幕張地下街の縫子少女 ~白いチューリップと画面越しの世界~

海獺屋ぼの

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第六章 ヘリオス幕張

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 百合娃メサの話①

 百合娃メサ。それが私のネット上での名前だ。元ネタは古代ローマのユリア・メサ。暗君ヘリオガバルスの祖母にして彼をローマ皇帝に据えた希代の悪女。私はそんな世間体最悪な名前を選んだ。理由は悪ければ悪いほど良い。そう思ったからだ。だって……。私は自覚があるほど性格の悪い女だから。
 思えば私は幼い頃からこんな性格だった。自分の障害になるであろう人間を陥れては目の前から排除してきた。最悪なことに私にはそれができたのだ。老若男女問わず全員を騙す。それは私にとってはソシャゲのデイリークエストを消化するよりずっと簡単なことだった――。

 今年の四月のことだ。私は花見川服飾高等専修学園に入学した。狙おうと思えばもう少し上のランクの学校にも受かったけれどそれはしなかった。花見川高校くらいが私の性には合っていたのだ。ゲーム配信の継続と母親のご機嫌取り。その両方ができるこの選択はある意味完璧だったと思う。
 ただ……。花見川高校に入って一つだけ誤算があった。そしてそれは再び私の障害物排除センサーを起動させた――。

 太田まりあ。それが私の新たな障害だった。そして私はこの女のことを中学時代からよく知っていた。総合アパレルメーカー『ロイヤルヴァージン』の一人娘にしてゆくゆくはそこの経営者になるであろう人間。そんなウィキペディアにだって書いてありそうな情報以上に知っていた。それこそ飼っている猫の名前から通っている美容室まで。全部知っていた。全部一人で調べ上げたのだ。我ながら異常だと思う。まともな人間じゃないと思う。でも……。私はそれを躊躇なく熟すことができた。たぶん頭のネジが最初から何本か足りないのだと思う。
 なぜそんなことをしたか? それに答えるにはそれなりに長い話をしなければいけないと思う。それこそ短編小説一本書けるくらい。それぐらい長い話なるはずだ。
 なのでここでは簡単にX(旧ツイッター)風に一四〇文字以内でまとめようと思う。ネットの海を漂う鬼女らしく。ネットの流儀に従って。

『中学時代に付き合っていた彼氏を寝取られた。しかもそのやり方が最低。マジ胸くそ悪かった。あの女はガチのクソ女だ。私のとこにハト飛ばして情報収集してやがった。絶対許さない。絶対絶対絶対。太田まりあもそのハト女も。後悔させて私の目の前から永遠に消してやる。ばーかばーか。地獄に落ちろ。』

 って感じだ。我ながら幼稚なツイート……。いや失礼。ポストだと思う。
 ともかく私はそこまで憎んだ女と同じ高校を選んでしまったのだ。前情報の『太田まりあはRVの息の掛かった花見川高校を避けて都内の私立高校に進学する』というネタはどうやら誤報だったらしい。肝心なとこで致命的なガセネタを掴まされた。マジでクソ。最低最悪。そう思った。
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