」
「そ、そうなんだ……」
「うん。芽衣子ちゃんは頭が良い子だったのよね。とにかく勝ち気で」
中原くんの母親と母が同級生。それを聞いて因縁めいた何かを感じた。因縁……。悪縁で有り、同時に良縁。そんな風に――。
「……というわけなんだ」
中原くんはそこまで話すと深いため息を吐いた。
「そっか……」
「御堂さん、本当にごめんね。君に迷惑掛かるって分かっていながらこうするしかなかったんだ……。ニコタマ高の悪い部分取り除く為にはね」
そういうと中原くんはテーブルに頭を着けて御堂さんに謝った。真摯な態度だ。少なくともそこには打算のようなものはないように見える。
「いいよ……。中原くん居なかったら私退学してたしさ」
「本当に申し訳ない……。それでね。これからのことなんだけど……」
中原くんは私たちの顔を見渡すと続きを語り始めた――。
「おかえり」
自宅に戻ると母が店内のテーブルを使って作業していた。創作活動ではない。明らかな税務作業。
「ただいま」
「遅かったわね。夕飯いる?」
「大丈夫! 文芸部のみんなと食べてきたから」
「あらそう?」
どうやら夕食の準備はないらしい。まぁ、最近は帰ってから準備するので当然だろう。
「コーヒーでも煎れる?」
「うん。ありがとう。おばあちゃん居ないから助かるわ」
「帰り明後日だっけ? おばあちゃん」
「そうそう。いい年なのに元気よねー」
母はそう言うと苦笑いを浮かべた。祖母が居ないと母のずぼらに拍車が掛かるようだ。
今年に入ってから祖母はよく泊まりがけで出かけるようになった。もともとアクティブな人だったけれど、詩集の出版が決まってからは多くなった気がする。
話は前後するけれど、祖母は昔から詩を書いていた。若い頃は詩集をよく出していたらしい。母が生まれてからはその世界から遠のいていたけれど、祖父が亡くなってから復活したらしい。良妻賢母の良妻の部分が詩人に置き換わったのだろうと思う。
「そういえば学校大変だったわね? ワイドショーで好き勝手言ってたわよ」
「ああ……。やっぱりテレビでやってた?」
コーヒーの準備をしていると母からそんな話を聞かされた。予想はしていたけれど、改めて聞くと変な気分になる。
「うん。たしか生徒のカンニングを偽装したとか……。学力差別だとか。そんな話だったわね」
「そっか……」
「あれってこの前連れてきた子の話でしょ? たしか御堂……さんだっけ?」
「そうだよ。よく覚えてたね」
「そりゃ覚えてるわよ。あなたがあんなにたくさん友達連れてくるなんて滅多にないからね」
母に言われて「確かにね」と思った。自分で言うのもアレだけど、私は友達がかなり少ないのだ。
そんな話をしているとケトルがコトコト音を立て始めた。沸騰寸前。そんな音だ。
「ねぇ栞。あなたの同級生に中原大地くんって居る?」
唐突に母の口から中原くんの名前が出た。思わずコーヒーを準備する手が止まる。
「え? いるけど……」
「やっぱりね……。そっかそっか」
母は何やら納得したようにうなずく。
「中原くんがどうしたの?」
「ん? いやね……。ワイドショーでインタビューされた生徒Nって言ってたからそうじゃないかと思ったのよ」
違う、そうじゃない。と心の中で思った。私が聞きたいのはなぜ彼を知っているかだ。
「なんで中原くん知ってるの?」
「え? ああ……。そうよね。あなたは知らないものね」
母は妙に勿体ぶったような言い方をした。はぐらかすのを楽しんでいるようにさえ感じる。
「あのね。私が高校のときの友達で中原芽衣子さんって子がいたの! しばらく連絡とってないけど仲良かったのよ。それで彼女の息子さんも二子玉川通ってるって聞いてたからそうじゃないかって思ったのよ」
「そ、そうなんだ……」
「うん。芽衣子ちゃんは頭が良い子だったのよね。とにかく勝ち気で」
中原くんの母親と母が同級生。それを聞いて因縁めいた何かを感じた。因縁……。悪縁で有り、同時に良縁。そんな風に――。
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