57 / 70
第三章 秋川千鶴の場合
28
しおりを挟む
ラッコは自身を『ラッコ』と名乗った。彼(どうやらオスらしい)の話を信じるなら文芸作家をしているらしい。井の頭公園近くの貯水池に作家を生業にしているラッコがいる。まるでファンタジーみたいな話だ。
「雪乃は僕の友達なんだ」
そう言うとラッコは水原さんの髪を撫でた。残念ながら水原さんの意識はもうない。ここに着いてすぐに眠ってしまったのだ。さすがにこんな場所で眠るのはどうかと思うけれど。
「そうなんだ」
私はごくつまらなく返答した。家族が親戚の話題を出したときにするリアクション。それに近いと思う。
「うん。この子はすごく素直な子なんだ。小さい頃から僕に懐いてくれてね。そうだね……。だいたい一五年くらいの付き合いかな」
一五年。確か水原さんのの年齢は二五歳だから小学生の頃からの付き合いってことか。と私は小学生の算数のように計算をした。特に意味は無い。
「そんな昔からの付き合いなのね」
「そうだね。僕がここに来て五年目くらいだったかな? あの頃の雪乃の身体は今よりもずっと小さかった。僕の身体と大差なかったからね」
「まぁ小学生だしね」
「そうそう。ま、それから二年くらいですっかり追い越されたけどね」
そう言うとラッコは「ふわぁぁ」という奇妙な笑い声を上げた。そして毛繕いでもするように前足で脇腹を掻いた。本当に獣の動きのそれだ。日本語を話さなければ普通のラッコだと思う。
「ねぇ? ちょっと聞いてもいいかしら?」
「何だい?」
「気を悪くしたらごめんなさいね。どうして話せるのかなぁって……」
私は最初に思ったことをストレートに彼にぶつけた。これ以上の疑問はないと思う。どうして作家をしているだとか、なぜ東京に住んでいるだとかはそれに比べれば些細なことだと思う。
「ああ……。そうだよね。普通はそれが気になるよね」
ラッコは苦笑いのような表情を浮かべた。
「うん。失礼を承知で言うけど普通のラッコはしゃべらないと思うの」
「ふわぁぁ。そりゃそうだ。ふわぁぁ」
ラッコは私の質問が余程面白かったのか、例の奇妙な笑いを何回も繰り返した。
「ふむ。じゃあどこから話そうかなぁ」
ラッコは勿体ぶりながら自身の頬を擦ると「うん」と言って話し始めた。
「雪乃は僕の友達なんだ」
そう言うとラッコは水原さんの髪を撫でた。残念ながら水原さんの意識はもうない。ここに着いてすぐに眠ってしまったのだ。さすがにこんな場所で眠るのはどうかと思うけれど。
「そうなんだ」
私はごくつまらなく返答した。家族が親戚の話題を出したときにするリアクション。それに近いと思う。
「うん。この子はすごく素直な子なんだ。小さい頃から僕に懐いてくれてね。そうだね……。だいたい一五年くらいの付き合いかな」
一五年。確か水原さんのの年齢は二五歳だから小学生の頃からの付き合いってことか。と私は小学生の算数のように計算をした。特に意味は無い。
「そんな昔からの付き合いなのね」
「そうだね。僕がここに来て五年目くらいだったかな? あの頃の雪乃の身体は今よりもずっと小さかった。僕の身体と大差なかったからね」
「まぁ小学生だしね」
「そうそう。ま、それから二年くらいですっかり追い越されたけどね」
そう言うとラッコは「ふわぁぁ」という奇妙な笑い声を上げた。そして毛繕いでもするように前足で脇腹を掻いた。本当に獣の動きのそれだ。日本語を話さなければ普通のラッコだと思う。
「ねぇ? ちょっと聞いてもいいかしら?」
「何だい?」
「気を悪くしたらごめんなさいね。どうして話せるのかなぁって……」
私は最初に思ったことをストレートに彼にぶつけた。これ以上の疑問はないと思う。どうして作家をしているだとか、なぜ東京に住んでいるだとかはそれに比べれば些細なことだと思う。
「ああ……。そうだよね。普通はそれが気になるよね」
ラッコは苦笑いのような表情を浮かべた。
「うん。失礼を承知で言うけど普通のラッコはしゃべらないと思うの」
「ふわぁぁ。そりゃそうだ。ふわぁぁ」
ラッコは私の質問が余程面白かったのか、例の奇妙な笑いを何回も繰り返した。
「ふむ。じゃあどこから話そうかなぁ」
ラッコは勿体ぶりながら自身の頬を擦ると「うん」と言って話し始めた。
0
お気に入りに追加
7
あなたにおすすめの小説
アルバートの屈辱
プラネットプラント
恋愛
妻の姉に恋をして妻を蔑ろにするアルバートとそんな夫を愛するのを諦めてしまった妻の話。
『詰んでる不憫系悪役令嬢はチャラ男騎士として生活しています』の10年ほど前の話ですが、ほぼ無関係なので単体で読めます。
