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第四章 株式会社ニンヒアレコード 新宿本社

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 放課後。私は担任の仁科先生に公休申請するために職員室へ向かった。
「――というわけで急ですいませんが明日公休いただけますか?」
 私は一通り事情を説明すると仁科先生にそう尋ねた。先生はそれに「ああ、いいよ」と一つ返事で許可をくれた。この手の相談になると花見川高校は融通が利くのだ。ここまで緩くて平気なのか? むしろそんな風に心配になる。
「それはそうと……。鹿島、ちょっと話せるか?」
 仁科先生はそう言いながら申請書に捺印した。そして「すぐ終わるから」と続ける。
「ええ、いいですよ」
「よし。んじゃとりあえず……。用務員室にでも行くか」
 それから私たちは職員室を出てすぐ隣の用務員室へ向かった。そして部屋に入ると仁科先生は流しに置いてある急須を手に取って「適当なとこに座って待ってて」と言った。用務員さんの姿はない。おそらくこの時間は校内のゴミ集めをしているのだと思う。
「蔵田さんは元気してるか?」
 仁科先生はそう言うと私の前にお茶を出してくれた。私はそれに「いただきます。叔父は……。相変わらずです」と答えた。口ぶりから察するにどうやら先生も叔父と面識があるらしい。
「そうかそうか。俺もなぁ。あの人には昔から世話になってんだ。なんせ花高の大先輩だからさ」
「……そうだったんですか?」
「あれ? 訊いてないのか? だって鹿島が入学したとき蔵田さん電話くれたんだぞ? 『手間の掛かる娘だけど良い子だからよろしく頼む』って」
 仁科先生はそう言うと目を細めて笑った。その顔は普段の先生より少しだけ若く見える。
「知りませんでした……」
「そっか。まぁ……。たぶん蔵田さん照れくさかったんじゃないかな? ほら、あの人普段はあんなだろ? だから姪っ子の心配してるなんて思われたくなかったんだろうよ」
 仁科先生はそう言うとお茶を一口啜った。そして「あの人も相変わらずだな」と懐かしそうな笑みを浮かべた。また叔父さんの関係者が増えた。最近はこんなんばっか。……と内心思う。
「しかし……。お前も大変だよなぁ。蔵田さんとこでバイトしてんだろ?」
「ええまぁ。そうですね。今は週四くらいで店に出てます」
「そっか。まぁあんまり無理はすんなよ。お前は成績も良いしバイトをとやかく言うつもりはないけど……。若いからって寝ないなんてのはダメだからな」
 仁科先生はそんな風にとても先生っぽいことを言うと「ふぅ」と軽いため息を吐いた。それから「じゃあ本題だ」と言って咳払いをした。そして話を続ける。
「鹿島。B組の藤岡のことは知ってるよな? 今あいつに起きてることについても」
「……はい。知ってます」
「だよな。まぁ察してるだろうけど俺はこの件を奥寺から聞いたんだ。いやぁ、正直参ったよ。なんせ石川ちゃんのクラスの問題だからなぁ」
 仁科先生はそう言うと首を大きく横に振った。そして「それでさ」と矢継ぎ早に続ける。
「一応今後の話をすると藤岡はA組にクラス替えになる。まだ本決まりじゃないけど……。まぁほぼほぼ確定だな。で、カリキュラムの不足分は放課後に埋め合わせって感じになるかな?」
「……急ですね」
「ああ、まぁな。でも仕方ないんだ。今はこれが最善策だからな。……つってもこのこと考えてきたのほとんど奥寺の奴なんだけどな」
 仁科先生はそう言うと苦笑いを浮かべた。そして「ほんと。奥寺の考えはいつも規格外だよ」と皮肉交じりに笑う。
「……それで? 先生は私に何をさせたいんですか? 職員室から出てまで話すってことは何か藤岡くん絡みでさせたいことがあるんでしょ?」
「そう! いやぁ鹿島。お前は話が早くて助かるよ。実はな――」
 仁科先生はそう言うとニヤァと嫌な笑みを浮かべた。また何か面倒ごとか……。ただでさえトライメライの納期があるのに最悪。そんなことを思った――。
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