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第六章 ヘリオス幕張

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 百合娃メサの話②

 四月上旬。私は花見川高校の体育館で理事長のつまらない挨拶を聞いていた。これから新生活が始まるというのに憂鬱だ。何が『高校生としての自覚を持って服飾業界の未来を背負えるような人物になってください』だ。ロイヤルヴァージンの犬のクセに偉そうに。……と腹の中で毒づいた。もちろん口には出さない。表面上は「わー! 今日から高校生だね。楽しみぃ キャピっ」を装う。
 そうやって私が思いきり猫を被っていると隣のクラスの最前列に太田まりあの姿を見つけた。長い黒髪にすらっとした長身。色白で均整の取れた顔立ち。間違いない。私を中学時代にこけにしたあの女だ。
「ちょっと千歳ちゃん! もう退場だってよ」
 私が太田まりあに気を取られていると不意に香澄にそう声を掛けられた。私はそれに「あ、うん」と軽く返した。これから私の仕込んだ爆弾の起爆スイッチが押される。そう考えると妙に楽しい気持ちになった。まぁ……。その爆弾の被害を受ける中には香澄も含まれているので少し申し訳ない気持ちにもなるのだけれど――。

「ごきげんよう」
 入学式後。体育館の外に出ると香澄が太田まりあに声を掛けられた。太田まりあの声はどことなく震えて聞こえる。どうやら上手いこと起爆スイッチは作動したようだ。
「え? ああ、どうも……。初めましてだよね」
 香澄はそう言うと営業スマイルを太田まりあに向けた。そして「初めまして。鹿島香澄です。太田さんだよね? 叔父がいつもお世話になってます」と礼儀正しく挨拶した。香澄は昔からこういうところがきっちりしているのだ。大人びているというか……。ハッキリ言って社会的に老け込んでいると思う。
「初めまして」
 太田まりあは自己紹介にそう返すとキッと香澄を睨んだ。そして「随分と猫被るのが上手いのね」と続ける。
「猫? へ?」
「ええ、猫よ。猫かぶり。まったくあなたみたいなのが可愛い顔して近づいてくるんだから嫌になるわ」
 太田まりあは不躾な言い方をすると続けて「あんまり調子に乗らないことね。大したセンスもない叔父様がいるからってそこまで偉くないわ」と言った。ここまで言わせれば作戦成功だ。
 でも……。私の予想に反して香澄がそれに激高してしまった。そして香澄は太田まりあをコテンパンに言い負かしてしまった――。

 私が仕込んだ爆弾。それはB組の中にハトを放すことだった。そしてそのハトを使って太田まりあに香澄の悪評を吹き込んだ。具体的には「A組の鹿島さんがまりあちゃんのお父さんのことバカにしてたよ。金儲けしかできないぼんくらだって笑ってた。あの子あんな風にしててすごく性格悪いよね。ちょっと縫製上手いからって調子乗ってるんだよ」という程度の低い悪口だ。我ながら完璧な文面だと思う。小説家になれるかな? そんな馬鹿げたことを思うほどに。
 そしてその文言を一字一句間違えることなく聞いた太田まりあは香澄に喧嘩を売りに来たわけだ。まぁ……。それに対して香澄があそこまで応戦するとは流石に読み切れなかったのだけれど。
 ともかく私はそうやって太田まりあと香澄を冷戦状態にした。これは私が花見川高校に入る前から計画していたことだ。だって……。私の大切な香澄があの女と楽しげに笑うとこなんて見たくなかったから――。

 その後。私は太田まりあへの復讐と並行して楽しい(笑)学校生活を送った。そして程なくしてゲーム仲間のフジやんが同じ学校だということが判明した。
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