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
実力を隠し「例え長男でも無能に家は継がせん。他家に養子に出す」と親父殿に言われたところまでは計算通りだったが、まさかハーレム生活になるとは
竹井ゴールド
ライト文芸
日本国内トップ5に入る異能力者の名家、東条院。
その宗家本流の嫡子に生まれた東条院青夜は子供の頃に実母に「16歳までに東条院の家を出ないと命を落とす事になる」と予言され、無能を演じ続け、父親や後妻、異母弟や異母妹、親族や許嫁に馬鹿にされながらも、念願適って中学卒業の春休みに東条院家から田中家に養子に出された。
青夜は4月が誕生日なのでギリギリ16歳までに家を出た訳だが。
その後がよろしくない。
青夜を引き取った田中家の義父、一狼は53歳ながら若い妻を持ち、4人の娘の父親でもあったからだ。
妻、21歳、一狼の8人目の妻、愛。
長女、25歳、皇宮警察の異能力部隊所属、弥生。
次女、22歳、田中流空手道場の師範代、葉月。
三女、19歳、離婚したフランス系アメリカ人の3人目の妻が産んだハーフ、アンジェリカ。
四女、17歳、死別した4人目の妻が産んだ中国系ハーフ、シャンリー。
この5人とも青夜は家族となり、
・・・何これ? 少し想定外なんだけど。
【2023/3/23、24hポイント26万4600pt突破】
【2023/7/11、累計ポイント550万pt突破】
【2023/6/5、お気に入り数2130突破】
【アルファポリスのみの投稿です】
【第6回ライト文芸大賞、22万7046pt、2位】
【2023/6/30、メールが来て出版申請、8/1、慰めメール】
【未完】
月の後宮~孤高の皇帝の寵姫~
真木
恋愛
新皇帝セルヴィウスが即位の日に閨に引きずり込んだのは、まだ十三歳の皇妹セシルだった。大好きだった兄皇帝の突然の行為に混乱し、心を閉ざすセシル。それから十年後、セシルの心が見えないまま、セルヴィウスはある決断をすることになるのだが……。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
【完結】私だけが知らない
綾雅(要らない悪役令嬢1/7発売)
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。
優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。
やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。
記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。
【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ
2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位
2023/12/19……番外編完結
2023/12/11……本編完結(番外編、12/12)
2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位
2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」
2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位
2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位
2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位
2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位
2023/08/14……連載開始
世界の終わりに、想うこと
鈴木りんご
ライト文芸
日本時間の十月十四日午前十一時四十八分、三時間後に世界が終わることが発表された。後たった三時間で世界は終わる。そんな終わる世界の物語。
ただこの世界には,大きな秘密がある。
一話完結の連作形式。すべての物語は最終話に収束する。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる