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第六章 ヘリオス幕張
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――私はそこまで話すと「思えばあの頃からあの子はリアルよりネットの方が大事だった気がするよ」と続けた。これは私が以前から千歳ちゃんに対して思っていたことだ。リアルの世界には淡泊な彼女もネット上の人間関係にはやたら気を揉んでいたような気がする。
そうこうしていると車は細い道に入った。ここまで来ればヘリオスまであと五分足らずで着くと思う。
「それで……。そのあとどうなったの?」
私がそんなことを考えていると太田さんにそう聞かれた。心なしか彼女の肩は震えているように見える。
「ああ、途中だったね。……そのあと新学期になってさ。それで学校行ったらミクちゃんがいなくなってた。あれはちょっと不気味だったよ。だって誰もそのことに触れようともしないんだもん。まるで『鈴木未来なんて始めからはいなかった』って感じでさ」
私がそこまで話すと太田さんが「きゃあぁぁ!」と悲鳴に近い叫び声を上げた。そしてすぐに助手席に座っていた女性(おそらく太田家のメイドの水原さん)に後ろから抱きついた。まるで絶叫マシンに乗って泣き叫ぶ子供みたいに。太田さんの顔は完全に怯えきっているように見える。
水原さんはそれに動じることなく「長谷川さん。車停めて」と運転手の長谷川さんに淡々と伝えた。そして車はヘリオス間近の路上に停車した――。
それから太田さんと水原さんは二人きりで車から降りた。原因は分からないけれどただ事ではない。それだけは分かる。
「主人が失礼しました。少しすれば戻ってくると思いますので……。少々お待ちください」
長谷川さんはそう言うと申し訳なさそうに頭を下げた。彼のその態度から察するに太田家内でこうなるのはさして珍しいことではないようだ。
「分かりました……」
私はそれだけ返すとゆっくりと目を閉じた。疲れた。心の中でそう呟いた――。
それから一五分後。二人が戻ってきた。そして車に乗るなり太田さんは「ごめんなさい」と申し訳なさそうに頭を下げた。どうやらさっきよりは落ち着いたようだ。
「それはいいけど……。大丈夫?」
「ええ。もう大丈夫……。ただちょっと驚いてしまって……」
太田さんはそう言うと口元に手を当てた。そしてギュッと目を閉じると身震いした。もうワケが分からない。私の話のどこにそこまで動揺する要素があったのだろう?
そうこうしているとさっきまで空気だった澪ちゃんが「マリー。もし良かったら話してくれない?」と口を開いた。普段の澪ちゃんの口調だ。どうやら彼女も平常運転に戻ったらしい。
「ええ……」
太田さんはそれに短く答えた。そして拳を強く握ると意を決したように口を開く。
「鹿島さん。私知ってるんだ。その……。ミクちゃんって子」
「ふぇ? そうなの?」
「うん。中学校のとき塾が同じだったの」
太田さんはそう言うと首を大きく横に振った。そして続ける。
「それでね。中二の一二月までよく遊んでたんだけど……。年が明けたら連絡つかなくなったの……」
太田さんはそこまで話すと水原さんに目配せした。すると水原さんが「ええ」と答える。
「ミクさんの件に関しては私どもの方で調査させていただきました。結果としてはあまり芳しいものではありませんでしたが……」
水原さんはそこで言葉を句切った。そして「現在彼女は消息不明です。ご両親は未だに探しているようですがおそらくもう……」と続けた――。
そうこうしていると車は細い道に入った。ここまで来ればヘリオスまであと五分足らずで着くと思う。
「それで……。そのあとどうなったの?」
私がそんなことを考えていると太田さんにそう聞かれた。心なしか彼女の肩は震えているように見える。
「ああ、途中だったね。……そのあと新学期になってさ。それで学校行ったらミクちゃんがいなくなってた。あれはちょっと不気味だったよ。だって誰もそのことに触れようともしないんだもん。まるで『鈴木未来なんて始めからはいなかった』って感じでさ」
私がそこまで話すと太田さんが「きゃあぁぁ!」と悲鳴に近い叫び声を上げた。そしてすぐに助手席に座っていた女性(おそらく太田家のメイドの水原さん)に後ろから抱きついた。まるで絶叫マシンに乗って泣き叫ぶ子供みたいに。太田さんの顔は完全に怯えきっているように見える。
水原さんはそれに動じることなく「長谷川さん。車停めて」と運転手の長谷川さんに淡々と伝えた。そして車はヘリオス間近の路上に停車した――。
それから太田さんと水原さんは二人きりで車から降りた。原因は分からないけれどただ事ではない。それだけは分かる。
「主人が失礼しました。少しすれば戻ってくると思いますので……。少々お待ちください」
長谷川さんはそう言うと申し訳なさそうに頭を下げた。彼のその態度から察するに太田家内でこうなるのはさして珍しいことではないようだ。
「分かりました……」
私はそれだけ返すとゆっくりと目を閉じた。疲れた。心の中でそう呟いた――。
それから一五分後。二人が戻ってきた。そして車に乗るなり太田さんは「ごめんなさい」と申し訳なさそうに頭を下げた。どうやらさっきよりは落ち着いたようだ。
「それはいいけど……。大丈夫?」
「ええ。もう大丈夫……。ただちょっと驚いてしまって……」
太田さんはそう言うと口元に手を当てた。そしてギュッと目を閉じると身震いした。もうワケが分からない。私の話のどこにそこまで動揺する要素があったのだろう?
そうこうしているとさっきまで空気だった澪ちゃんが「マリー。もし良かったら話してくれない?」と口を開いた。普段の澪ちゃんの口調だ。どうやら彼女も平常運転に戻ったらしい。
「ええ……」
太田さんはそれに短く答えた。そして拳を強く握ると意を決したように口を開く。
「鹿島さん。私知ってるんだ。その……。ミクちゃんって子」
「ふぇ? そうなの?」
「うん。中学校のとき塾が同じだったの」
太田さんはそう言うと首を大きく横に振った。そして続ける。
「それでね。中二の一二月までよく遊んでたんだけど……。年が明けたら連絡つかなくなったの……」
太田さんはそこまで話すと水原さんに目配せした。すると水原さんが「ええ」と答える。
「ミクさんの件に関しては私どもの方で調査させていただきました。結果としてはあまり芳しいものではありませんでしたが……」
水原さんはそこで言葉を句切った。そして「現在彼女は消息不明です。ご両親は未だに探しているようですがおそらくもう……」と続けた――。
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