幕張地下街の縫子少女 ~白いチューリップと画面越しの世界~

海獺屋ぼの

文字の大きさ
上 下
42 / 49
第六章 ヘリオス幕張

13

しおりを挟む
 百合娃メサの話⑤
 
 六月中旬。私はウェブ上のボイスチャットにB組の中心メンバーを呼び出した。こうして彼らと直接話すのは初めてだ。
『桜井蓮奈。ありがとう。お膳立て感謝する』
 私はボイスチェンジャーを使って桜井蓮奈にそう伝えた。桜井蓮奈はそれに「いえ」と素っ気なく返した。やはり愛想がない。おそらくは少しでもボロが出ないように気を付けているのだろう。
『諸君とこうして話す機会が持てて嬉しく思う。では……。本題に入ろう』
 私はそこまで話すと彼らに添付ファイルを送りつけた。そして『ファイルを開いてくれ』と伝えた。淡々と。感情の起伏が全くないように。
 その後。私はファイル内の文章に沿って計画を説明した。計画内容は至ってシンプル。太田まりあをいじめの主犯に仕立て上げる。それだけだ。
「あの……。このいじめのターゲットの選定はそちらに一任するって言うのは……」
 私の説明が一通り終わると小御門研人にそう聞かれた。私はそれに『そのままの意味だ』と返した。要は太田まりあが破滅すればそれでいいのだ。あの女をいじめの主犯に仕立て上げた後は……。それをネットの海にばらまくだけ。それだけで全て上手くいくと思う。
「分かりました」
 小御門研人は短くそれだけ言った。私はそれに『では九月から計画開始だ。健闘を祈る』と返して通話を終えた。我ながらずいぶん辺鄙なキャラクターになりきっていると思う――。

 その後。私は学校生活とゲーム配信者としての生活。そして脅迫者『自裁の魔女』としての夜の顔を使い分けて過ごした。学校では主に香澄にウザ絡みし、ゲーム配信者としてはFPSゲーマー『百合娃メサ』としてリアルイベントも含めて精力的に活動した。傍から見たらただ単に遊び回っている高校生。そんな風に見えたと思う。
 でも……。そんな中でも私は『自裁の魔女』としての自分を決して緩めなかった。定期的に彼らのLINEにお伺いという名の脅迫も送り続けた。人間の心なんて案外簡単にコントロールできるのだ。特に素行の悪い人間に関しては写真一枚でどうとでもなると思う。
 思えば……。ミクのときもそうだったな。今更ながらそのことを思い出した。中学までミクは私にとっては大切な友達だったのだ。決して裏切らない。私の悩みを自分のことのように思い悩んでくれる。そんな優しい子だと本気で信じていた。まぁ……。それは私がそう思っていただけでただの幻想だったのだけれど。
 ミクは本当に最悪な女だった。今はそう思っている。太田まりあの伝書鳩。その程度の存在だと割り切っている。だからミクのことは私の目の前から消してやったのだ。永遠に戻って来られないように。ネットの海の力を借りて――。

 そうこうしていると花見川高校にも夏休みがやってきた。計画実行まであと一月半。そう思うと胸が躍った。やっと太田まりあも消せる。私の中から完全にアンインストールできる。そして……。花見川高校には平和が訪れる。ハッピーエンド。綺麗な終わり。

 ――と夏休み入りたての私は楽観的に考えていた。
 残念ながらその甘い目算はフジやんがスケープゴートにされたことで崩れてしまったのだけれど。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

友達の母親が俺の目の前で下着姿に…

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
とあるオッサンの青春実話です

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

だんだんおかしくなった姉の話

暗黒神ゼブラ
ホラー
弟が死んだことでおかしくなった姉の話

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

パワハラ女上司からのラッキースケベが止まらない

セカイ
ライト文芸
新入社員の『俺』草野新一は入社して半年以上の間、上司である椿原麗香からの執拗なパワハラに苦しめられていた。 しかしそんな屈辱的な時間の中で毎回発生するラッキースケベな展開が、パワハラによる苦しみを相殺させている。 高身長でスタイルのいい超美人。おまけにすごく巨乳。性格以外は最高に魅力的な美人上司が、パワハラ中に引き起こす無自覚ラッキースケベの数々。 パワハラはしんどくて嫌だけれど、ムフフが美味しすぎて堪らない。そんな彼の日常の中のとある日の物語。 ※他サイト(小説家になろう・カクヨム・ノベルアッププラス)でも掲載。

処理中です...