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第五章 珈琲と占いの店 地底人
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その後。私は澪ちゃんを責めたい気持ちを無理矢理押し込んで太田さんの斜め向かいの席に座った。そして澪ちゃんは私の正面、つまり太田さんの隣に腰を下ろした。これじゃ二対一じゃないか。今から学級委員長二人に尋問でもされるのか? 私って最近何か悪いことしたっけ? と怒りと疑問を覚える。
「まず……。香澄ちゃんだまし討ちするような真似してごめんね。怒ってるよね?」
「うん……」
「だよね……。でも悪いけど今はそれどころじゃないんだ。だから――」
澪ちゃんがそこまで言い掛けるとそれを遮るように太田さんが澪ちゃんの前に手を差し入れた。そして「澪。ここからは私が」と言って私の方を向いた。こうして太田さんの顔を間近で見るのは入学式以来だ。
「まず……。入学式の日のことを謝らせて貰うわ。本当にごめんなさい。あまりにも思慮が足りない言い方だったと思う」
太田さんはそう言って深々と頭を下げた。そして「許してとは言えないけれど今日は話だけでも聞いて欲しいの」と続ける。
「……はぁ。分かったよ。太田さん顔を上げて。あの日のことも許すから」
私はそう返すと太田さんが顔を上げやすいように彼女の側頭部に軽く手を添えた。そして澪ちゃんに向かって「澪ちゃんは今んとこ許さないけどね」と言って再び睨んだ。これは簡単には許せないのだ。私の信頼を裏切って逃げ道を塞ぐ行為は……。あまりにも卑劣だと思う。
「ごめんって……」
「ううん。許さないよ? ってか澪ちゃん私のこと舐めてるよね? だまし討ちしてさ」
「……」
「あー! だんまりだよ。あのさぁ。澪ちゃん私のこと見くびってるよね? 太田さんの話したら逃げ出すって? 舐めないでよね。これでも……。何かあれば話す覚悟ぐらいはあるんだから――」
その後。私は澪ちゃんを五分間ほど詰めた。我ながら意地が悪い。そんな詰め方をした。でもこれぐらいしないと私の気が収まらないのだ。まぁ……。途中からは怒りが収まってきて最後はただの八つ当たりみたいになったのだけれど。
「――澪ちゃんが色々抱え込んでるのは分かるよ? でもだまし討ちはダメじゃん。だからこれからはちゃんと正直に言ってね?」
「はい、分かりました。もうだまし討ちとかしません」
澪ちゃんは最後にそう返すと子猫みたいな目をして項垂れた。余程私に詰められたのが堪えたらしい。
「それで太田さん? 話って?」
お説教タイムが一通り終わると私は太田さんに話を振った。待たせちゃったかな……。と少しだけ申し訳ない気持ちになる。
「うん」
太田さんはそれだけ言うとゆっくりと口を開いた。地底人の壁の鳩時計は間もなく一八時を指そうとしていた――。
鳩時計から鳩が飛び出した。そして鳩が時を告げ終わると再び地底人内には静寂が訪れた。この店は昔から異常なほど静かなのだ。たぶんそれはここが地下街開設当時はマッサージ屋だったからだと思う。完璧すぎる防音設備。そのせいで店外の音がほとんど漏れ聞こえないのだろう。
「どこから話そうかしら……」
太田さんはそう言うと口元に手を当てた。そして困ったように眉間に皺を寄せる。
「ゆっくりでいいよ。今日はどうせ帰ってもやることないから」
「そう? じゃあ……」
太田さんは私の言葉にそう返すと二秒ほど目を閉じた。そしてB組で今起きていることについて語り始めた――。
「まず……。香澄ちゃんだまし討ちするような真似してごめんね。怒ってるよね?」
「うん……」
「だよね……。でも悪いけど今はそれどころじゃないんだ。だから――」
澪ちゃんがそこまで言い掛けるとそれを遮るように太田さんが澪ちゃんの前に手を差し入れた。そして「澪。ここからは私が」と言って私の方を向いた。こうして太田さんの顔を間近で見るのは入学式以来だ。
「まず……。入学式の日のことを謝らせて貰うわ。本当にごめんなさい。あまりにも思慮が足りない言い方だったと思う」
太田さんはそう言って深々と頭を下げた。そして「許してとは言えないけれど今日は話だけでも聞いて欲しいの」と続ける。
「……はぁ。分かったよ。太田さん顔を上げて。あの日のことも許すから」
私はそう返すと太田さんが顔を上げやすいように彼女の側頭部に軽く手を添えた。そして澪ちゃんに向かって「澪ちゃんは今んとこ許さないけどね」と言って再び睨んだ。これは簡単には許せないのだ。私の信頼を裏切って逃げ道を塞ぐ行為は……。あまりにも卑劣だと思う。
「ごめんって……」
「ううん。許さないよ? ってか澪ちゃん私のこと舐めてるよね? だまし討ちしてさ」
「……」
「あー! だんまりだよ。あのさぁ。澪ちゃん私のこと見くびってるよね? 太田さんの話したら逃げ出すって? 舐めないでよね。これでも……。何かあれば話す覚悟ぐらいはあるんだから――」
その後。私は澪ちゃんを五分間ほど詰めた。我ながら意地が悪い。そんな詰め方をした。でもこれぐらいしないと私の気が収まらないのだ。まぁ……。途中からは怒りが収まってきて最後はただの八つ当たりみたいになったのだけれど。
「――澪ちゃんが色々抱え込んでるのは分かるよ? でもだまし討ちはダメじゃん。だからこれからはちゃんと正直に言ってね?」
「はい、分かりました。もうだまし討ちとかしません」
澪ちゃんは最後にそう返すと子猫みたいな目をして項垂れた。余程私に詰められたのが堪えたらしい。
「それで太田さん? 話って?」
お説教タイムが一通り終わると私は太田さんに話を振った。待たせちゃったかな……。と少しだけ申し訳ない気持ちになる。
「うん」
太田さんはそれだけ言うとゆっくりと口を開いた。地底人の壁の鳩時計は間もなく一八時を指そうとしていた――。
鳩時計から鳩が飛び出した。そして鳩が時を告げ終わると再び地底人内には静寂が訪れた。この店は昔から異常なほど静かなのだ。たぶんそれはここが地下街開設当時はマッサージ屋だったからだと思う。完璧すぎる防音設備。そのせいで店外の音がほとんど漏れ聞こえないのだろう。
「どこから話そうかしら……」
太田さんはそう言うと口元に手を当てた。そして困ったように眉間に皺を寄せる。
「ゆっくりでいいよ。今日はどうせ帰ってもやることないから」
「そう? じゃあ……」
太田さんは私の言葉にそう返すと二秒ほど目を閉じた。そしてB組で今起きていることについて語り始めた――。
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