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第三章 ロイヤルヴァージン

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 お昼休み。私は澪ちゃんと千歳ちゃんと三人で新館の屋上へ向かった。
「澪ちんとお昼なんてひさびさだねぇ」
「だねー。そういえば羽田さんのチャンネル見たよ。一人ホームラン競争は笑った」
「マジ!? ちょー嬉しいんだけどー」
 移動中。二人はそんな風に談笑していた。この子たちは話せば普通に仲が良いのだ。絡みが少ないだけで相性自体は悪くないのだと思う。
「そういえば……。かすみんが購買で買うの珍しいね? 今日はお弁当なっしんぐ?」
「うん。最近買い出し行けてなくてさ……。だから今日ぐらいは良いかなぁって」
「そっかぁ。かすみんはバイトと課題で忙しそうだもんね」
 千歳ちゃんはそう言うとポケットからスマホを取り出した。そして「記念撮影しようぜ」とスマホのカメラを自撮りモードにした。相変わらず行動に脈絡がなさ過ぎる。
「ちょっと……。千歳ちゃん。澪ちゃんもいるんだから」
 私はそう言って彼女を窘めた。でも澪ちゃんは「アハハ、いいよ私は」と笑って右手でピースサインを作った。澪ちゃんは優等生なのに意外と悪ノリにも付き合ってくれるのだ。たぶん私なんかよりずっと陽キャなのだと思う。
 そうこうしていると新館の屋上に到着した。ここは花見川高校内でも最新の施設で生徒たちの憩いの場だ。人工芝の広いテラスと購買部。それらがまるで都心にあるオフィスの福利厚生施設みたいに綺麗に整備されている。
「今日は何食べようかなぁ」
 澪ちゃんはそう言って購買部のお弁当コーナーを物色し始めた。お弁当コーナーにはのり弁やら焼きそばパンやら紙パックのレモンティーやら……。そんな学校の購買らしいメニューが並んでいる。
「ウチは焼きそばパンにしようかな。ソース味食べたい気分だし」
「いいねぇ。私は……。ガッツリ系にしようかな」
 澪ちゃんはそう言うと大盛りのり弁に手を伸ばした。そして店員さんに「あとミルクティーください」と言って小銭を渡した。澪ちゃんはその華奢な見た目に反してよく食べる子なのだ。
「じゃあ私は……。オムライスにするー」
「お、かすみんナイスチョイスじゃん」
 私がオムライスを買うと千歳ちゃんはそう言って笑った。彼女の手には焼きそばパンとルイボスティー。今日も減量中のボクサーみたいに小食だ。
「今日も少ないね」
「ん? ああ、ウチ小食だから気にしないで」
 それから私たちはテラスにあるパラソル付きのテーブルで昼食を摂った。こうして三人揃ってお昼ご飯を食べるのは初めてかも知れない。
「澪ちんいいなぁ。めっちゃ代謝いいでしょ?」
 焼きそばパンを早々に平らげた千歳ちゃんは澪ちゃんにそう尋ねた。
「うーん……。たぶんこれお母さんの遺伝なんだよね。食べても太れないっていうか……。だから健康的に痩せてるのとはちょっと違う気がするよ」
「そっかぁ。澪ちんは澪ちんで大変なんだね。……ま、ウチの場合は食うとすぐにデブデブだからちょい羨ましいけど」
 千歳ちゃんはそう言うと私に「ウチの中学時代デブだったよねぇ」と話を振った。私はそれに「そうでもないんじゃない?」と軽く返した。実際千歳ちゃんは中学時代からそこまで太ってはいなかったはずだ。確かに今ほど細くはなかったけれど、それはそれで可愛らしかったと思う。
「ミオー!」
 私たちがそんな話をしていると遠くから澪ちゃんを呼ぶ声が聞こえた。そしてその声の主を見て私と千歳ちゃんは固まった。タイミング的に今一番会いたくない相手。太田まりあだ。
「あ! マリー!」
 私たちのそんな思いを余所に澪ちゃんは太田さんに駆け寄って行った。そして一言二言話すとすぐに私たちのところに戻ってきた。その様子から見るに澪ちゃんは普段から太田さんとは割と仲が良いらしい。
「澪ちんってお嬢と仲良いんだね」
 澪ちゃんが戻ってくると千歳ちゃんが独り言みたいに呟いた。それに対して澪ちゃんは「うーん。ま、そうだね。普通に話はするよ」と返した。おそらく澪ちゃん自身分かってはいるのだ。太田まりあ。彼女の後ろ暗い部分について。
「香澄ちゃんと羽田さんは……。マリーとは色々あったもんね」
 澪ちゃんはそう言うと紙パックのミルクティーをストローで啜った。そして「あの子は我が強いからねぇ」と続ける。
「いや……。まぁそうね。色々あったよ。つーか現在進行形であるよ」
 千歳ちゃんは含みのある言い方をすると不服そうに頬杖をついた。澪ちゃんは好きだけれど太田さんとは仲良くして欲しくない。暗にそう示しているように見える。
 千歳ちゃんのその態度を見て澪ちゃんは「うーん」と唸った。そして「確かに羽田さんとマリーは相性悪いかもね」と言った。だいぶオブラートに包んだ言い方だ。相性が悪いどころの話ではないというのに。
「澪ちゃんは太田さんとは学校以外でも会ったりする?」
「学校の外だと……。あんまり会わないかな? 一回だけあの子の実家お邪魔したけど、アレは委員長会としてお邪魔しただけなんだよね。RVの社長に挨拶しなきゃだったからさ」
 澪ちゃんはそう言うと左手の腕時計に視線を落とした。そして「確かあのときは……」と太田さんの家に行ったときの話を訊かせてくれた。
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