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第二章 ニコタマ文芸部

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「本当は半井くんもいてくれたらよかったんだがね」
 村田先生はもったいぶった口調で言うと無精髭をいじった。
「はぁ……。何かありました?」
「いやね……。御堂火憐さんのことなんだがね」
「え!?」
 私は思わず声を上げてしまった。
「おぉ。驚くってことは何か知っているのかね?」
「いえ……。ただ、何というか……」
「まぁ、なら話は早い。単刀直入で悪いんだが、文芸部で御堂さん預かってやってくれないかな? 実は……」
 それから村田先生はことの経緯を教えてくれた。
 やはり御堂さんは昨日の陸上部の騒動の中心人物だったらしい。村田先生の話だとそれで昨日は大もめに揉めたとか……。
「本当のところは僕にもわからんけど、陸上部内で御堂さんがいじめをしていたらしい……。おっと、川村さん。このことは内緒だからね。篠田さんも」
 村田先生は機嫌が良いとも悪いともとれるような言い方で言うと、苦笑いを浮かべた。
「あの……。御堂さんが陸上部でトラブルに遭ったのはなんとなくわかります。でも……。それでなんでウチの部で預かりになるんですか?」
「うーん……。それは話すとちょっとややこしくなるんだがね。ほら瀬戸くんいるだろ? 彼がね……」
 正直、話が全く見えない。なぜ浩樹が?
「ま、詳しくは瀬戸くんから聞いてね。僕はこれから放送室のメンテナンス行くからさ」
「はぁ……」
 それだけ言うと村田先生は部室から出て行った――。

「お疲れーっす」
 村田先生が来てから三○分後。浩樹が何食わぬ顔で部室にやってきた。
「お疲れ様……。ねぇ? さっき村田先生が来たんだけど……」
「ん? ああ、来たんだね。じゃあ……。御堂さん入っていいよ」
 そう言うと浩樹は部室の入り口に声を掛けた。
「失礼しまーす……」
 そう言うと御堂さんが部室に入ってきた。彼女は片足を引きずるように部屋の中に入るとケンケン足で部室のドアを閉める。
「どうも……」
「あ! 川村さん。この前はありがとうね」
「う、うん。大丈夫だよ。それより……」
 私は御堂さんに声を掛けながら浩樹の方に視線を向けた。
「ああ……。ちょっと待っててね。もうすぐ水貴も来るだろうから」
 浩樹はばつが悪そうに言ってうなじを搔いた。
「……。まぁ……。御堂さん、文芸部にようこそ」
 文芸部にようこそ。その言葉は自分の口から出たとは思えないほど空虚に聞こえた。
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