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第二章 ニコタマ文芸部
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雨音が激しくなる。店の前の側溝は川のように流れていた。アスファルトを打ち付ける雨音もすっかり水がはねる音に変わっている。
「みんな本当にありがとうね……」
御堂さんの声は震えていた。上ずった声は頼りなく、まるで迷子の子供のようだ。
「いいんだよー。頑張ったのは御堂さんなんだからさぁ」
そう、頑張ったのは私たちじゃない。御堂さん自身が必死に勉強したのだ。
「でも……。私一人だったらきっとうまくはいかなかったから……」
御堂さんの目には涙が滲んでいた。彼女はその涙をどうにか瞳に残そうしている。
きっと彼女は耐えきれないぐらい辛かったのだ。大好きだった陸上競技から無理矢理離され、クラスでは孤立し、大人たちはそんな彼女を救おうとしなかた。
いったい何が正義なのか。それは分からないけれど、今高校で行われていることは少なくとも正義からはほど遠いと思う。道徳的に。
一〇分ぐらい激しい雨が降り続いた。雷の光りが見え、雷鳴が轟いた。夕立。明らかな通り雨のようだ。
そして次第に雨は弱まっていった。一秒、また一秒と徐々に雨音は遠ざかり、日の光が見え始める。
「お礼言うのはまだ早いよ。今回の中間テストで結果出てからしな」
浩樹は普段と変わらない口調で言うと御堂さんに微笑んだ。いつものようなふざけた笑いではない。こんな穏やかな顔の浩樹を見るのは初めてかも知れない。
「雨やんだね」
楓子が呟く。彼女は顔を上げると窓の外を覗き込んだ。窓から差し込む日の光は眩しく、目に刺さる。
「ちょっと散歩しない? 最近ずっと勉強だから肩こっちゃったよ」
私はみんなにそんな提案をした。
「そ……。うだね。雨上がったし」
そう言うと水貴は立ち上がった――。
店の外に出ると道路全体が大きな水たまりのようになっていた。街路樹からは水が滴り落ち、水滴がキラキラ光っている。水に満たされた街。
それから私たち五人は多摩川河川敷に出かけた。歩くたび、靴の裏から濡れた地面の感触が伝わる。舗装された道、土の道。芝生。足下が変わるたび、その感触も変化した。
「もう脚大丈夫なの?」
御堂さんの可愛らしいサンダルを見ながら私は訪ねた。
「うん。すっかりいい感じだよ。しばらく走ってないから筋肉落ちたけどね……」
言われて気がついたけれど、彼女は片足を庇うような歩き方をしていた。いや、庇うというよりは左右でバランスがうまくとれないと言った方がいい。アンバランスな歩き方からその様子はうかがえる。
「早く全快するといいね!」
「そうだね……」
全快。御堂さんはそうなりたい反面、なったところで、という気持ちもあるのだろう。彼女の返事にはそんな意味が込められているように聞こえた。
「あ! ちょっと駅の方!」
多摩川に着くと水貴が声を上げた。
「あ!」
思わず私も声を上げる。
田園都市線の線路の上を電車が行き来している。その電車越しにそれはあった。
「雨上がりだからねー」
浩樹は当たり前のような口調それを見つめた。七色に輝くそれはまさに橋のようだ。
「だいじょうぶだよ御堂さん。きっと上手くいくから」
私は何も担保されていない言葉を吐いた。保証なんてない、約束されてもいないそんな言葉。
それから私たち消えるまで虹を眺め続けた。
「みんな本当にありがとうね……」
御堂さんの声は震えていた。上ずった声は頼りなく、まるで迷子の子供のようだ。
「いいんだよー。頑張ったのは御堂さんなんだからさぁ」
そう、頑張ったのは私たちじゃない。御堂さん自身が必死に勉強したのだ。
「でも……。私一人だったらきっとうまくはいかなかったから……」
御堂さんの目には涙が滲んでいた。彼女はその涙をどうにか瞳に残そうしている。
きっと彼女は耐えきれないぐらい辛かったのだ。大好きだった陸上競技から無理矢理離され、クラスでは孤立し、大人たちはそんな彼女を救おうとしなかた。
いったい何が正義なのか。それは分からないけれど、今高校で行われていることは少なくとも正義からはほど遠いと思う。道徳的に。
一〇分ぐらい激しい雨が降り続いた。雷の光りが見え、雷鳴が轟いた。夕立。明らかな通り雨のようだ。
そして次第に雨は弱まっていった。一秒、また一秒と徐々に雨音は遠ざかり、日の光が見え始める。
「お礼言うのはまだ早いよ。今回の中間テストで結果出てからしな」
浩樹は普段と変わらない口調で言うと御堂さんに微笑んだ。いつものようなふざけた笑いではない。こんな穏やかな顔の浩樹を見るのは初めてかも知れない。
「雨やんだね」
楓子が呟く。彼女は顔を上げると窓の外を覗き込んだ。窓から差し込む日の光は眩しく、目に刺さる。
「ちょっと散歩しない? 最近ずっと勉強だから肩こっちゃったよ」
私はみんなにそんな提案をした。
「そ……。うだね。雨上がったし」
そう言うと水貴は立ち上がった――。
店の外に出ると道路全体が大きな水たまりのようになっていた。街路樹からは水が滴り落ち、水滴がキラキラ光っている。水に満たされた街。
それから私たち五人は多摩川河川敷に出かけた。歩くたび、靴の裏から濡れた地面の感触が伝わる。舗装された道、土の道。芝生。足下が変わるたび、その感触も変化した。
「もう脚大丈夫なの?」
御堂さんの可愛らしいサンダルを見ながら私は訪ねた。
「うん。すっかりいい感じだよ。しばらく走ってないから筋肉落ちたけどね……」
言われて気がついたけれど、彼女は片足を庇うような歩き方をしていた。いや、庇うというよりは左右でバランスがうまくとれないと言った方がいい。アンバランスな歩き方からその様子はうかがえる。
「早く全快するといいね!」
「そうだね……」
全快。御堂さんはそうなりたい反面、なったところで、という気持ちもあるのだろう。彼女の返事にはそんな意味が込められているように聞こえた。
「あ! ちょっと駅の方!」
多摩川に着くと水貴が声を上げた。
「あ!」
思わず私も声を上げる。
田園都市線の線路の上を電車が行き来している。その電車越しにそれはあった。
「雨上がりだからねー」
浩樹は当たり前のような口調それを見つめた。七色に輝くそれはまさに橋のようだ。
「だいじょうぶだよ御堂さん。きっと上手くいくから」
私は何も担保されていない言葉を吐いた。保証なんてない、約束されてもいないそんな言葉。
それから私たち消えるまで虹を眺め続けた。
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