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3 Another Days

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 ガラスウサギは砕け散っていた。
 彼の身にいったい何があったのだろうか?
 アオイの話では、朝方、野球部員が彼の無残な姿を校庭で発見したらしい。
「いったい誰が?」
 私は思った疑問を素直に口にした。
「ほんとだよね……。でもそれ以上に不思議なのは私たちが帰った後、誰も美術室に入ってないんだ……」
「え?」
「そりゃそうだよね……。ほら、私たち一緒に職員室に鍵返しに行ったじゃん? その後、先生もすぐに帰ったみたいだし、誰も入りようがないんだよ」
 かなり奇妙な話だ。
 普通に考えれば誰かが悪戯したと考えるの自然だと思う。
 しかし、現実的にそれは不可能らしい。
「まるでガラスウサギが自分から飛び出したみたいだね……」
「そうなんだよ! やっぱりあの子動くんじゃない!?」
 それに関して私は何も返さなかった。
 そんな非現実的なことが起こるはずがない。
 そんな非現実的なことが――。

 最後に美術室に入ったということで私とアオイは先生に問い詰められた。
 普段の行いのおかげ(?)でそこまで疑われなかったけれど、先生としても不可解で仕方ないらしい。
「では失礼しまーす……」
 私とアオイは職員室を出ると、しばらく黙って廊下を歩いていた。
 別に空気が重たいわけではないけれど、お互いに何を話して良いのか分からなかった。
 可愛そうだけれど、ガラスウサギは燃えないゴミ行きだろう。
 おそらく、焼却炉横にある割れた蛍光灯と混ざって他のガラスと区別が付かなくなってしまうと思う。
 校庭を見渡せる廊下に差し掛かると、アオイは立ち止まって口を開いた。
「ねえルーちゃん? ちょっと見て欲しいものがあるんだ!」
 アオイはそう言うと私を手招きして美術準備室へと連れて行った。
「なーに?」
 美術準備室に入ると彼女は一枚の画用紙を私に手渡してきた。
「これ……」
「ああ……。そういえば昨日忘れていったね」
 私はその画用紙を受け取る。
 そこに描かれていたのは、昨日私が描いたウサギのイラストだ。
「ちょっと左下見てみて!」
「左下?」
 画用紙には昨日、私が描いたウサギが二匹居た。
 昨日と同じように三日月の下でお月見している。
 何の変哲もないウサギのイラスト。
 ただ一点を除いて。
「これって……。アオイさぁ? これ描いたの?」
 私の問いに彼女は思いきり首を横に振った。
「私描いてない!」
 左下に描かれていたのは透明なウサギだった。
 私が描いたウサギは白ウサギと黒ウサギでそれ以外には描いていない。
 白い画用紙なのに透明という表現は可笑しいかもしれないけれど、それは白ウサギではなく、透明ウサギだった。
 その透明ウサギが透き通っている様子はデッサンの雰囲気から伝わってきた。
 透過した体の向こう側のラインがきちんと描写されている。
「なんか私気持ち悪いよ……。これじゃまるで……」
 アオイは小刻みに震えていた。
 その震えに含まれる感情が恐怖なのは明らかだ。
 しかし……。私はあまり怖いという感情は起きなかった。
 どちらかと言えば、「ああ、やっぱり」という納得に似た感情だ。
 私はアオイを宥めながら、ガラスウサギの行方について考えた。
 彼の体は砕け散ってしまったけれど、今もどこかに居るのかもしれない。
 
 ただ、それだけのことを思った。

 この一件以来、アオイはガラスウサギの話をしなくなった。
 彼女にとってこの出来事は恐怖以外の何ものでもないのだろう。
 私もあえてそんな話はしなかったし、このまま忘れ去られていくだろう……。
 そのときはそんな風に思っていた。

 そんなこともすっかり忘れた頃、私は再び彼に出会うことになる。
 透明で赤い目をした彼に出会ったのは二一歳の秋の出来事だ――。

 
 To be Continue……。
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